モバイル機器やその関連サービスの現状を紹介し、携帯電話ビジネスの未来を考えるイベント「第9回ケータイ国際フォーラム」が3月16〜17日に開催された。
フォーラム初日の3月16日には、「ケータイと人の未来」をテーマにしたパネル ディスカッションが展開された。東京大学名誉教授でコメンテーターの月尾嘉男氏と 京都造形芸術大学教授でEarth Literacy Program代表の竹村真一氏が参加し、慶應義 塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏がコーディネーターを務め ている。
日本で携帯電話が一般に普及し始めて約15年。インターネットやメール、ワンセグ放送、電子マネー、GPSなど、さまざまな機能を取り込んで進化した携帯電話は“ケータイ”となり、すでに通話のための道具という枠を超え、社会や産業にも影響を与えている。その一方、世界規模で見れば日本は「ガラパゴス化」とも言われる独自の進化をとげてきた。中村氏は両氏に、携帯電話の進化をどう見ているのかを尋ねた。
月尾氏は、世界でのシェアや通信方式といった「ガラパゴス化」を考えるより、「コンテンツをどう生み出していくか」ということが重要だとする。
同氏は未来学者のAlvin Tofflerが作った「Prosumer(生産する消費者を表す語)」という言葉を紹介し、これからはアマチュアがICTを使って集合知を作るということこそが重要になってくるとした。「プロが作るのが『プログラム』であれば、アマチュアが作る『アマグラム』が力を持つようになってきた」(同氏)
またそのアマグラムを数多く生み出すために、アマチュアが楽しくコンテンツを作る仕組み、workとcreationを組み合わせた「workreation」を考えていくことが重要になると語る。
竹村氏は、携帯電話で桜の写真をアップロードし、俳句とともに紹介するプロジェクト「sakura scape」、農家の情報をリアルタイムのウェブに反映する「田んぼスケープ」など、ICTを使った社会実験を数多く手掛けている。
そうした活動を続けている竹村氏は、これまで成長してきた“ハードウェアとしての携帯電話”に対して、どんな情報を提供していくかを考えるべき時が来たと語る。「単純に観光情報やグルメ情報を提供するのでなく、どんな情報空間を作っていくのかが課題」(竹村氏)
竹村氏は、この情報空間の設計には、日本が持つ文化を再考することが近道になると説く。同氏は、日本の茶室を例に挙げ、「床の間の掛け軸や茶器などのすべては、季節やゲストとの関係などを、謎かけを込めて設置している。『人間の行為によってその場の意味が変わる』というソフトウェア的なアプローチをしている」と語った。1つのものの意味に対して、多様性を持てる空間設計ができる文化があるからこそ、携帯電話についても新しい価値を持った情報空間を生み出せるとした。
携帯電話の登場によって、「ケータイ小説」「写メ」といった新しい文化が生まれてきた。また、待ち合わせで出会えないなどのリスクが回避されるなど、生活は非常に便利になった。しかしその一方では携帯電話を使ったいじめなど、社会問題も出てきている。携帯電話は文化にどういった影響を与えたのだろうか。
月尾氏は「どんな技術もプラスとマイナスがある。技術によって消えていくものも新しく生まれるものある。それを無理に止めることはできない」と、携帯電話によって生み出された文化を否定しない。
「電通の発表では2009年にインターネットの広告費用が新聞を抜いた。このままだと2〜3年でテレビの広告収入も抜くだろう。かといって、(新聞で)文字を読まないのはけしからんと言うのは難しい」(月尾氏)
また、電通総研が「生まれたときのメディアがその人にとって主要なメディアになる」という調査結果を出していることを紹介した上で、「テレビも持たない、PCも持たない、携帯電話だけでテレビを見て、インターネットをして情報収集する人が増えている。そういう状況の中で我々がどうするかが課題」とした。
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