加納恵(編集部)
2008/02/20 16:06
2月19日、東芝からHD DVD市場における撤退が正式発表された。ハイビジョン映像が録画できる大容量、新世代ディスクとして推進してきたHD DVDはなぜ負けたのか? デジタル・メディア評論家の麻倉怜士氏が分析する。
新世代、大容量ディスクHD DVDが製品として東芝から登場したのは2006年の春。登場から約2年という月日でその市場は幕を閉じた。大容量、ハイビジョン録画というコンセプトはBlu-rayと同様ながらも、なぜHD DVDは負けたのか? 麻倉怜士氏は、AV業界の規格戦争にまつわる3つの法則をHD DVDにあてはめ考察している。
これまでの規格戦争を振り返ってみると、容量(記録時間)が低くて勝った例は1つもない。ビデオではベータ(1時間) VS VHS(2時間)、ビデオカメラであれば、VHS-C(20分) VS 8mm(1時間)と常に勝者になったのは長時間記録が可能なメディアであった。
前回のDVD規格戦争でも、ソニーとフィリップスが提案したMMCDは当初3Gバイト、東芝・松下電器が提案したSDは同5Gバイトであり、SDが勝ち、DVDになった。
そこで、HD DVDを見てみると、1層15Gバイト、2層30Gバイト。1層25Gバイト、2層50GバイトのBlu-rayと比較するとその容量差は歴然だ。まったくもって勝負は初めからあった。HD DVDが頼んだは高効率コーデックだが、それは等しくBlu-rayでも使えるわけで、強みにはならない。
各規格のデファクトスタンダードを握る会社は、その栄華が永遠に続くことを願うものだ。CDで大成功を収めたソニーが、CDの延長線上にあるMMCDを提唱し、カセットテープで王国を築いたフィリップスはMDに対抗し、カセットテープをベースとしたDCCを提案。ビクターは新世代VHSとしてD-VHSをリリースしている。いずれも、栄えているフォーマットの延長に、新しい規格を求めた。
しかし、これらはすべて新しい技術、新規格に凌駕されてきた。一時代を築いたメディアを持つ企業は必ず新世代には負けるという法則である。フォーマットホルダーの陥穽がここにある。東芝のHD DVDもまったく然りだ。
規格化とはある時点で、技術進歩を止めるということ。しかし技術は時間とともに進み、光ディスクにおいては大容量技術が次々に開発されている。
人間のあらゆる歴史は権勢永遠願望派と革命派の弁証法的戦いであり、それは光ディスクも同様だ。DVDの規格戦争で勝利を収めた東芝には、莫大な特許料収入が入った。前項で述べたように、新世代DVDにおいてもこの状態を継続させたいと思う。
Blu-ray VS HD DVDの規格戦争において、最も注目されたのはそのディスク構造だ。DVDまで振り返れば、CDと同じ12mm厚のソニーMMCDは、革新的な0.6mm厚のDVDに破れた。そして、革新的な0.6mm厚を実現した東芝が、新世代DVDにおいて墨守派となり、権勢永遠を目指し、同じ構造を継続した。
しかし、新世代DVDではソニーが革新的な0.1mmの大容量ディスクで攻撃、墨守の東芝HD DVDは粉砕された。歴史は繰り返すのである。墨守の姿勢からは新しい技術は生まれない。このようにみてくると、東芝の敗退は、実に歴史的な大必然であることが分かるのである。
デジタルメディア評論家。1950年生まれ。日本経済新聞社経て、プレジデント社に入社。雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長を経て、1991年にオーディオ、ビジュアル、デジタルメディア評論家として独立。デジタルAV機器、ネットワーク関連の動向、音楽に造詣が深く、著作も多数。最近では「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書)、「松下電器のBlu-ray Disc大戦略」、「イロハソニー」(日経BP社)などの著作がある
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