本音を言い合えるパートナー関係が企業も投資家も育てる - (page 3)

別井貴志(編集部)、田中誠2006年08月04日 12時38分

勝屋:ベンチャーキャピタルが投資先ベンチャー企業の株主として撤退をするのは、具体的にどういう時なんでしょうか。

照沼:ちなみに、剣持さんのケースは、株主であるVCが、全面的にVC事業から撤退することになったので、引き上げさせて欲しいというものでした。VCであれば、中長期のスタンスでしっかり見てくれよ、という意味でおっしゃっているのだと思います。本当に大変そうでした。そのため通常のケースとはやや異なります。

 通常、ベンチャーキャピタル(投資家)が投資先ベンチャー企業の株主として撤退を意識するのは、経営者と考えてることにズレが生じてきてしまう時ですね。それが表面化してしまうのは、結果が出ない時です。売上が上がらない、お金がなくなる。それ自体は我々も慣れているんですが、その時にどうしたいかというプランと強い意志が明確に見えてこないと、追加投資をするとか、投資をしてくれる人を一緒に探しに行くというような行動ができにくくなるんですよね。その時にこちらがあまりうるさく言うと、だんだん受け入れてくれなくなってしまったりして……。そういう時はすごく落ち込みますね。

 経営者がそういう人だって最初からわからなかったのかと突っ込まれそうですが、実はそういう予感がしてることは多いんですよ。ただ、そのビジネスが極めておもしろく見えて、投資したいと思ってしまうと、人への評価を棚上げして投資してしまうこともあるんですよね。そういう場合はやっぱりうまくいかないです。日本の場合は途中で経営者を変えることはかなり難しいので、立て直しも困難ですしね。

勝屋:次に若い経営者の方へのアドバイスとしてはどんなことがありますか。

照沼:ベンチャーキャピタルも、ビジネスパートナーの一つだと思っています。お互いの利害が一致する場合もあるし、反する場合もあります。そうした、我々のビジネスの特性もある程度は理解してもらわないとスタートできません。それを理解した上で、ベンチャーキャピタルと付き合う前には、よく考えた方がいいと思います。借金は返したら終わりかもしれませんが、株主はそう簡単に変えられませんからね。ベンチャーキャピタルと付き合うことにした場合、キーはやっぱり人なんですよ。ウマが合うこと、人となりなど、兎に角、人で選んだ方がいいと思います。

勝屋:ベンチャーキャピタル=人なんですね。ところで、最近、ベンチャーキャピタリストになりたいという方も多いのですが、ベンチャーキャピタルの理想像とはどういうものなのでしょうか。若い方へのアドバイスでもいいんですが。

剣持:理想を言えば、経営者出身で、自分の資金を入れて、オウンリスクでやる人でしょうね。でも理想論を言ってもしょうがないので、アドバイスであれば、まずは自分のやりたいことをはっきりさせることでしょう。僕がジャフコに入った時は、将来、自分で独立するために修業で入るという気持ちでした。それを許してくれる会社でもありましたからね。そのかわり勤めている間は一生懸命そこで成果を出すまでやりました。

 その会社にいるか、独立してやるかは別にして、自分でソニーやホンダのような会社を作ろうと思ってやっているのか、修業して自分で始めるのか、はっきり公言してやった方がいいと思いますよ。そこが曖昧だと中途半端になってしまうんですよね。よく起業家志望の学生が「成功のコツは何ですか?」なんて聞いてきますが、毎日どうやったら成功するか、どうやったらうまくいくかと一生懸命考えた先にしか成功はないです。どうやったら成功するのだろうと一生懸命に考えもしていない人に成功のコツを教えるのは無理だと思うんですよね。将来の目標は何なのか、自分は何をしたいのかを自問自答したらもっと今何をすべきなのかがいろいろ見えてくるんじゃないですかね。

照沼:経営者出身という話が出ましたが、僕はちょっと違って、成功された経営者の方がもしベンチャーキャピタルをやろうとすると、やっぱり難しいところもあると思うんですよね。僕らの仕事もシードやスタートアップなど初期のステージに寄っていって、米国で生まれたベンチャーキャピタルにいい意味で近くなってきてると思うんですが、まだ未成熟な部分も多い。そうすると現場で膝を擦りむいたり、頭をぶつけたりすることもあるので、それなりに事業経験はあった方がいいと思いますが、大成功された方よりは少し若い方がいいような気がしますね。ある程度は経験が必要なので20代は難しいでしょうが、30〜40代くらいの人がやった方がいいと思います。アドバイスとしては、自惚れずに、ビジネスパートナーとしてどうすればいいか真剣に考え、こちらからやれることを全部やるしかないと思います。

