1996年のある朝、Lars Liljerydは二日酔いで目覚めた。その時、ふとデジタルオーディオを変換する科学のアイデアが頭に浮かんだという。
スウェーデン人の発明家でかつてはロックバンドのドラマーだったLiljerydは、それまで何年もオーディオファイルの圧縮・変換方法についてあれこれ考えていた。それがその朝彼は、オーディオやスピーチをデジタル形式で完全に圧縮し、保存する方法を思いついたのだ。
このアイデアはのちに一握りの特許と新しいビジネスを生み出すことになる。一流のエンジニアチームがこのアイデアにひきつけられ、デジタル音楽フォーマットとして一般的に利用されているMP3やAAC(Advanced Audio Coding)の開発に携わることになったのだ。Liljeryd個人の名前も、彼が設立したCoding Technologiesも、一般に知られるにはまだほど遠いかもしれないが、彼とその会社がデジタルオーディオ技術の業界スタンダード作りに貢献し、多くの研究者の予測を超える高い技術を生み出したことに間違いない。
「自分の成果を見て、“行き着くところまでやった。これ以上は進めない”と思うことは多いだろう。しかし別の角度からものを見ると、また違うように見えるものだ。われわれはさまざまな局面で、伝統的な考え方を避けてきた」と、53歳になる発明家、Liljerydは言う。
Microsoft、ソニー、ドイツのFraunhofer Institute for Integrated Circuitsといった大企業が市場を独占するデジタルオーディオの分野で、小さな規模から始まり大きな成果をあげた数少ない企業の1つがCoding Technologiesだ。同社の成功は、型にはまらない研究者や因習打破主義者が、この業界を予測外の領域へと導く余地があることを示している。
Liljerydが考えたオリジナルのアイデアは、のちに彼のチームに加わったオーディオの研究者が発展させ、これ以上は不可能と考えられていた従来のオーディオ圧縮技術を3分の1に、さらには半分にまで縮めた。特に、携帯電話のネットワークや衛星放送など、オーディオをオンラインで利用するときに画期的な効果をもたらす。
この技術の採用は急速に広まっており、米XM Satellite Radioサービスや、韓国、英国の携帯電話会社がこのフォーマットを利用している。またCoding Technologiesは、中国でもデジタルマルチメディアのプラットフォーム開発に協力している。これは中国のDVDとなるものだ。また1年前には、オーディオ圧縮技術を監視するMPEG(Motion Picture Experts Group)が同社の技術を正式な業界標準として採用した。幅広く様々なアプリケーションに利用することを承認したようなものだ。
オーディオ技術のコンサルタントでMPEG委員会会長のSchuyler Quackenbushは、「MPEGにとってこれはAAC以来の最大のオーディオコーディング技術と言えるだろう」と、メールでのインタビューにて述べている。「MPEGオーディオコーディングにおける技術向上のスピードを促進したようなものだ」(同氏)
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