将来、膨らませることができる服を着て通りを闊歩したり、デジタルカメラが埋め込まれたフードの下からこっそりあたりを覗いたりできるようになるとしたら、それはDiana Engというデザイナーのおかげかもしれない。
22歳になるEngは先ごろ、米Bravoチャンネルで放映されている人気リアリティーショー「Project Runway」に出演した。彼女が好んでデザインするのは、数学や科学、テクノロジーからインスピレーションを受けたファッションだ。小学2年の時にはもう数学の楽しさに目覚めていたというこのギークの中のギークは現在、ファッションに敏感な人間にはもっとテクノロジーに関心を持ってもらい、逆にテクノロジー好きの人間にはファッションにもっと興味を持ってもらいたいと考えている。
テクノロジーの影響が感じられる彼女の作品のなかには、無線の心臓モニターとカメラを内蔵するフード付きパーカーなど、バイオミメティックス(自然の法則をテクノロジーに応用する科学)を利用してデザインされたものもある。このパーカーに内蔵されたカメラは、着用者の心拍数が上がるとシャッターが切られる仕組みになっている。また、改造した小型掃除機と一連のバルブが付いたドレスは、空気の量を調節することで、好みのシルエットをつくり出せるようになっている。Engはこのドレスを、Rhode Island School of Designの服飾学科に在学中、クラスメートのEmily Albinskiと一緒にデザインした。
「膨らんでいない状態では、このドレスはわりと体にフィットしている」と、ニューヨーク在住のEngは電話インタービューのなかで説明した。彼女は現在フリーのデザイナーとして活躍しており、2月1日にボストンの科学博物館で開かれたファッションショー「Seamless: Computational Couture」の準備に追われていた。「ドレスが膨らむと釣り鐘のような形になる」(Eng)
エミー賞候補にもなった「Project Runway」にEngが出演できたのも、彼女が抱くこうしたビジョンのおかげだ。Project Runwayの内容は、新進気鋭のデザイナーたちがファッション関連の様々な課題に挑みながら、優勝を目指して競い合うというもので、優勝者には「Banana Republic」のデザインチームで修行するチャンスと自分のブランドを立ち上げる資金として10万ドルが与えられる。この番組のオーディションの際、審査員の1人はEngに向かって、「あなたの作品にすっかり夢中だ」と語っていた。
彼女の作品に魅了されたのが、この審査員だけではないことは明らかだ。この番組のパート2が12月7日に放映された直後から、Engは視聴者の間で「ギーク界の寵児」に祭り上げた。その後、Banana Republicのために昼夜兼用ドレスをデザインするという課題で破れたEngは、1月にProject Runwayから姿を消してしまった。だが、プレッシャーも大きく敷居も高いファッションの世界に入り込もうとする者にとっては、この番組に登場できたこと自体が業界で活躍するための足がかりとなる可能性がある。
「この番組はまたとないチャンスだ」と言うのは、ニューヨークにある「Parsons: The New School for Design」のファッションデザイン学部で学部長を務めるTim Gunnだ。同氏はProject Runwayで出場者の指導にもあたっている。「この番組に出演できれば、非常に多くの人間に自分のデザインを見せることができる・・・この番組はファッション業界の新兵訓練所のようなもので、出演したデザイナー同士がお互いのデザイン哲学や美意識、実践的な方法論などをより深く学ぶことができる」(Gunn)
「Dianaはこの番組を上手に利用した。時には悪戦苦闘することもあったが、真剣にプロのデザイナーになりたがっていることが観ている側にも伝わった。ファッション業界はDianaに注目し、そして視聴者は彼女と恋に落ちた」(Gunn)
何千人もの競争相手を蹴落として、ニューヨークのファッション業界で名を上げるチャンスをものにしたEngは、番組出演後、道を歩いているとあかの他人が自分に気付くことが1日に3度はあるという。彼女はこのちょっとした有名人なみの知名度を積極的に活用できると感じており、またそうする覚悟を決めている。
「Fans of Reality TV」というサイトの掲示板には、「彼女の超ギークっぽいところが大好きだ」という視聴者の書き込みがある。「彼女のデザインに見られる意欲的な部分を評価する」
また、次のような書き込みもある。「彼女のアイディアは素晴らしい。また『ギークファッションデザイナー』を自認しているのもとてもいい。自分もあのカメラ付きパーカーを1つ欲しい」
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