中国こそ次の巨大なインターネット市場であるとの認識が急速に広まりつつあるなか、MicrosoftとGoogleは中国市場をめぐる争いに向けて臨戦態勢を整えており、その第1ラウンドが米国の裁判所で開始されようとしている。
Microsoftは米国時間18日、検索技術担当の元バイスプレジデントで、中国における事業戦略立案の責任者を務めていたKai-Fu Leeが競合禁止条項および守秘義務に違反したとして、同氏を提訴した。またMicrosoftは、Googleも違反と知りながらLeeを雇用し、中国に新設した同社のリサーチセンターの責任者に任命することにより、Leeの違反行為に加担したとして、同社も提訴した。
たしかに、LeeがMicrosoftの音声認識技術および検索技術の開発責任者であり、同社のBill Gates会長の側近であったことを考えれば、MicrosoftがGoogleに対して怒るのも無理はない。しかし、両社がLeeを欲しがる本当の理由は、同氏が中国のインターネット市場について熟知しているからであろう。
現在、中国のインターネット人口は1億人と推定され、米国に次ぐ世界第2位の規模を誇る。金融アナリストらは、中国のインターネット人口が5年以内に米国のそれを上回ると見ている。米調査会社のPiper Jaffrayによると、中国では3億5000万人が携帯電話サービスに加入し、4300万世帯がブロードバンドサービスを利用、また2000万人がオンラインゲームを楽しんでおり、同国のオンラインゲーム人口は世界最大だという。
中国では、電子商取引やオンライン広告の売上を含むインターネット経済も成長の余地が多分に残されている。Piper Jaffrayによると、現在の中国におけるインターネット経済の規模は、米国のおよそ5%にすぎないという。2005年の同国のオンライン広告、電子商取引、ゲーム、無線といった双方向販売の売上総額は13億8000万ドルにのぼるとアナリストらは予測しており、さらに2006年には37%増の19億ドルに達すると見られている。
「中国は向こう5年間に、インターネット企業が成長できる可能性が最も高い市場となるだろう」とU.S. Bancorp Piper Jaffrayのアナリスト、Safa Rashtchyは述べている。
MicrosoftとGoogleにとって、中国が極めて重要な市場であることは明らかだ。大半のGoogleウォッチャーの記憶によれば、Googleが新規採用を公表したケースはLee以外に1度しかなく、それは2001年に同社がEric SchmidtをCEOとして雇い入れた時だったという。しかしGoogleは、19日にマスコミに送った声明の中で、「(Leeの採用は)中国の研究開発センターを成功させ、国際的な事業の拡大を必ず行なうという公約である」と述べている。
Googleの発表とほぼ時を同じくして、Microsoftの幹部らは明らかに苛立った様子でGoogleとLeeに対する提訴を発表した。
Microsoftがワシントン州地裁に提出した全11ページに渡る訴状によると、LeeはMicrosoftが中国に開設した総勢380人の研究者を擁する研究所の元ディレクターとして、「Microsoftの中国における事業戦略全般、事業拡大を狙う分野、中国におけるインターネット検索関連の市場シェア獲得計画、さらに同国内のMicrosoftの重要な従業員、提携企業、コネクション」に通じていたという。
Googleは長年、中国語のウェブサイトを運営してきたが、2004年に中国における事業展開のための投資を増加させている。また、新華社通信の報道によると、Schmidtは6月末に北京を訪れ、中国の検索サービス企業である「Baidu.com」の関係者に面会したという。Googleは2004年にBaidu.comの発行済株式の4%を取得した。Baidu.comはNasdaq市場への上場を予定しており、その評価額は10億ドルに上ると見られている。
ネット検索の専門家で、SearchEngineWatch.comの編集長を務めるDanny Sullivanは、GoogleがBaidu.comの買収に興味を抱いているのではないかと考えていると言う。Baidu.comは現在、中国最大の検索エンジンと言われている。Baidu.comを買収すれば、Googleは別のブランド名を使って中国政府からのフィルタリングの要求に対応できるためだ。
「Googleは、主力のGoogleサイト上で検索結果リストの検閲をしなくても済むように、Baiduを買収したがっているとの憶測もある」(Sullivan)
またGoogleは、約半年前に中国本土に営業拠点を開設したほか、北京に拠点を置くゲーム企業のNetease.comや深川に拠点を置くインスタントメッセージング企業のTencent?Holdingsとも、それぞれ業務提携を行っている。
それでも、中国政府の逆鱗に触れずに同国内で事業を運営することは、Google、Microsoft、Yahooなどの検索サービス企業にとって、多くの困難を伴うものだ。たとえば、2002年にはGoogleの検索サイトが中国政府によって数回に渡って遮断された。同政府はGoogleに対し、検索結果リストの検閲を行なうよう求めた。そのため、Googleは同国内のニュースの見出しの一部にフィルターをかけることで合意した。同国内での事業展開に伴うその他の困難としては、比較的脆弱な銀行システム、インフレ、貧弱な知的財産法などが挙げられる。
また、中国市場には米国のインターネット企業と競合する地元企業もいる。たとえば、検索市場では、Baidu.comがトップを走り、その後をGoogle、Yahoo、そしてやはり地元企業の「Sohu.com」が追いかける格好となっている。また中国で最大のポータルサイト「Sina」は、オンラインオークションに関してYahooと提携している。一方、Yahoo Chinaでは、社長を務めていたZhou Hongyiが先月個人的な事情を理由に退社したため、同社の先行きに対して疑問視する声も上がっている。
Sullivanによると、Googleは中国市場でBaidu.comにシェアを奪われている可能性があるという。同氏は最近公表されたある調査結果を引用したが、それによるとBaidu.comが市場シェアの約30%を握る一方、Googleのシェアは25%程度だという。
米国の大手インターネット企業のなかで、一番存在感が小さいのはMSNだが、ただし同社のIMクライアントソフトは、中国の市場で地元企業Tencentに続き、第2位のシェアを得ていると、Rashtchyは述べている。
中国市場は非常に人口が多くまた動きも激しいことから、米企業は大きな存在感を手に入れなくては事業を成功させられないと、複数のアナリストが指摘している。中国の人民日報オンラインによると、Googleはかつて中国の検索市場を支配していたが、ローカル市場を重視した取り組みが不十分だったことから、Baidu.comに市場シェアを奪われてしまったという。
もちろん、中国市場への参入を急いでいるのは、検索エンジン各社だけではない。米国時間19日には、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストAccel Partnersが、メディア企業のInternational Data Groupと提携し、中国のIT企業に投資する2億5000万ドルのファンドを設立していくと発表した。ほかにも、Intelなどが同様のファンドを設け、IT、ゲーム、ブロードバンド、携帯電話などの活況を呈する分野に資金を投じている。
一方、ここ2年間は米国のマーケットで株式を公開する中国企業も増えており、なかには大きな成功を収めた例も見られる。ゲームメーカーのShanda Interactiveは2004年5月に株式を公開したが、公募価格が11ドルだった同社の株価はその後39ドルを超え、Googleと肩を並べるほどの伸びを示している。
しかし、GoogleはMicrosoftにとって、優秀な人材獲得をめぐる最も手強いライバルであり、またおそらくここ数年で登場したなかで最大の脅威でもある。そして、今後両社が最も激しい戦いを繰り広げるのは、地球の反対側にある市場になるかもしれない。
「これ(GoogleとMicrosoftとの争い)はまるで、米国と旧ソ連が互いにミサイルを発射し合い、ちょうどカナダにあたるYahooがそれを見守っているかのようだ」(Sullivan)
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