左から勝屋氏、照沼氏、剣持氏

勝屋:照沼さんの将来の夢はどんなものでしょうか。

照沼:少し前までは自分で起業するようなことも考えたりしていたんですが、今はベンチャーキャピタルをもっと突き詰めていこうと考えています。ベンチャーって何で必要なのかと考えたことがあるんですが、やっぱり人間は新しいものを生み出していくことにワクワクするもので、それが人類の発展を支えてきたと思うんです。だから人間の欲求として起業したいという人は今後も間違いなく出続けると思います。

 自分はひとりでも多く、株式公開を果たす起業家の方々をサポートしていきたいですね。その中から日本を代表する会社が出てくれば最高の喜びだと思います。業種は固執しすぎないようにしようと思っているのですが、この数年で、人々の生活を大きく変えたインターネット、モバイルなどは引き続きサポートしていきたいです。また、企業向けのソフトウェア・ソリューションですね。日本から海外へ輸出しているものはないので、起業家の方々とチャレンジして行きたいと思います。その後は製造業・エレクトロニクスを思いっきりやって、最後は農業や漁業を手がけたいと実は本気で思ってます。

勝屋:ありがとうございました。多くの人に照沼さんが愛されている人間的な魅力がわかりました。次回、照沼さんよりご紹介いただく株式会社リヴァンプの上田谷さんとニュー・フロンティア・パートナーズ株式会社の鮫島さんですが、最後にお二人の印象を聞かせて頂いてよろしいですか。

照沼:上田谷さんは、頭脳も身体つきも極めてスマートな方ですが、実は物凄く熱い方です。率直で物怖じせず、行動も素早く、汚れ仕事でも何でもやる方で、ケンコーコムでお仕事していた時(当時上田谷さんは大前・アンド・アソシエーツに所属)は、我々のダイナモとも言うべき方でした。

 鮫島さんは、一見クールな風貌ですが、やはりとても熱く、かつ親身な方です。発せられるコメントやご紹介などは配慮が行き届いており、それでいてハイレベルです。また、ご本人は余りおっしゃいませんが、成功事例は業界でも屈指です。

 お二人に共通している点は、誠実で、掛け値なしに信頼できるということです。当然、ケンコーコム経営陣からの信頼も絶大でしたし、他の起業家からの信頼も厚いです。この連載でもしばしば指摘されているように、会社ではなく、人が重要です。起業家とベンチャーキャピタリストの間、そしてベンチャーキャピタリスト同士の間、その信頼感がとても重要です。そんなお二人とお仕事をご一緒できたのは、私にとって誇りでもあります。

次回
IBM Venture Capital Group ベンチャーディベロップメントエグゼクティブ日本担当
勝屋 久

1985年上智大学数学科卒。日本IBM入社。1999年ITベンチャー開拓チーム(ネットジェン)のリーダー、2000年よりIBM Venture Capital Groupの設立メンバー(日本代表)として参画。IBM Venture Capital Groupは、IBM Corporationのグローバルチームでルー・ガースナー(前IBM CEO)のInnovation,Growth戦略の1つでマイノリティ投資はせず、ベンチャーキャピタル様との良好なリレーションシップ構築をするユニークなポジションをとる。7年間で約1800社のベンチャー経営者、約700名のベンチャーキャピタル、ベンチャー支援者の方々と接した。Venture BEAT Project企画メンバー、総務省「情報フロンティア研究会」構成員、ニューインダストリーリーダーズサミット(NILS)企画メンバー、大手IT企業コーポレートベンチャーキャピタルコミュニティ(VBA)企画運営、経済産業省・総務省等のイベントにおけるパネリスト、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の中小ITベンチャー支援事業プロジェクトマネージャー、大学・研究機関などで講演、審査委員などを手掛ける。ベンチャー企業−ベンチャーキャピタル−事業会社の連携=“Triple Win”を信条に日々可能な限り多くのベンチャー業界の方と接し、人と人との繋がりを大切に活動を行っている。

また、真のビジネスのプロフェッショナル達に会社や組織を超えた繋がりをもつ 機会を提供し、IT・コンテンツ産業のイノベーションの促進を目指すとともに、 ベンチャー企業を応援するような場や機会を提供する「Venture BEAT Project」 のプランニングメンバーを務める。

趣味:フラメンコギター、パワーヨガ、Henna(最近はまる)、踊ること(人前で)

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