ドバイ発--世界で最も贅沢なホテルの1つである「Burj Al Arab」には、Wi-Fi設備がない。
しかしこのホテルは、202室の全客室--実際にはスイートルームと言うべきで、各居室の広さは200〜300平方メートルに及ぶ--に専属の執事を配置し、ヘリポートを備え、ロールスロイスでの空港送迎サービスまで提供している。同ホテルでは1400名のスタッフが働いているが、この中には、豪奢な水槽のメンテナンスを行わせるためにわざわざ英国から呼びよせた水族館技術者も含まれている。宿泊料金は、最低でも1泊1250ドル以上だ。
ドバイには、新たな投資先として脚光を浴びる壮麗なビルが乱立しており、同ホテルもそうした建物の1つに過ぎない。このほかにも、「Emaar」という別の企業が数年後には世界一の高層ビルとなる「Burj Al Dubai」を建設中で、また同社と競合するNakheelでは「The Palm」と呼ばれる椰子の木形に配置した人工島群や、世界地図を模した人工島群を造成している。これに加え、最近では世界最大の屋内スキー場が営業を開始したし、広さ800万平方フィート(約74万平方メートル)のアミューズメントパークもオープン間近だ。
アルカイダのリーダー、Osama bin Ladenの父親であるBin Ladenも、ドバイで事業を進めている。そのため、街角の迂回路には「ご迷惑をおかけしています--Bin Laden」という看板が立てられている。
原油価格の高騰は、今後数十年のうちに石油備蓄が鈍化するかもしれないという懸念と相まって、中東の中心都市の1つに過ぎなかったドバイを、新たなメガロポリスと目される存在に変身させた。こうした魅力にひかれて、海外移住者や新しもの好きの観光客がドバイに押し寄せている。毎日何かしら新しいことが起こる街、それがドバイだ。
11月も半ばのある夜、求人サイト「Monster.com」の中近東版にあたる「Bayt.net」のCEO、Rabea Atayaは、Burjの上階ロビーでBill Clinton前大統領を見かけたという。別の日にエスカレーターに乗った際は、英国に本拠を置くVirgin Groupの総帥Sir Richard Bransonが、先頃ドバイで開店したVirgin Megastoreについて(そしておそらく、アラブ首長国連邦で宇宙旅行サービスを始める件について)話し合っているのを耳にしたそうだ。さらにその数日前には、テニスプレーヤーのRoger FedererがAtayaの目の前を通り過ぎた。
株式市場も活況を呈している。株価が年間に70%程度上昇することも、ドバイでは珍しくない。先日は、Dana Gasが公開した株式を購入しようと銀行に殺到した投資家の間で、殴り合いの喧嘩が起こったほどだ。
ドバイは技術経済の発展に国家の未来を託そうとしているが、現在の成長を支えているのは原油である。地元の新聞「Gulf News」によれば、湾岸協力会議(Gulf Coast Countries:GCC)加盟国の2005年における石油歳入は、2400億〜2500億ドルに上るという。石油1バレルの価格が1ドル上昇すると、GCC加盟国の収入は50億米ドル増加する。石油から得られる利益は、経済の多角化を目指して進められているプロジェクトの直接的な資金源となっている。
こうした経済政策の結果を具体的に見てみよう。たとえば、ドバイでは全世界の建設用クレーンの約22%が使用されている。また、ドバイやアブダビのあるアラブ首長国連邦(UAE)で進められている建設プロジェクトの予算は、総計で2240億米ドルにも達しており、その大部分がドバイに集中している。
欧米人が得られる恩恵
ホワイトカラー向けの仕事が豊富であることに加え、所得税の免除や家賃補助の可能性、何か大きなことに参加できるかもしれないという期待感などが、欧米からの移住者にとっては魅力となっている。
だが、ドバイの「バブル」でひと山当てようと考える欧米人には、地元の事情に慣れるには時間がかかることを警告しておきたい。
たとえば、至るところに私服警官がいる。広告企業の幹部として働くある欧米人は、「バーで政府を批判するのは構わないが、食料品店で話す内容には気をつけた方がいい」と言う。また別の人物は、映画のチケットを買おうと並んでいた友人が口論に巻き込まれたときの話をしてくれた。その友人は、自分が暴言を吐いた相手から蹴られ、直後には掃除夫がほうきを放り出して身分証を誇示してきたというのだ。付近にいた見物人のうち、4人までもが同様にしてみせたという。
現在建築中の半導体設計企業向けオフィスパーク「Dubai Silicon Oasis」でマーケティングマネージャを務めるJames Adamsは、「ドバイはまるで、筋肉増強剤を用いたシンガポールのようなところだ」と語っている。
刑務所行きにつながる危険をはらむ行為も、いろいろと存在している。当局に起訴されることはまれだが、同性異性を問わず、配偶者ではない人間と同居すると処罰されるおそれがある。また、公衆の面前での愛情表現は、法的な問題を引き起こしかねない。さらに聞き及んだところでは、他の車の運転手に対して中指を立てても、警察から警告を受ける可能性があるという。最近ドバイを訪問した米国のポップスターMichael Jacksonが、女性用トイレに誤って入ったにも関わらず起訴されなかったのはけしからんといって、編集者に手紙を送ってきた者もいる。
その人物は、「西洋諸国ではそうしたことが日常的に起こっているのかもしれないが、ここでは違う」と、苦言を呈したそうだ。
一方で路上犯罪は存在せず、テロリストの攻撃も起こっていない。米国とヨーロッパでの勤務期間を終え、ドバイへ移り住んだある英国人コンサルタントは、「(私服警官が)身近にいるので安心だ」と述べている。
またドバイは、生活に相応の金がかかる都市でもある。賃貸住宅の家主はつい最近まで、年率100%にも及ぶ賃上げを定期的に行っていた。寝室が4つある邸宅だと家賃が年間18万ディルハム(5万米ドル)もかかる場合があるし、2ベッドルームのアパートの家賃でもその約半額だ。政府は今年11月、家賃を値上げは年率15%内に抑えるよう勧告したが、地元の人々は家主が規制をかいくぐる方法を考え出すだろうと見ている。
年額家賃2万8000ディルハム(7800米ドル)のアパートを借りて安く暮らそうとしていたある若い開発者は、先日大家から、部屋に家具を備え付け(彼はすでに家具を持っているのだが)、賃料を4万ディルハムに引き上げるという通知を受け取ったそうだ。手抜き工事とお粗末なメンテナンスも、よく聞かれる不満である。
とはいえ、ビッグチャンスがひしめく最前線に居るというのは、やはり魅力的だ。
国際的なコンサルティング会社のある社員は、「CNNでドバイ国際空港のコマーシャルが繰り返し流れるのを見て、自分は何かをつかみ損なっているにちがいないと思った」と(ドバイに来たきっかけを)説明した。
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