経済産業省が情報家電の市場化を戦略的に推進するため発表した「e-Lifeイニシアティブ(基本戦略報告書)」。これは2007年までに全ての世帯に複数の情報家電を普及させ、生活様式に変革を起こそうという目的で計画されたもの。この目標を達成するため、具体的に政府はどのような政策をとるのか。東京ビックサイトにて開催中のWireless Japan 2003で、経済産業省の商務情報政策局 情報通信機器課長である福田秀敬氏が講演を行った。
大手家電メーカーの給料は高い
福田氏によると、e-Lifeイニシアティブの背景にあるのは「情報家電がもたらす製品やサービスの具体的イメージを提起し、日本のIT企業の国際競争力の回復・強化を実現させる」ということ。同氏は、大手電機メーカー5社がバブル期においてさえ営業利益率が年平均2%しかなかったこと、さらに現在の経済低迷期においては平均マイナス0.6%であることを指摘し、「こういった企業が年金などを払い続けるためには、バブル期の数字でさえ十分ではない。最低でも利益率5%以上をキープしないと生き残ることはできない」と警告。このような危機的な状況にあるにもかかわらず、大手電機メーカーの従業員の給与は高く、また企業としても市場拡大意欲が低いという。そこでこれら企業が注目すべきなのが情報家電だ。「この分野の可能性は大きい。ビジネスチャンスを逃すべきではない」と福田氏はいう。
経済産業省 商務情報政策局 情報通信機器課長 福田秀敬氏 | |
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このようなメーカー企業に競争力をつけてもらうため、e-Lifeイニシアティブが登場するわけだが、この戦略はメーカー側に立った観点となっているものの、「実際にはユーザー中心に戦略を進めないと、使えない情報家電を作っても仕方がない」と福田氏。「新しいもの好きな一部の若者が使っているだけでは意味がない。少子高齢化が進んでいるのだから、お年寄りでも使える情報家電でなくては普及も進まない」(福田氏)
実際、情報機器やサービスの利用に関してアンケートを行ったところ、情報化に対する期待と不安では、不安のほうが圧倒的に多いという結果が出たという。犯罪やプライバシー侵害に対する不安や、情報の氾濫で物事の判断が難しくなることなど、ネガティブな意見に対する支持が多かったことを福田氏は指摘、ユーザーに対して情報機器がいかに安全に使えるか、また使いやすいかをうまくアピールしていく必要があると語った。
企業における情報機器の普及についても課題があることを福田氏は指摘する。モバイル環境は忙しいビジネスパーソンや在宅勤務にとって必須であるが、それ以前に「日本の管理職が部下の仕事内容を明確に把握していないことが問題だ」と福田氏。そのため「部下が上司に正当に評価されているかどうかがわからず、遠隔勤務に対する不安が生まれる。その結果、出席点を取るためだけに上司の前で仕事をする傾向がある」という。ただ、上司が部下の仕事をすべて把握するには大変な負荷がかかり、そのためのサポートツールや業務改善が必要だと福田氏は述べている。
課題を乗り越えるために
情報家電の普及までには課題が多いが、それでも行動を起こさなくては前に進まない。e-Lifeイニシアティブでは、セキュリティ対策や環境整備、実証実験などを進めるとともに、ユーザーの意見を直接取り入れたコンシューマーレポートの作成を計画している。「日本の雑誌は広告で成り立っているため、ネガティブな意見や正直な数字が公表できない部分がある。その事情はわかるが、われわれとしては何とかユーザーの生の声を反映したレポートを作っていきたい」と福田氏はいう。
また、e-Lifeイニシアティブで一番力を入れているのが技術の標準化だ。福田氏は情報家電にインターオペラビリティが欠けていることを指摘し、そのため製品化に時間がかかることが問題だという。製品が少ないと普及にも結びつかないのは当然のことで、「ドコモがヨーロッパで苦戦しているのも対応端末が少ないためだ」という。e-Lifeイニシアティブでは、「情報家電のプラットフォームはLinuxやTRONなどが最適だ」と明言しており、オープンなアーキテクチャで標準化を進めるべきだと福田氏は語った。
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