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shio直伝!! GR×Mac 究極の写真術--第3回:撮影編── 心を写そう!! |
こんにちは!! shioこと塩澤一洋です。
東日本巨大地震と津波で被災された大変多くの方々に、衷心よりお見舞いとお悔やみを申し上げます。また過酷な状況の中、救助や復旧に尽力されている方々に厚く御礼申し上げます。そのような状況を刻々と伝えてくれる写真の中には心を打つものがたくさんあります。それらをひとつひとつ見るたびに、哀悼の意を覚え、涙し、あるいは救助された人の喜びを分かち合うなど、さまざまな感情を抱いております。被災地から遠く離れて生活する私にできることは節電や寄付などほんの少ししかありませんが、「写真を撮る」ことについてはここに書くことで何らかのお役に立てるかもしれません。写真で伝える「気持ち」がひとつでも多く形になるように願って、この連載を続けさせていただきます。
連載3回目は撮影編。GRならではの撮影ノウハウについて、Aperture3の利用を念頭において話を進めていきます。
第1回:設定編(2011年3月4日公開済み)
第2回:準備編(2011年3月11日公開済み)
第3回:撮影編(2011年3月18日公開。今号)
第4回:公開編(2011年3月25日公開済み)
GRで撮影する際、ひとつの決断を迫られる。
JPEGか。RAWか。
2005年10月に初代GR DIGITALを手にして以来2009年まで、常にJPEGを基本に撮り続けて来た。その背景には、GRの画質に対する絶大な信頼がある。初代GRを手にして数日後、パリのオペラ座を撮影した私は、その画質に驚愕したのだった。その写真はすでに写真展やWebで公開しているし、写真集「GR SNAPS II」にも掲載されている。まだご覧になっていない方は、ぜひ「GRist」のページ最下部にあるその写真をご覧いただきたい。
これでJPEGである。明暗も輝きも申し分ない。細部の描写も鮮明だ。これを撮影した私は、以後、GRがJPEGで描くクオリティーとリコーがGRに施したナチュラルな絵作りを心から信頼し、JPEGオンリーで使ってきたのである。
しかし、少し訳あって2010年の冒頭からRAWに変えた。当時、同じくリコーから2009年12月に発売された「GXR」で撮影した写真を銀座のギャラリー「RING CUBE」に掲載するご依頼をいただいたのだが、その指定が「RAWで」だったのだ。GXRのポテンシャルを伝えるため、「3×2メートル」の大伸ばしでプリントするという。だからそのファイルもGXRが得た情報をすべて生かしたRAWが望ましいとのことだった。納得。以降そのご依頼に応えるためRAWに変更し、ギャラリーに飾る写真を撮ることができた。その後もそのまま、GXRに限らずGRもすべてRAWで撮り続けることとなったのだ。この連載に掲載している写真もすべてRAWで撮影している。
したがって、絶対にRAWで撮るべきだなどとは現在でも考えていない。JPEGでもGRのポテンシャルを十二分に堪能できる。ファイルサイズが小さいから扱いも楽だ。1枚のSDカードで撮影できる枚数も多い。Aperture3でも普通に扱える。JPEGで何ら問題ないのだ。
一方、RAWで撮影するとファイルサイズが14.53MB。JPEGに比べて3~4倍大きくなる。それだけの情報量を保持ししているのだ。これを活かすとJPEG以上のことができる。それがRAWの魅力だ。その潜在力をあとから引き出すのがAperture3である。
JPEGでもRAWでも(そしてフィルムでも)、撮影時の露出は「青空基準」。つまり、風景を撮影する際、絵の上部に入る空が青く描写される明るさで撮影するのである。そのため、露出補正は常時「-0.3」か「-0.7」。アンダー目に写すのだ。「露出」とは写真を撮影する際の明るさのことだが、それは同時に色味も左右する。露出が高ければ空の青は薄く白くなり、露出が低ければ青が濃く写る。露出はパレットなのである。
