番号ポータビリティやMVNO--新たな潮流がモバイル業界に与えた影響とは - (page 2)

木村潤(モバイル・コンテンツ・フォーラム)2006年12月06日 16時54分

MNPの本当の勝者は

 キャリア変更時の手数料やメールアドレスの変更がともなう点などは、MNPの大きな阻害要因だった。そのようなマイナス面の強調もあって、ユーザーの利用意向が低調だというアンケート結果も報告されていた。

 ところが、MNP開始直前のソフトバンクの「予想外」な価格施策の発表が、市場に大きな話題と少なからず混乱をもたらしたことは記憶に新しい。果敢に、業界の古い価格政策に風穴を開けるべく行動した孫氏のチャレンジ精神を評価する声は多いが、いかんせん、旧ボーダフォンから受け継いだ基盤はMNPに対して準備が万全だったとはいかなかったようだ。

 結果として、最終ユーザーに多くのツケが回った形でMNPに対する不信感を増長させたとしたならば残念なことだ。しかし、ユーザーというものは意外と冷静でタフなもので、マスコミが煽るほどには悪影響は受けていない、との見解もあり、端末販売の現場においてはソフトバンク陣営が健闘しているとの評判も聞こえてきている。ソフトバンクはここにきて何とか体制を建て直しながら、自ら吹きつのらせた感もあるMNP導入の嵐を乗り切ろうとしている様にも見える。

 本稿執筆時においては、10月末日の状況及びその後の商戦を観察した結果は、最近のブランド戦略の成功を追い風としたauの1人勝ち状態。ドコモは地方における苦戦も大きく影響して予想通り低迷、話題をふりまいたソフトバンクも苦戦が続いている。

 しかし一部の見方としては、「本当の勝者は特定の広告代理店だけではないか」とも言われる。KDDIをはじめとした各キャリアの加入者獲得コストは大きく増大しているようだ。KDDI、ソフトバンクともに広告宣伝費は2005年の2倍となっており、対抗上、ドコモも慌てて出稿量を増加させている模様なので、しばらくは宣伝合戦が続くことだろう。しかし、どちらにしても本格的な攻防はこれからで、年間を通じて最も携帯電話端末が売れる春商戦期において、どこのキャリアがユーザーの心を掴むのかが当面の最大関心事となるだろう。

 またMNP制度開始について別の視点から見たときに、携帯電話端末の国内における旧不動在庫が膨大な数量となりつつあることも、大きな弊害の1つと言える。MNP直前の消費者の買い控えのために旧機種の消化が遅れたこと、MNP特需に期待したことからメーカーの生産が過剰になってしまった。国内向けの携帯電話端末は製品仕様の関係で、海外市場での在庫消化は難しく、メーカーの苦境はまだまだ続くと思われる。

大きなビジネスチャンスを秘めるMVNO

 MVNOに関しては、残念ながら本稿執筆の時点では具体的な成果はほとんど見られないというのが実情だ。すでにMVNOの成立を阻む各種の要因については、散々、語られているが、端末調達の難しさ、キャリアとMVNO/MVNE(Mobile Virtual Network Enabler:MVNOの支援事業)との責任分解点の不明確さ、キャリアの情報開示の限界、キャリア側のMVNO事業に対する取り組み姿勢や態度、MVNO候補企業の事業目的の明確化やビジネスモデルの確立、有力なMVNOの出現が待たれることなど、課題が多々存在している。

 海外のMVNOでの成功モデルといえば、Virgin Mobileが有名だが、これも有力なブランド力に支えられた音声通話中心のモデルで、価格競争での勝者と言えるのかもしれないが、大きな失速を余儀なくされてしまった。MVNOが単なる価格競争でキャリアと競っても最終的には勝機はないのだ。

 筆者は日本においては音声通話モデルとは違った付加価値型のデータ通信モデルのMVNOが是非とも定着することを望んでいる。キャリアが事業化するには特殊であったり、市場規模が小さかったりするマーケットでも、MVNOならば事業が成り立つのではないか、と考えるからだ。また、そんな事業について、日本の高度な技術力と3G以上のインフラが、リッチコンテンツと相まって付加価値型の実現を後押しするからに他ならない。

 実際には事業化の予定が発表されているMVNOも幾つかはあるが、規模の小さなBtoBモデルがほとんどで、本格的な対コンシューマーモデルは、ほんの一部で噂話程度に聞くことがある程度で皆無と言ってもよい。実現に向けたハードルの高さが垣間見える。

 筆者としては、まずは形にとらわれずMVNOもしくはMVNOライクなビジネスの成立を望むところだ。それが完全なMVNOでなく、単なる「ブランド貸し」のモデルでも構わない。そこに需要拡大のチャンスが見つかるであろうし、特殊な市場向けの高額で高単価なコンテンツビジネスや特定のサービスモデルが成立する可能性があるからだ。そこには、アイデア次第では「iモード」始業時と同様のビジネスチャンスがあるかも知れないと考えている。

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