鍵盤や弦、リードやマウスピースなど、旧来の楽器は入力が発音の仕組みと密接に関わってきた。しかしこうした旧来のインターフェースは、現代の電子楽器にふさわしいものなのだろうか? メディアアーティストの岩井俊雄氏がヤマハと共同で制作した「TENORI-ON」は、この問題に大きく迫ったデバイスだ。
12月2日、明治大学駿河台校舎にあるアカデミーホールで、「シンポジウム“TENORI-ON+初音ミク+BiND+元気ロケッツ×武田双雲”」というイベントが開催された。これは明治大学の大学院理工学研究科に新領域創造専攻が新たに設けられることに伴うもの。この第1部で行われたのが、岩井俊雄氏による電子楽器TENORI-ONのライブパフォーマンスだった。
TENORI-ONは、LED付きスイッチが16×16のグリッドに集合したような形状をしていて、このスイッチを押すことで音が出る。複数のスイッチを押すと次第に複雑な音になっていき、やがてミニマルミュージック的な曲として成立していく。演奏デモ動画はYouTubeにもアップロードされている。メディアアート、あるいはガジェット的にも見えるが、今年9月にはイギリスでは実際に楽器として先行販売が実施され、好評を博しているという。
ライブ後、岩井氏からは6年間に渡ったTENORI-ON制作までの道のりが語られた。話は岩井氏が初期の音楽制作に使っていたヤマハのMSXコンピュータの話から始まる。「テレビ画面上の五線譜に音を並べて入力していた。僕は高校時代にギターなどに挫折したクチで、こうしたコンピュータがあれば、自分でも曲が作れるんじゃないかと夢を抱いた」(岩井氏)。しかし、いざやってみると楽譜の壁にぶつかったという。「とても複雑すぎて、自分で入力できるとは思えない」。その頃に出会ったのが手回し式のオルゴールだった。
オルゴールでは紙テープの穴の通りに曲が演奏される。「紙テープの穴は、楽譜よりずっとわかりやすく見えた」(岩井氏)。さらに、これを逆に入れると違うメロディが流れるところに大いに興味を引かれたという。また、紙テープに穴が並んでいる様が抽象絵画のように見えてきたところから、視覚表現と音楽は融合できるのではないかという着想を得たと語る。
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