写真全体の雰囲気において、空の青さは極めて大切。ほんのちょっとでも写真の片隅に空の青が入っているだけで、その写真が明るく、健康的に感じられる。だからできうる限り、青空を青く写したい。しかし、デジタルでもフィルムでも、白く飛んでしまった部分は救いようがない。明るく(露出を高めに)撮影した場合、実際の空は青くても写真では白く飛んでしまうが、そうなるとAperture3などのソフトをもってしても、元の青を取り戻すのは不可能だ。だから露出は低め、若干暗めに撮るのである。
しかし、空が青く写るように露出を低くすると、手前の近景は暗くなってしまう。それでいいのだ。暗めに写っても写真を見る人の心にはちゃんと伝わる。空の青さが明るさを醸し出すから、暗いイメージにはならない。陰影があって印象的な絵になるのだ。
でもRAWで撮影した場合、Aperture3で、暗い部分を明るくすることができる。白く飛んだ明るい部分は情報が乏しいが、暗い部分には情報がたっぷり残っているからだ。写真をAperture3に取り込んだあと暗部を若干明るく補正すると、きちんとディテイルが現れる。これはJPEGでもRAWでも可能だが、RAWの方がはるかに多くの情報を保持している。暗部が驚くほど豊かに再現されるのだ。これがRAWで撮影する大きなメリットである。RAWのポテンシャルは深い。
そこで「青空基準」である。暗くなる部分は気にせず、青空が青く写る明るさで撮影するのだ。幸いGRのような背面モニターで画像を確認しながら撮影するデジタルカメラの場合、空が青く写るか否かは、直接モニターで視認できる。一眼レフだと「ISO感度」、「絞り」、「シャッタースピード」という3つの値の相関によって頭の中で「露出」を決め、得られる青の濃さを想像しながら撮影するのだが、GRなどではその必要がない。直接モニターで見た色がそのまま写るからである。
具体的には、空が青く写る方向にGRを向けるだけでいい。ズームボタンに割り当てた露出補正を上下させることはほとんどしない。GRを少し空の方に向けてやれば、自然と露出が下がり、暗めになって、空が青くなる。白すぎず青すぎず、明るすぎず暗すぎず、空の色がちょうどいい塩梅になったその瞬間にシャッターボタンを半押しすれば、その露出が固定される。と同時に、マルチAFに設定してあるAFが、手前の被写体にピントを合わせてくれるからフォーカスも固定される。これでフォーカスと露出両方が決まるのだ。
次に半押ししたまま厳密なフレイミングをして絵が完成したら、そーっとシャッターボタンを押し込む。それが撮影の流れだ。しかしその前に重要なことがある。何を写すか。それを次のページで述べよう。
そもそも写真で何を写すか。
私の場合、一言で表現すれば「目」を写すのだ。
被写体が人であれば、「目」がある。基本的には相手の「目」を写すのだ。相手が斜めとか横を向いていれば、自分から見て手前の「目」。その「目」にピントを合わせて写すのだ。それは人以外でも同じ。花でも、料理でも、風景でも、その他どんなモノでも、すべてその被写体の「目」をみつけ、それを写すのである。
あぁこの景色きれいだなぁ、という気持ちで漫然とカメラを向けてシャッターを切ると、散漫な絵になりやすい。何を撮りたいのか伝わりにくいのだ。きれいだと感じたら、そのきれいの核は何なのか、どの部分が輝きの頂点なのかを見極めて、その「目」にピントを合わせ、撮影するのである。
写真を「枠」から内向きに捉えるのではなく、絵の中心となる「目」から外向きに広がりを捉える。人の魅力が目の表情に現れるように、どんな被写体にも「目」があって、その目が魅力を放っている。そう考えて、被写体の中に「目」を見つけ、そこにピントを合わせて写すのだ。
それは同時に、自分が見ているところを写していることでもある。相手の目を見て話す、目と目を合わせる、というように、コミュニケイションにおいて重要なのはアイコンタクト。連載第2回に「写真は「写信」である」と述べたように、写真には相手との信頼関係が写るから、相手の目を自分の目でしっかりみて対話することが大切なのである。
したがって、「目」を写すとは、相手の「目」を写すことであると同時に、自分の「目」を写すことでもある。自分が見ているところを「私はこのときここを見ていた」、「ここに感じていた」と表現するのが写真なのだ。それが自分の心を写す「写心」なのである。
