1年ほど前、米国富士通イメージング事業部のセールス担当バイスプレジデントDon McMahanは、息子にせがまれてボーイスカウト用のラッパをeBayで探すことになった。
その後、McMahanはHewlett-PackardやSun MicrosystemsがeBayで販売をはじめるというニュースを耳にした。その数カ月後、富士通はeBayに自社ストアを開設し、リサイクル品の販売をはじめた。その中には1台3万ドルもする業務用スキャナーも含まれていた。
eBayでラッパを探した日のことをMcMahanはこうふりかえる。「eBayのサイトをまともに見たのはそれがはじめてだった。そのあと、eBayについていろいろと調べていたら、SunとHPがeBayと契約したというニュースが飛び込んできた。いけるかもしれない、と思ったのはその時だ」
eBayはインターネット上のフリーマーケットとして、コレクターや小規模企業の支持を集めてきたが、今では大企業がeBayを利用するケースが増えている。従来は卸売業者に流していた中古品や再生したリサイクル品をeBayのオークションで売りさばくためだ。eBayに関心を寄せている業界は多いが、特にハイテク企業の期待は高く、出品者の中には業界大手の名前もみえる。
テクノロジーの支援がなければ、eBayの企業間取引市場がここまで盛り上がることはなかっただろう。多くの企業が在庫情報を自動的にeBayに送り、出品リストを生成する仕組みの構築をはじめている。完成すれば、企業はあたかも自社のオペレーション部門や購買部門の一部であるかのように、eBayを利用できるようになるだろう。
企業間取引市場の成功は、eBayにとって別の意味で重要だった。eBayは数年前、企業市場への参入を発表して小口出品者から非難を浴びたが、eBayがこのような発表を行ったのは、高い株価を正当化するために、成長要因を示す必要があったからだ。発表を聞いた小口ユーザーは大企業に顧客を奪われるのではないかと青ざめ、古くからの支持者たちはeBayの草の根コミュニティが失われることを嘆いた。
「われわれは常に“公平な競争の場”を提供している」というのはeBayのコンピュータネットワーキング担当部長Michael Rudolphだ。「eBayはひとつのコミュニティであり、その証拠にDellも、IBMも、Searsもほかのユーザーと同じ料金を支払っている」
大企業にとってすれば、その出費は十分な投資価値のあるものだろう。廃盤製品や耐用年数の迫った製品をeBayに出品すれば、清算業者よりもはるかに高い価格で売りさばくことができるからだ。
先日、企業向けソフトウェア大手のSAPとeBayは、出品プロセスと企業のオペレーションを統合するオークションマネジメントソフトウェアを共同開発することで合意した。このソフトウェアはeBayへの出品や製品データの集計を自動化するもので、企業がすでに持っている販売チャネルやソフトウェアと連携させることもできる。
「一部のSAPユーザーは以前から、不良在庫や耐用年数の迫った資産を処分するため不定期にeBayを利用していた。このプロセスを自動化した、統合的なソリューションを求める声があった」と、SAPのeBayサービス部門でマネージングディレクターを務めるAjit Nazreはいう。
IBMは2000年12月からeBayに出品している。出品アイテムの大半は製品寿命の迫ったノートPC、デスクトップ、そしてグローバルファイナンシング事業部が提供するリサイクル品だ。
「ほかのチャネルに比べて収益率がはるかにいい。eBayならエンドユーザーに直売できる。中間業者がいないから、当然効率はいい」とIBMのグローバル・オークション・セールスマネジャーBilly Sturtevantはいう。
さらに、顧客開拓の効果もあるとSturtevantは指摘する。eBay経由の売上の50%は、これまでIBM製品を買ったことのない顧客によるものだという。
eBayの賭け
eBayのビジネスを支えているのは、今も小口の売り手だ。eBayによると、企業間取引は総売上高の5%にも満たないという。しかし、eBayは法人市場の成長に期待をかけており、ウォールストリートはその未来を見込んですでに巨額の投資を行っている。
今のところ、eBayはコミュニティの信頼を維持しつつ、法人市場の拡大に成功しているようだ。大企業の進出に対する初期の反応はどっちつかずのものだったが、思わぬ「おこぼれ」に預かった売り手もいた。ブランド品を求めてやってきた客が、ほかのアイテムに金を落としていくこともあったからだ。
今年、eBayは企業間取引市場に特化したサイト「eBay Business」を立ち上げた。eBayによると、資本設備、ビジネス機器、卸売ロットの分野では企業の利用が増えており、今では年間売上の10億ドル以上を企業購入が占めるという。
売り手の伸びも著しい。先日、eBayはAccentureと提携し、企業が簡単に遊休資産や過剰在庫品、返品商品を販売できる仕組みを開発した。すると、大量の商品を抱える企業ユーザーから予想を超える反響があった。Accentureによると、契約率はeBayの予測の2倍に迫ったという。
この人気を受けて、AccentureやChannelAdvisorといった企業ではeBay活用法を伝授するコンサルティングサービスを開始した。アドバイスの内容はオークションマーケティングのノウハウから、既存のネットワークやオペレーションにeBayソリューションを統合する方法まで多岐にわたる。
Accentureが設立した関連サービス企業、Connection to eBayの事業開発・セールス担当バイスプレジデントであるNorman Jonesは「顧客のもとにトレーラーを送り、在庫をまるごと当社の倉庫に運び、eBayで販売し、月末締めで清算するといったサービスもありえるだろう」という。
しかし、企業がeBayを利用する場合は微妙な問題がいくつかある。小売パートナーとの関係はそのひとつだ。
富士通のMcMahanはこの問題を避けるため、同社のeBayストアをオープンさせる1カ月前に主要販売店と流通業者に事業の方針を説明し、eBayでは新製品を販売しないことを明言したという。
「当社にはすばらしいチャネルがある。新製品をeBayで売る必要はない」
一方、eBayのゼネラルマネジャーJordan Glazierは、eBayの企業間取引サイトはオンライン、オフライン、業種を問わず、あらゆる企業に健全な競争の場を提供するものだと断言する。
「ライバル企業がオンラインで商品を売っていると聞きつけた企業から引き合いの電話が入ることも少なくない。今はハイテク企業が中心だが、将来的にはホームセンターやスポーツ用品など、あらゆる分野の企業が参加するようになるだろう」とGlazierは予測する。
すでにeBayでの販売を成功させている企業は、成功の秘訣は基本的なビジネスセンスにあるという。
「要は経済の基本、つまり需要と供給のバランスだ。出品アイテムが多すぎれば平均価格は下がる。少なければ価格は急騰するが、商品の回転は悪くなる」とeBayで廃盤商品や見切り品を販売しているソファカバー会社SureFitのセールスディレクターDavid Spainは助言する。
「当社にとって、eBayはまったく新しい在庫処分チャネルだ。しかも、このチャネルはとどまるところを知らずに成長しているよ」
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