IBMの研究者らが、あるソフトウェアのテストを進めている。このソフトウェアは、家庭やオフィスのデスクトップ環境をiPodや類似の携帯デバイスに入れて持ち運び、どのPCでも自分のそれを実行できるようにするというものだ。
この仮想のコンピュータユーザー環境設定技術は「SoulPad」と呼ばれ、家庭もしくはオフィスにあるx86ベースのPCからインストールする。SoulPadは、USBもしくはFireWire経由でマシンに接続し、インターネットアクセス用のネットワークカードやモニタ、キーボード、メインプロセッサ、およびメモリを使えるようにするが、ただしハードディスクは利用しない。
また、ユーザーがシステムの終了すると、SoulPadはPCのメモリに保存されている全作業をはじめ、ブラウザのクッキーや各種デジタル署名などをデバイスに保存する。
SoulPadという名前は、PCを肉体(プロセッサ、メモリ、キーボード、モニタ)と魂(データ、アプリケーション、個人設定)に分ける考え方に由来する。
今のところ、同製品はテスト段階にあるが、SoulPadの開発に参加するRamon Caceres(IBM ResearchのWearable Computing事業部スタッフ)によると、同社では専用デバイスを製造するハードウェアメーカーに同技術をライセンスする可能性もあるという。
「われわれは、ノートPCを持たなくても自分のコンピューティング環境を持ち運べるようにする研究を進めてきた。SoulPadは、フル装備のPCではなく、小型デバイスを持ち歩いて家庭とオフィスの間を行き来する出張の多いビジネスマンに最適だ。またこの技術は、利用するPCが最小限の環境を備えていれば動作するため、その点でも非常に優れている」(Caceres)
携帯型のハードディスクからシステムを起動するという考えは特に新しいものではない。また、ユーザーが家庭とオフィスの間を行き来する際に、プログラムや個人設定を含むデスクトップ環境全体を持ち運ぶトレンドも以前からあったものだ。
USBメモリのメーカーがつくる業界団体「U3」では、フラッシュメモリベースのドライブを基本的なデータストレージ以外にも利用するメリットを消費者に啓蒙するキャンペーンを、1カ月後に立ち上げることになっている。
U3のCEO、Kate Purmalは、「IBMの進める研究とわれわれが行っていることは、いつか必ず1つになるだろう」と述べている。
IBMによると、SoulPadが実現可能になった背景には、次の3つの技術トレンドがあるという。それは、大容量化/高速化/低価格化の進む携帯型ストレージデバイス、マシンへのインストール作業が要らない自動設定型OS、そしてPCクラスのマシンで利用可能な仮想マシン技術の3つである。
SoulPadを利用するには、6Gバイトのディスクスペースが必要だ。このうち4GバイトはOS用で、残りの2Gバイトは暗号化されたデータのスワップおよび保存用に割り当てられる。
ユーザーがさらに多くのデータを持ち運びたい場合には、6Gバイトを超えるディスクを利用することも可能だとCaceresは述べている。また、フラッシュメモリベースのドライブを利用することも可能だが、IBMはSoulPadの性能を完全にテストするため、ハードディスクドライブに限定して実験を行っているという。
IBMは、60GバイトのiPod PhotoにLinux の1種である「Knoppix」と「VMware Workstation」を組み込んで、このテストを行った。SoulPadソフトウェアはx86 PCを暗号化した仮想マシンとして利用し、そのなかにゲスト用のOSや、Microsoft WordやFirefoxウェブブラウザなどのアプリケーション用パーティションを作成する。
「われわれがKnoppixを選んだのは、この種のLinuxなら未知のPC上でもあまり多くのやりとりをせずに起動できるからだ。製品版では、ユーザーがSoulPadのブートシーケンスを設定できるようにして、自分が使いたいデータやアプリケーションをデバイスに認識させることが可能になるだろう。現在はこれを手作業で行っており、ブートにやや時間がかかっている」(Caceres)
SoulPadが動くデバイスを終了して、それを持ち出せるようになるまでには約20秒かかる。また、同じPCに再びSoulPadを接続してをシステムを起ち上げるには約2分かかる。
Caceresによると、SoulPadのユーザーは、たとえば出張先では軽量ノートPCにこれを接続して使い、それ以外の場合はより強力なノートPCで同じ環境を動かせるようになるという。また、保険会社の調査員などが、現場での査定時には自分のSoulPadをタブレットPCに接続して使い、ほかの作業ではデスクトップPCに接続するなどの使い方も考えられる。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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