最終更新時刻:2008年7月24日(木) 23時08分

Blog戦争:RSSはどこへ行く?

Paul Festa

2003/08/25 10:00  

 インターネットがビジネスの舞台と化している今、身の回りや社会で起きたできごとを書き手が独自の視点で記録するスタイルのBlogは、個人の表現と純粋な民主主義の最後の砦となっているようだ。

 となれば、Blogを支える技術をめぐって激しい覇権争いが起きていたとしても驚くにはあたらない。純粋な民主主義の下では、こうした争いは避けることのできないものなのだ。

 争点となっているのは、Blogや各種ウェブコンテンツの更新通知に広く利用されているRSS(Really Simple Syndication)と呼ばれる技術だ。この技術をめぐり、Blogの祖でRSSの管理人と目されているハーバード大学ロースクールの特別研究員Dave Winerと、RSSに代わる新しいフォーマットを推進する一派が論争を繰り広げている。後者の代表格といえば、Bloggerを買収したGoogleや、RSSに代わる新フォーマットの開発を進めているIBMの有力開発者Sam Rubyだ。

 反Winer陣営は、現在のRSSからあいまいさやバージョンの混乱を排除した高機能なフォーマットを開発し、標準団体のお墨付きをもらいたいと考えている。RSSそのものを強化するという選択肢はない。WinerがRSSの中核技術を凍結し、大きな変更ができないようにしたからだ。

 今回の論争の向こうに透けて見えるのは、複雑で政治的な業界標準の世界だ。法的権限を持たない個人がプロトコルの方向性を決定できるこの世界では、個人攻撃が横行することもめずらしくない。技術者同士のつまらない中傷合戦が、重箱の隅をつつきあっているうちに深刻な結果にいたることもある。そんな中、企業の関心は紛争に乗じて一儲けすることにしかない。

 W3C(World Wide Web Consortium)のテクニカル・アーキテクチャ・グループのメンバーであるTim Brayは、6月23日のBlogにこう書いている(BrayはW3C勧告のマークアップ言語、XMLの開発メンバーであり、RSSはXMLがベースとなっている)。「Dave WinerがRSSに多大な貢献をしたことは否定の余地がない。中核部分を開発したのは彼だし、RSSがここまで発展したのは彼の功績といえるだろう。しかし、仕事相手としてはどうか。Daveに手を焼いている個人や組織は少なくないように思えるのだが」

 この投稿はRSS論争に関わる双方を刺激したのはもちろん、Winer本人の怒りを買ったことはいうまでもない。

 ある取材に対し、Winerはこう答えている。「なぜ私の人格が問題になるのか。そうすれば私が黙るとでも思っているのだろうか。私は周囲と問題なく仕事をしているつもりだ。こんなやり方はフェアじゃないし、真実でもない。そもそも、こんなコメントを出すのは(Brayのような)名声ある人間のやることではない。攻撃からモノは生まれない。攻撃は破壊をもたらすだけだ。他者への反感だけでモノは作れない」

 この論争が分裂を招くと憂慮するアナリストもいる。分裂が現実のものになれば、Blogの普及は望めない。「企業はRSSのどのバージョンを使おうか、それともRSSのかわりにEchoを使おうかといったことで悩んだりはしない。コンテンツの更新情報を配信できさえすればいいのだ」とJupiter ResearchのアナリストMichael Gartenbergはいう。

 「これ以上対立が続けば、ここ数年で手にした成功は台無しになるだろう。論争に関わっている個人個人が束になってもかなわないようなMicrosoftやIBMといった大企業が参入してきて、自分たちに都合のよいプロトコルを標準にしてしまうからだ。自分たちのフォーマットを業界標準にしたいなら分裂は避けるべきだ。手を組むなら今しかない」(Gartenberg)

 RSSはもともとNetscape Communicationsが実用目的で開発した技術だが、それがこれほどの騒ぎを引き起こすことになるとはNetscapeも思わなかったにちがいない。Netscapeは当初、さまざまなアプリケーションでウェブ文書を読みこみ、タイトル、作成者、主題といった属性を識別するための手段としてRSSを開発した。

 その後、Blogの書き手たちがこの技術に注目し、新規の投稿やその内容をリーダーソフトに自動的に通知する手段として用いるようになった。BBCやCNET News.comも自社のニュースサイトでRSSの技術を利用している。

