サービス開始早々一躍大ヒットとなったApple Computerのデジタル音楽販売サービス「iTunes」は、消費者はオンラインコンテンツにお金を出さないという認識を覆しただけでない。同サービスの成功で、マイクロペイメント(少額決済)の成長の可能性にも光があたっている。
今年創立2周年を迎えた決済会社、BitPass(本社:カリフォルニア州パロアルト)は今月、総額1175万ドルのベンチャーキャピタルを調達し、また社外取締役会のメンバーに元American Express会長のJames Robinson3世を迎え入れた。Robinsonは、BitPassに投資を行っている企業の1つ、RRE Ventures(本社:ニューヨーク)のパートナーでもある。
クレジットカード会社や、PayPalなどのオンライン決済専門会社による取り扱い高が増加するなか、Eコマースベンダーによる小口取引(もしくはマイクロペイメント)を仲介するいくつかのビジネスモデルが、デジタルコンテンツの販売拡大を追い風に、成長を続けている。
このような話をよく耳にするのであれば、恐らくその通りに違いない。しかし、Beenz、Flooz、DigiCashといった、ドットコム時代のいわゆるオンライン通貨ベンダーは、マイクロペイメントの普及を促進するような事業を十分に生み出せなかったために消滅した。それから早くも数年が経過し、iTunesの累積ダウンロード数が先ごろ1億2500万曲に達したというニュースが報じられたが、これはローエンドのEコマース普及の鍵を握っているのがデジタルコンテンツであることのより確かな証拠といえる。
マイクロペイメントの典型的な例としては、iTunesが1曲当たり99セントで楽曲をダウンロード販売したり、あるいはCingular Wirelessの携帯電話サービスが加入者向けに2ドル99セントで着メロを販売し、電話料金と一緒に請求を行う、などがある。
金融サービス業界専門の調査会社TowerGroupの最近の報告によると、インターネットおよび携帯電話を使ったマイクロペイメントの総市場規模は、デジタルコンテンツに対する需要拡大の追い風を受け、向こう5年間に年率23%ずつ成長し、2009年までに115億ドル規模に達するという。TowerGroup(本社:マサチューセッツ州ニーダム)の推計では、2003年のマイクロペイメントの市場規模は20億ドル強だったという。
調査会社Jupiter Researchのアナリスト、Bruce Cundiffは、現在のEコマース市場について、マイクロペイメント技術開発の第3あるいは第4の波が到来していると述べている。iTunesの成功およびブロードバンドの持続的成長によって、デジタルコンテンツはEコマース市場の急速な成長を促す触媒となる、と同氏は指摘する。
「要は、総額1ドル未満の電子商取引を行なうための、低価格製品向けの実現可能な取引モデルが必要ということだ。しかしデジタルメディアの分野ですでに行なわれている取引を見ると、人々がオンライン上で少額取引を行なう方法を見出しているのは明らかだ」(Cundiff)
従来、オンラインショップの利用者は、料金の支払いにクレジットカード決済を好んで利用してきた。しかしクレジットカード会社は通常、全ての決済処理や顧客サービスから手数料を徴収している。そのため、少額取引では利益の大半が手数料で消えてしまうので、クレジットカードは極めて非効率的な支払い方法といえる。
ただし、それでも消費者はインターネット上で低価格商品を購入するという発想に慣れてきている。
今後、音楽配信サービスやインターネットパブリッシング(出版)、さらに着メロやゲームなどの携帯端末用アプリといった分野の市場拡大が予測されることから、デジタルコンテンツ市場の成長はほぼ確実と見られる。マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置く調査会社Forrester Researchは、2006年までに、音楽のダウンロード販売だけでも14億ドルに達すると予測している。これは米国における音楽の総売上のおよそ1割に相当する。
Jupiter Researchは、オンラインコンテンツの総売上が2009年までに31億ドルに達すると予測しており、その要因として、ウェブベースの音楽サービス、ゲーム、電子書籍などを購入するブロードバンド加入世帯数の増加を挙げている。業界の専門家らは、オンライン上で低価格製品を購入するという選択肢を消費者に認知させたという点で、iTunesの功績は大きいと口を揃えていう。また専門家の大半は、今後もデジタルコンテンツがウェブベースの小口取引市場を独占し続けると見ているようだ。
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