それができると、写真が「表現」になる。被写体を「撮る」(=取る、捕る、穫る、盗る)のではなくて、自分の心を「写す」(=映す、移す)のだ。英語でも「take a photo」と言うが、「give and take」は「give」が先。写真で表現し、写真で「give」するために、自分の心を写し出すのだ。「きれいだよ」「ステキだね」「魅力的だよ」「美しい」「大好きだよ」「すばらしい」という自分の気持ちを「give」する表現手段、それが写真、すなわち「写心」なのである。
著作権法において「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したもの(以下略)」と定義されている。目の前にあるものを撮るだけで、なぜ写真が著作物になりうるのか。その答えがここにある。漫然と周囲を撮るのではなく、撮影者の心を写し出す写真、それが思想又は感情を表現した著作物としての写真なのである。まさに「心を込める」のだ。
さて、相手の「目」を見いだしてそこにピントを合わせる訓練をするには、フォーカスは「マルチAF」よりも「スポットAF」あるいはマクロモードの方がいい。実際私も、空の露出を勘案しなくていいシチュエイション、つまり空が絵の中に含まれない被写体を写す場合には、スポットAFやマクロモードに切り替えることが多い。厳密に「目」にピントを合わせたいからだ。
しかし、空が含まれる絵を写したい場合にスポットAFでカメラを下に向けて半押しすると、露出も明るくなり、半押し後にカメラを上に向けると空が白く飛んでしまう。その場合は露出補正を併用することが必要になる。でもズームボタンを何度も押して露出補正値を変更するのは操作が煩雑だし、撮影後に露出補正を元に戻す手間もかかる。戻すのを忘れて、変な露出補正のまま次の一枚を撮影してしまうことにもなりかねない。
その点、マルチAFにしておいて、空も含まれる方向にカメラを向ければ簡単。単に半押しするだけで、露出は青空に適正だし、ピントは手前の意図した「目」に合って一挙両得。スムーズに撮影を進められるのだ。
結局のところ、空の青さだけ確認して写せば、あとは自動でOK。それがGRのすごさなのである。 「何を写すか」が明らかになったので、つぎは「どう写すか」に話を移そう。以下、「撮る」という単語も使うが、言い習わされているから使うのであって、気持ちは「写す」である。
被写体をどう写すか。一言で言えば、「まっすぐ写す」である。
以前、このCNET JAPANに「心をまっすぐ伝えるカメラ「GR Digital」--お気に入りガジェットバトン第35回」というコラムを書いた。「まっすぐ写す」ために最適なカメラ、それがGRなのである。
まっすぐというのは案外難しい。鉛筆を持ってフリーハンドでまっすぐな線を書くのは難しいし、まっすぐな球、湾曲しない球を投げるのも難しい。私はヨットが好きなのだが、ヨットをまっすぐ進めるのは意外と難しい。
同様に、写真においてもまっすぐ写すのはとても難しいのだ。逆に言うと、曲げて撮るのは簡単。まっすぐ以外はすべて曲がっているのだから、適当に撮ればそれはほぼすべて曲がっている。だからまずはまっすぐ写す訓練をしよう。
写真における「まっすぐ」には3つある。「被写体にまっすぐ」、「地球にまっすぐ」、そして「自分の心にまっすぐ」だ。
「被写体にまっすぐ」写すことを意識するには、四角いものを撮影してみるとよくわかる。額縁に入った絵とかポスターなど、四角いものを撮影してみよう。カメラが少しでも曲がっていると、被写体が台形になったり、四辺の一部が湾曲したりする。きっちり相手に正対したときのみ、四角いものが四角く写るのだ。これは被写体が四角形でなくても同じこと。相手の形をそのまま描写しようと思ったら、相手に対してきっちり正対することが必須だ。曲がって撮っても相手が四角でなければ目立たないが、どこか不自然な感じを与える写真になる。
もちろん、何らかの意図があって曲げて写すのはまったく問題ない。どちらがいいとか悪いとか、価値判断をしているのではなく、どうせ撮るなら思いっきり自分の意図を表現して、気持ちが伝わる写真にしよう、ということだ。まっすぐ撮るも曲がって撮るも自由。でも被写体に対してカメラをまっすぐ構えてまっすぐ写せば、相手のありのままを表現できますよ、という話である。
