Apple ComputerのCEO、Steve Jobsは将来の計画について口が堅いことで有名だ。
しかし、iTunes Music Store(iTMS)の最新バージョンを見るだけで、そのヒントが見えてくる。AppleがiTMSの最新版で「ラジオの復活」だとするポッドキャストをサポートしたことは、だれでも気付かないわけにはいかない。
さらに見ていくと、iTunesソフトウェアはこの5月から、ビデオ、映画の予告編、あるいは自分で撮影した映像まで再生可能になっていることに気付くだろう。またiTMSの方でも、複数のミュージックビデオの販売を開始しており、毎週新作が追加されている。
レコード業界の情報筋によると、AppleはiTMSでのミュージックビデオの取り扱いについて、大幅な拡大に向けた交渉を進めており、早ければ今秋にもそれが実現する可能性があるという。同社はさらに、早ければ9月にもビデオ再生に対応したiPodが公開されることをメディア業界幹部に示唆している。これを受け、業界消息筋の一部は、AppleがiTMSの映画版となるオンライン映画ストアと、ビデオ再生が可能なiPodの開発を進めている、との考えを示している。
シリコンバレーの各社で永年幹部を務めてきたMike Homerは、Apple出身で豊富な人脈の持ち主だが、同氏によると、「Appleは、デジタル音楽のダウンロード販売で先駆けとなった。また、Macはオーディオやビデオの処理能力に優れている。このように、彼らには大規模なビデオ戦略を展開するための良い条件がそろっている」という。
しかしHomerやその他の業界関係者は、iTunesで収めた成功をビデオ分野で再現するのは容易なことではないとした上で、Appleはビデオ分野に一気に参入するのではなく、今年から来年にかけては段階的に参入を進めるとの見方を示している。
これに関し、最大の課題はビジネス面であって技術面ではない。
Appleは映画業界各社と契約を結ぶ必要があるが、彼らはインターネット上での著作権保護について心配しており、また映画館での興行収入を追い越したDVDの販売を脅かしたくないと考えている。同社はさらに、Comcastなどのケーブルテレビ大手各社とも映画のダウンロードビジネスで競合しなくてはならない。
さらに、Appleはビデオ分野でも音楽の時と同様に利益をあげるプランを用意する必要がある。同社は音楽関連ビジネスのほぼすべての利益を、iTunes Music StoreではなくiPodの販売から上げている。
しかし、多くの業界幹部やアナリストによると、ビジネスを成功させられる人物はJobs以外にいないという。彼らはその理由として、デジタル音楽分野におけるJobsのリーダーシップと、Pixar Animation StudiosのCEOとして彼が築いたハリウッドの人脈や経験を挙げている。
シリコンバレーのある著名なベンチャーキャピタリストは、「Jobsはこの業界で最も偉大なタレントであり、最も演出を心得た人物だ」と語っている。
複数の映画業界関係者も、これと同じ意見で、Jobsの力があれば、映画の合法的なインターネット販売によってビジネスが一変する可能性があると見ている。
「スターウォーズ」の監督であるGeorge Lucasは、先ごろCNBCの番組のなかで、「Steve Jobsと、そのほか数人は、ネットで違法コピーの難しいビジネスモデルを構築する方法にすでに気付いている。だが、業界がそのことに気付くまで、ビジネスは下降の一途を辿るだろう」と述べた。
Appleの幹部らは、同社の計画に関するコメントを控えている。Jobsは先ごろ、iTunesのような形でビデオを販売していくのかどうかについて聞かれた際に、その質問にはAppleの「今後の行動」が答えを出すと語り、同社の研究室では「複数の素晴らしいもの」が開発されていると付け加えた。
しかし、ポーカーフェースのAppleも既に手の内をいくつか見せている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」