サンフランシスコにあるSt. Regis Museum Towerの建設現場は、鉄鋼、コンクリート、重機が雑然と並んでいる。これまで幾度も目にしてきた商業地区の開発現場と同じ光景だ。
しかしその作業場で、高くそびえるクレーン上に設置されていたのは、絵はがきに登場するサンフランシスコの高層ビル群の建設史上、初めて使用された1つの小さな装置だった。それはワイヤレスハブである。
この42階建ホテル複合施設の建設を手がける米Webcor Builderは、エンジニアや作業員が即座に設計図を見てプロジェクトを調整できるよう、ワイヤレスネットワークを構築した。歴史的に新しい技術の導入が遅い建設業界にあって、同社は大切な時間とコストを削減する手段として、ワイヤレス通信に目をつけたのだ。
Webcor Builder最高情報責任者(CIO)のGregg Davisは、「市場競争によって、特に不景気の間、コストを削減しながら効率化を進める方法に目を向けるようになった」と述べている。「可能な限り効率よくするために、あらゆる角度から検証した結果、一番簡単なのがWi-Fiだった」(同氏)
今のところ、企業向けWi-Fi市場の最大の顧客は、「垂直産業」と呼ばれる建設、教育、行政、医療といった専門産業だ。米Synergy Research Groupが2月に発表した調査報告によると、大規模事業向けWi-Fi製品の2003年の売上は8億6970万ドルに達した。今後他の産業がこうしたトレンドに参入し、2007年のWi-Fi市場は約2倍の17億ドル規模に成長すると予測している。
セキュリティ問題やその他の理由から、多くの大企業ではワイヤレスの導入をためらっている。しかし今年は、こうした傾向が変わると予想されている。垂直産業によってまず試された技術の多くが一般に浸透したためだ。
「全般的に、今でも(Wi-Fiの)最大の顧客は垂直企業だ。こうした企業は、投資に対する効果をすぐに実感できるからだ」と指摘するのは、米Symbol Technologiesのワイヤレス製品マーケティング部門ディレクターのGraham Melvilleだ。Symbol Technologiesは企業向けワイヤレス機器市場で米Cisco Systemsに次ぐ第2位のシェアを占めている。
シリコンバレーを築いた起業家精神を忠実に実践すべく、ワイヤレス市場を牽引しているのは、Symbol TechnologiesやCisco Systemsをはじめとする企業が特定の顧客向けプロジェクトで開発した製品だ。
例えば、新技術の導入が遅いことで知られている病院のような施設でも、Wi-Fiネットワークを電話に利用するところがでてきた。この新電話システムは、看護師がこれまでのようにナースステーションまで走らなくても、即座に医師の呼び出しに対応することができるものだ。
フロリダ州では、患者の情報を迅速に確認し更新するために、看護師がWi-Fi対応のノートパソコンを利用している。患者の情報を入手するためにナースステーションに戻る必要はない。Orlando病院のネットワーク・サービス・マネージャー、Gil Sturgisによると、昨年は看護師不足を補うものとしてこうした技術が極めて重要な役割を果たしたという。
米Hewlett-Packard(HP)も他の企業と同様、顧客である垂直企業でワイヤレス技術の実験を行い、ワイヤレス製品の向上と拡大を進めた。HPは大学と協力して、いくつかの他の技術と連携して動く製品を開発した。医療産業におけるプロジェクトでは、プライバシーに関する重要な案件にも取り組んだ。
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