「(ARMアーキテクチャ製品の出荷ごとに得られる)ロイヤリティ収入が近年急激に伸びている。携帯電話だけでなく、デジタル家電の伸びが大きいことが貢献している」---アーム 取締役 マネージングディレクターの内村浩幸氏はこのように語る。
英国に本社を置くアームは、自社で半導体の生産や販売を行わず、機能ブロック(IP:Intellectual Property)の設計を行って半導体ベンダーに提供するIPプロバイダだ。半導体の集積度が高まり、システムLSIの設計が複雑化するにつれ、動作確認済みのIPを組み合わせて設計期間とコストを減らすIPベースの設計が注目されている。
ARMアーキテクチャは、高速で消費電力が低いことからNokiaなどの携帯電話端末に採用され、一気に普及した。現在アームのライセンスを受けている企業は世界全体で133社にのぼる。SIA and Semico Researchが2003年第1四半期に行った調査によれば、組み込みコア市場におけるアームのシェアは79.5%という。
アームの収益源は主に3つある。1つ目は半導体ベンダーがIPを利用する契約を締結した時点で支払うライセンス料、2つ目はIPを利用した製品の出荷ごとにかかるロイヤリティ、そして3つ目がソフトウェアの開発ツールなどだ。
内村氏によると、この中でも特に伸びているのがロイヤリティだという。ロイヤリティ収入は2004年第1四半期に前期比12%増の2410万ドルとなり、売上高全体の約38%を占めた。出荷数は2億7800万個となり、過去最高を記録している。「昨年後半から出荷がうなぎのぼりで増えている」(内村氏)。
シャープの液晶テレビにも搭載
アーム 取締役 マネージングディレクターの内村浩幸氏 |
この成長を支えているのがテレビやデジタルカメラなどのデジタル家電だ。ARMアーキテクチャはシャープの液晶テレビ「AQUOS」や東芝のポータブルオーディオプレイヤー「GIGABEAT」、任天堂の携帯ゲーム機「ゲームボーイアドバンス」などに搭載されている。
ARMの強みについて、内村氏は3つの利点を挙げる。1つ目はコアの小ささだ。「コアが小さいためダイサイズを小さくでき、コストを削減できる」(内村氏)。コアが小さいことで、消費電力が少なくなるというメリットもある。
2つ目はパートナー企業の多さだ。アームはEDA(半導体設計ツール)ベンダーやOSベンダーなど約250社とパートナー関係にあり、ユーザーの要求に応えられるだけの開発環境が揃っていると内村氏は話す。
3つ目はARMアーキテクチャ間の互換性だ。「たとえばARM9向けのソフトウェアはそのままARM11でも利用でき、ソフトウェア資産の再利用が可能だ」(内村氏)。ハードウェアに関しても、コアにつながるIPや回路は再利用できるという。デジタル家電は開発サイクルの短縮が常に課題とされるが、ARMアーキテクチャを利用することで新たなソフトやハードの開発が不要となり、開発期間を短縮できるというのだ。
「セットメーカーから見れば、自分たちの開発したソフトウェアをそのまま継続して使えるというのは大きな利点だ。また、多くの半導体ベンダーがARMアーキテクチャを採用しているため、調達の選択肢の幅が広がる。複数の企業で価格競争をさせ、調達価格を抑えるといったことも実際に起きているようだ」(内村氏)
「良い技術も、使われなければ価値がない」
アームでは現在、デジタル家電と自動車を開発の重点分野として挙げている。内村氏によると、これらの分野では高パフォーマンスへの要求が高いという。
「デジタルテレビの場合、画像処理をしながらインターネットに接続するといったように、同時にさまざまな処理を並行して行う必要がある。このため、高速処理能力が求められている」(内村氏)
自動車分野では、すでに本田技研工業の軽乗用車「Life」に採用実績がある。カーナビやDVDプレイヤーだけでなく、本体の制御やアシストシステムなど自動車における半導体の比重は高まっており、「特に車のエンジンコントロールではエンジンを回転させながらさまざまな制御を行うため、応答性が求められる」(内村氏)という。
アームでは性能の向上を図ったARM11を2002年10月に発表しており、2004年にはこのコアを搭載した製品の出荷が始まっている。最新のチップ「ARM 1176JZ」ではハッキングを防ぐTrustZoneという技術や、Intelligent Energy Manager(IEM)という消費電力を抑えるためのプロセッサ速度調節機能を備えた。アームではこの製品をデジタル家電や自動車分野に売り込む方針だ。
内村氏は今後の展開について、「単にCPUの性能を上げるだけではなく、セキュリティ技術や電源管理技術などをいかにトータルソリューションとして提供していくかが課題となる」と話す。新しい技術をサポートしていく体制やソフトウェア環境をパートナー企業と共同で作っていくことが必要だというのだ。
「いくら良い技術を開発しても、顧客に使ってもらわなくては価値がない」と内村氏は言う。「ARMとしても、ARMチップを搭載した製品の出荷数が増えるほど、ロイヤリティ収入が増える。単にライセンスを提供するだけでなく、半導体ベンダーの成功のために最大限のサポートを提供する。パートナーの成功があって初めてARMの成功があると考えている」(内村氏)
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