最近行われた電子書籍に関する一連の発表を見ると、瀕死状態とみられていたこの市場に新しい生命が吹き込まれたように思える。しかし専門家のなかには、デジタルディスプレイ上でインクを再現しただけでは、電子ブックは主流になれないと言う者もいる。
ソニーの米国法人は米国時間4月3日、同社の「Sony Reader」が大手書店チェーンのBordersで販売されることになったと発表した。Sony Readerは300〜400ドルで販売され、書籍データは2006年夏より、オンラインストアの「Sony Connect」からダウンロードできるようになる。
また4日には、「ハリー・ポッター」の版元であるBloomsburyが、インターネットから同シリーズの電子版をダウンロード販売し始めた。PC上での読書を想定したこの電子版について、BloomsburyのNigel Newton会長は、「いまはまだ大きな市場ではないが、将来はそうなる」とReutersに語った。「われわれは、自分たちの領域を確保したいと考えている」(Newton会長)
このニュースに対して、次のような疑問が持ち上がっている。それは、「いままで単なる新奇な技術にとどまっていた電子書籍に、突如として市場ができたのだろうか」というものだ。特製の端末や従来のPCにダウンロードして読む電子書籍は、2000年にMicrosoftがBarnes & Nobleと手を組んで「Microsoft Reader」向けの電子書店を始めたときに大きな脚光を浴びた。しかし、その3年後、Barnes & Nobleは売上げの伸び悩みを理由に、電子書籍に関する取り組みを中止した。
「これらの新しい読書形態の進化については、予想が大幅に外れた」とOverdriveの最高経営責任者(CEO)Steve Potash氏は述べている。同社はおよそ15万タイトルの電子書籍、音楽、ビデオを扱うデジタルメディアの交換サイトを運営している。「数年前には、現在のような豊富な品揃えはなかった」とPotash氏は言う。ところが現在では、主要出版社や学校、大学、公共図書館が、この勢いに乗じようとしていると同氏は述べている。
しかし、品揃えが比較的少ないという問題はいまだに存在している。また5年前には、タイトル不足のほかにも、タイトルの印刷や、複製、他の種類の端末への転送や、他社製電子書籍端末との共有に関して、電子書籍用端末で制限がかけられていたことに対する不満の声も上がっていた。さらに価格の高さも問題だった。
「電子書籍自体への抵抗はあまり多くはない」と、「Project Gutenberg」のディレクターを務めるGregory Newby氏は述べている。世界初の電子図書館とされる同プロジェクトでは2万種類の書籍を無償で提供している。「電子書籍の普及を妨げているのは、特性の端末と、そして良い内容のタイトルを見つけづらいことだ」と同氏は言う。さらに、「出版社は、電子書籍に紙の本と同じ値段を付けている」(Newby氏)
他にも課題はある。電子書籍用の端末なら、1台に多数のタイトルを保存したり、文字サイズを変更するなど、テキストを読みやすくすることが可能だが、これは紙の書籍では不可能なことである。だが、本を他の人に貸したり、売り払ったり、あるいは子供たちに残すといったことは、電子書籍では難しいとNewby氏は述べている。
「本を買えば、それを永久に所有することができる。しかし電子書籍では、普通の本でできることが制限される場合も多い。もし端末が壊れたらどうなるのか・・・書籍とは単にページ上に並んだ言葉ではない。書籍とは取引したり、分かち合ったり、後々のために残しておくことができるもののことだ」(Newby氏)
たとえば、双方向性やさまざまなメディアを扱う機能など、ふつうの本にはみられないような強力な特色が電子書籍に付加されれば、紙の本からの大規模な移行が起こる可能性があると、Newby氏らは述べている。
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