 やがてNetscapeはRSSの開発に興味を失い、WinerがCEOを務めていた米カリフォルニア州パロアルトに拠点を置くUserLand Softwareにフォーマットを譲渡した。UserLand SoftwareはBlogや各種ウェブコンテンツの出版ソフトを開発している。

 今年、Blogの祖として強い影響力を持つWinerはUserLandを辞め、ハーバード大学ロースクールのバークマンセンター(Berkman Center for Internet & Society)に移った。今月にはその後を追うように、RSSもハーバードへ移管された。バークマンセンターが商用著作権を主張しない「クリエイティブ・コモンズ」ライセンスのもとでRSSを公開したのだ。RSSの管理をUserLandからハーバードに移すという決断は、論争の両陣営から称賛をもって迎えられた。Brayも例外ではない。

さらばRSS

 現在、Blogに関心を持っている個人や組織は、RSSに代わる新しいフォーマットに目を向けはじめている。WinerがRSSの中核部分を凍結したことも一因だが、最大の理由はRSSに対するWinerの態度にあるようだ。反Winer派によると、WinerはRSSの中核部分の開発を凍結しただけでなく、対抗勢力が推進する「namespaces」と呼ばれる拡張技術に独断的としか思えない態度をとっているという。

 IBMの上級技術者でApache Software FoundationのディレクターでもあるSam Rubyは、米ノースカロライナ州ローリーでRSSに代わるフォーマットを開発しているが、彼の訴えはこうだ。「Dave Winerはことあるごとに、namespacesは相互運用性を損うものだと批判している。彼の提供するRSS仕様書にはnamespacesのリストが挙げられているが、それはほんの一部にすぎない。一部のnamespacesだけを取り上げ、それ以外のものは無視していて分かりにくいことこのうえない。あれでは何がよくて、何がだめなのかは誰にもわからないだろう」

 Winerのやり方に不満を持っていたRubyたちは、より高機能な配信技術のニーズが高まっていることを受け、RSSに代わる包括的なフォーマットの開発に乗り出した。新フォーマットには更新通知だけでなく、出版、編集、アーカイブの機能も盛り込まれるという。

 この代替フォーマット(Atom、Echo、Pieといった名前で呼ばれてきたが、正式名称は検討中)は、技術的にはRSSとよく似ているが仕様は異なる。Rubyらによれば、将来的にはフォーマットの管理はおそらくIETF(Internet Engineering Task Force)などの標準団体に委ねることになりそうだという。

 新フォーマットがRSSの基本構造の相当部分を受け継いでいることをみると、今回の論争が技術そのものというより、Winer個人をめぐるものだったことは明らかだ。Winerは昨夏にUserLandのCEOを退いたが、今も同社の取締役であり、筆頭株主であることは変わらない。

Blog戦争は個人攻撃へ

 Winerとハーバードの同僚たちは、論争が日増しに個人攻撃の色を濃くしていることに反発を隠さない。ハーバード側はRSSの管理者がUserLandからバークマンセンターに変わったことをもって、WinerがRSSを牛耳っているという疑惑は晴れたはずだと主張している。

 「Dave (Winer)は、“この問題から私を切り離してくれ。私がRSSの進歩を妨げているという言いがかりをはらしたい”と言っていた。非常に建設的な意見だと思う」とバークマンセンターのエグゼクティブディレクターJohn Palfreyはいう。Palfreyは今回の論争を「内輪もめ」と表現する。

 「これは人格攻撃であり、問題の本質が見失われている。問題は人間ではなく、技術の優劣だ。議論すべきは技術であって、人間の好き嫌いではない」(Palfrey)

 しかし、反対派はPalfreyの主張を一蹴する。確かにRSSはハーバードに移管され、諮問委員会も設置された(Winerも委員の1人だ)。しかし、これは表面上の変化にすぎず、WinerがRSSを支配している事実は変わらないというのが反対派の言い分だ。

 「RSSは常に1つのベンダーに支配されてきた。RSSはオープンなフォーマットではない」とノースカロライナ州アペックスのMark Pilgrimはいう。Pilgrimはソフト開発やコンサルティングを手がけるMassLight(本社:ワシントン)のウェブ開発者兼トレーナーで、Web Standard Projectのメンバーでもある。