次に「地球にまっすぐ」。これは風景などを写す場合の基本となる。カメラを地面に対して垂直に構えることで、被写体をもっとも自然に写せるのだ。もちろん、カメラを上下に傾けることで絵に味付けをするのも自由だが、基本はまっすぐ。まっすぐあっての味付けである。
この点、GRには水準器が搭載されているから、左右の傾きは水準器の表示を見ればきっちり水平を出せる。水準器は欠かすことのできない重要な機能だ。しかし、三次元空間において3つある回転軸のうち、左右の傾き方向はこの水準器で水平を出せるが、あと2つ、回転軸がある。このうち、左右の回転方向(自分の体を縦軸にしてカメラを左右に振る方向)のまっすぐは、ほぼ上で述べた「被写体にまっすぐ」に該当する。
問題はカメラの前後方向の傾きだ。仰角と俯角。これをどうまっすぐに保つか。つまり、いかにしてカメラを地面に垂直に構えるか。
重力を使うのだ。重力にカメラを引っ張ってもらえばいい。そのためにはGRのホールディングが重要だ。第2回で述べた「バック・アーム・スタイル」が、重力を使った垂直を出しやすい構え方である。
まずGRを横位置に構える場合。右手薬指の上にGRが自然に乗るように構える。カメラを緩く持ち、きちんとバランスがとれていれば、それが垂直である。雨傘を立てて手に乗せ、バランスをとるのと同じ原理だ。一方、GRを縦位置に構える場合、カメラの左側を下にして、指からぶら下げるようにする。グリップに右手人差し指と中指を引っかけ、シャッターボタンにかけた親指と底面を支える薬指で左右から軽く挟むようにしてGRを重力に任せると、自然とカメラが垂直になる。カメラを手の中で遊ばせて、重力を味方につけるのだ。
第2回で、「微ブレ」を防止するのが画質面で重要だと書いた。この「微ブレ防止」は「まっすぐ写す」観点からも大切である。
くっきり、すっきり、はっきり。カメラが微ブレせずにきちんと静止した状態で撮影すれば、鮮明に写る。まっすぐ写した成果が、まっすぐ現れるのだ。
そこで微ブレ防止のためなら使えるものは何でも使う。風景を撮影するときだったら、周囲にある木とか建物にカメラを押し付けて静止させる。それがない場合は、第2回で書いたようにネックストラップにテンションをかけて静止させる。できるかぎり両手でカメラをホールドし、息を吐いて安定させる。耳の上のこめかみにカメラを押し付けるなんていうワザもある。
テーブルの料理を写す場合は、腕を空中に構えず、両肘とか手首とか腕全体をテーブルにしっかり接地し、できれば手や小指などもテーブルに付けて微ブレを防止しながらシャッターを押し込む。地面の近くに咲く花を写すときは、しゃがんだ膝に腕を押し付ける。もちろん安定した靴を履くのも大切だ。
シャッターボタンの押し方も重要だ。やさしく、しずかに、やわらかく。押し込んだらそのまま静止。つまり押した直後に指を離さない。そーっと押し込んだまま、撮影が終わるまでしばらくじっとしているのだ。その間、心を込める。
3つの「まっすぐ」のうち第1の「被写体にまっすぐ」というのは、カメラが物理的に相手に対してまっすぐ向いていることを意味した。しかし、より大切なのは撮影者の気持ちである。相手に真摯に向き合う自分の心を正直に写す。それが第3のまっすぐ、すなわち「自分の心にまっすぐ」である。
気持ちをストレートに表す。もしかしたらそれが苦手な人がいるかもしれない。でも写真は写心。ぜひとも自分の心を解き放とう。自分の心を写真に乗せよう。自分の気持ちを率直に表そう。「何を写したいのかよくわかる写真」であるためには、写す人の心が開かれていることが大切なのだ。
心のままに。
写す人の意思をまっすぐ写せるカメラ。それがGRなのである。
執筆者プロフィール
塩澤一洋
写真家。フィルムのGR-1から、初代GR DIGITAL、2、そして3と「GR」を愛用し続ける生粋の「GRist」。月刊MacPeopleに「一語一絵」を連載中。
Twitter:@shiology
ブログ:http://shiology.com/
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