NECエレクトロニクスの門田浩氏は6月23日、情報処理学会の講演で情報機器の組み込みソフトウェア開発における課題について語るとともに、今後組み込みシステムで利用が見込まれるOSの種類について紹介した。
組み込みソフトウェアの課題として門田氏が挙げるのは、開発期間の短さとソフトウェアサイズの増加だ。例えば携帯電話では現在、通信キャリアの製品サイクルに合わせて半年おきに新しい機器を発売している。つまり、端末の開発期間は半年しかない。一方、携帯端末のほとんどの機能はソフトウェアで実現されており、その機能は年々複雑かつ膨大になっている。
組み込みソフトウェアは、新規開発をいかに効率化するか、また、ソフトウェアの再利用の割合をどれだけ上げるかが問題になっていると門田氏は語る。そこで注目されるのが、高品質のソフトウェアを効率よく作成するための方法論であるソフトウェア工学の利用だ。
NECエレクトロニクス 門田浩氏 | |
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UMLへの過度な期待は危険
まず、門田氏が最も期待するのは要求仕様と実際の設計技術を結び付けるオブジェクト指向技術だ。門田氏はモデル設計の言語化がポイントになるとしており、オブジェクト指向が要求分析の切り札になると話す。ただし、その一方で「オブジェクト指向に関するセミナーなどは盛況だが、結局は指導者次第だ」と警鐘を鳴らした。「最終的には対象物をどう分析し、絵(全体像)を描けるかが問題」としており、言語を勉強するだけでは不十分だと話す。またUMLに注目が集まっていることについても「過度な期待は危険だ」とした。
再利用技術に関しては、すでにソフトウェアの部品化などが進んでいるが、門田氏が注目するのはシステムの機能をオブジェクト指向で実現するコンポーネントの手法だ。「我々がいうミドルウェアの考え方に近い」(門田氏)としており、組み込みソフトウェアでも少しずつ流通し始めているという。ただし、特定分野向けに複数のコンポーネントを結合させたフレームワークの利用はまだ進んでおらず、今後市場に広がっていくと門田氏は予測する。SoC(System on Chip)の分野ではこの考え方に基づいた方法論が出てきており、「組み込み系の中でもハードウェアに近い人たちにとっては分かりやすい手法だ」(門田氏)と期待を寄せた。
門田氏は実際の例としてトヨタ自動車の取り組みを挙げ、製造コストの削減と、人命に関わる厳密なシステム作成の両方の課題を満たすために、エンジン制御システムを中心にソフトウェアの構造化と再利用が進んでいることを紹介した。安全性の高いソフトウェアを再利用することで、コスト削減と品質の向上に成功したという。
組み込みOSはITRON、Linux、Windows CEの3つに
門田氏は日本で利用される組み込みOSのプラットフォームについても触れ、ITRONとLinux、Windows CEの3つが大多数を占めると予測する。門田氏は、組み込みシステム開発で過去1年間に利用したOSのAPIはITRON、Linux、Windows CEの3つの合計が過半数を占めたというアンケート結果を紹介。さらに今後採用したいOSのAPIについては、約半分がITRONを挙げていたほか、全体の約80%が前述の3つを挙げていたという。
また、ITRONとLinuxについても、製品によって自然に棲み分けができていると門田氏は指摘する。ITRONが単一機能で少数の開発チームで作られる製品に向いており、計測器や産業用機器などに使われているという。一方、Linuxは複雑な機能を備え、多人数で同時開発するような製品に利用されており、ホームサーバやインターネット機器などがその例に当たるという。両者の適用分野の境界としては、「アプリケーションサイズの1MB程度が目安ではないか」と語った。
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