 Winerは、Rubyのフォーマットが普及すれば支持するとは言っているが、IBMやGoogleのような大企業は技術を複雑にして、個人や小規模企業が実装できないようにするだろうと警告する。

 Winerはいう。「RSSの核心部分を凍結したのはRSSを守るためだ。RSSはシンプルな技術だ。しかし、大企業はクライアントから何十万ドルもの実装料をせしめるためにRSSを複雑な技術に仕立てようとしている。実際、IBMなどは出版システムのコンサルティングを行っているが、RSSが普及すれば契約は絵に描いた餅に終わる。Sam Rubyが嫌な奴だというのではない。RSSを複雑にすることがIBMのビジネスなのだ」

 Rubyは自分たちが開発しているフォーマットは複雑にはならないと反論する。それどころか、RSSのバージョンを統合し、拡張ルールを明確にすることで、現在のRSSよりシンプルになるはずだという。また、Rubyたちは配信フォーマットの開発にとどまらず、Blogフォーマット(Blogの編集・出版機能のAPI)の標準化にも取り組んでいる。

 しかし、配信機能そのものはRSSによく似たものになるとRubyはいう。

 「中核部分には手をつけず、あいまいな部分を排除するようにつとめた。RSSとの違いは、RSSにつきまとっていたあいまいさや後味の悪さがないことくらいだろう。2時間もあれば実装できるはずだ。難しい技術ではない。もちろん、大企業にコンサルティングを依頼する必要もない」(Ruby)

 一連の騒動を受けて、RSSの管理は標準団体に委ねるべきだと考える人が増えている。そうなれば、さまざまな関係者からなるワーキンググループで、技術の方向性や開発の問題を議論できるようになるだろう。

標準団体という泥沼

 Winerと反対派が標準団体への移管に合意したとしても、まだ問題は終わらない。どの標準団体に委ねるべきかという問題が出てくるからだ。

 Brayは6月23日のBlogで次のように書いている。「W3Cはだめだ。名前が売れてしまって、動きがとれなくなっている。仮にワーキンググループが立ち上がったとしても(何カ月もかかるだろうが)、RSSは旬のテクノロジーだ。すぐに75以上の企業が参加を表明してくるだろう。成果は期待できないというつもりはないが、RSSが台無しにされる可能性のほうがはるかに高い」

 RubyとBrayは、代替フォーマットの里親はW3CよりIETFがふさわしいと考えている。誰でも自由にRFCドラフトを投稿できるという意味では、W3CよりIETFのほうがオープンだ。また、IETFの主体は個人であり、会費を払っている企業や団体の代表ではない。

 もちろんW3CもXMLの実績をもとに、自らの管理能力を主張している。

 W3CのJanet Dalyはメールによる取材で次のように答えている。「事実、Tim(とその他のXML開発者)がXMLの元となったアイデアを委ねた先はW3Cだった。当時のワーキンググループに政治的な駆け引きがなかったとはいわないが、それでXMLがだめになったという者はいない。XMLはワーキンググループのメンバー、メンバーが代表している組織、そして希望するすべての人が自由に利用できるオープンな標準になっている」

 Winerは、IETFであろうとW3Cであろうと、標準団体に配信やBlogのフォーマットを委ねることに懐疑的だ。Winerによれば、標準団体もまた、この技術を小規模企業や個人が自力では利用できない代物に変えてしまうという。時間はかかっても、RSSは今のペースで拡大をつづけ、普及するというのがWinerの見方だ。

 標準団体が何をしてくれるというのか、とWinerは問いかける。「立派な理論を作り、策略をめぐらせたとしても、市場はどんどん成長しているのだから意味をなさなくなる。市場には製品があふれており、開発者が技術を凍結しようと、公開しようと、どこかの団体に委ねようと関係ない。開発者の意図など解さずに、市場は広がりつづけているのだから」

 見出し配信フォーマットへのニーズが高まっているという点についていえば、異を唱える者はいないだろう。しかし、Rubyと仲間たちのもとには、この成長市場の関心がWinerのRSSを離れ、Rubyの推進する新しいフォーマットに集まりつつあることを示す証拠が続々と届いている。すでにGoogleと同社のBlogger事業部や、Blog作成ツールMoveable Typeの開発元Six Apart、スタンフォード大学法学教授Lawrence Lessig、そしてBrayといった面々がRubyのプロジェクトに支持を表明している。

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