顧客ニーズの変化とオープンソースにゆれるデータベース業界

 120億ドル市場を誇るデータベースビジネスを長い間支えてきたのは、大規模なシステムでも十分に耐えられる高い処理性能を持ったソフトウェアを販売する企業である。しかし、これからは単に処理性能が高いだけでは不十分だ。ユーザーはデータベースソフトウェアに、知性と安さも求め始めている。

 データベース市場において上位を独占するOracleとIBMの製品は、クレジットカードの膨大な決済処理や航空会社の予約システムなどの大規模業務の屋台骨となるハイエンドシステムからの引き合いが強かった。先月には業界3位のMicrosoftも、次期Windowsと連携する64ビット仕様の高性能なSQL Serverを発表し、シェアの切り崩しにかかっている。この新製品によって「SQL Serverは大規模な処理業務には不向きだ」という批判を封じこめる構えだ。

 主要データベースメーカーはこのように、複雑な処理に対する技術的挑戦を繰り広げる反面で、技術以外の側面に期待を寄せる顧客の意見を聞き入れようと躍起になっている。顧客がデータベースソフトウェアに望んでいるのは、さらなる信頼性、そして、維持管理の手間やコストの削減だ。

 「今後、価格と運用管理のしやすさをめぐる競争はもっと激しくなるはずだ。市場はデータベース製品に対して、もっと実装が簡単で、維持管理コストが低く済むものを求めているからだ」データベース市場の動向に詳しいGartner research groupのTed Friedmanはそう述べる。「ここでの戦い方が今後の勝敗を左右するだろう」

 マーケティングの話になると、データベースメーカーの頭は痛い。ソフトウェアライセンス料は、小さなパイの取り合いの中で縮小する傾向にある。その結果、各メーカーは運用管理ツールの開発やTCOの削減、他のアプリケーションとの統合などの面で、他社と差別化を図ることに集中しなければならない。

 データ分析会社のInformation Resourcesは、この点について鋭い指摘を行なう。CIOのMarshall Gibbsはデータベースを選ぶ際に、どのブランドにするかはこだわらないという。一番重視しているのは、「機能、パフォーマンス、価格などの面で、どの製品が支払った金額に見合う対価を提供してくれるかだ」。

 Intelベースのサーバが登場し、ライバルのUnixベースのハードウェアに対して価格優位性があることからブームに火が点いている。かつて、IntelサーバがIBMやSun Microsystems、Hewlett-PackardのUnixシステムに比べて拡張性の面で見劣りするとして、Intelベースのサーバで稼動するデータベース製品は、大量かつ複雑な処理を必要とするアプリケーションには向かないと締め出されていたものだ。

 けれども最近、Intel ItaniumプロセッサおよびAMD Opteronプロセッサの性能が際立ってきたことから、ほとんどの企業におけるニーズは、急速に一般化した2ウェイ、または4ウェイサーバでも十分に満たせるようになっている。また、ハードウェアの値下がりによって、各企業は、鉄の塊であったメインフレームシステムからPCベースのシステムへと移行し始めた。その次の課題は、より費用効果の高いデータベース製品の購入というわけだ。

製品間の違いはわずか

 この動きに出遅れまいと、データベース製品メーカーは、顧客の気を惹きつけ、競合他社と一線を画す製品を作るのに必死である。だが、次に発表される製品の姿は、おおよそ見当がついている。たとえば、主要メーカーはそろって、ストレージの自動管理機能や、システム停止による損害を防ぐ障害検知機能を新機能としてうたっている。

 「データベース市場の上位3社にとって、高性能を売りにすることはもはや継続的差別化要因とならない」と語るのは、Meta GroupのアナリストMark Shainman。そして、Oracle、IBM、Microsoftの各社は「基本的に同じことをやっている」と付け加えた。

 予算切り詰めに躍起の顧客企業は、データベース管理者が1台ではなく複数のデータベースを同時に管理できる機能を求めている。データベースの運用管理費は、総じてライセンス料そのものよりも高額になりがちだ。

 そうしたことから、データベース業界のビックスリーは、運用管理の負担を軽減する自己管理ツールの開発に注力している。IBMは、同社のオートノミック(自律型)コンピューティングの研究成果となる自己管理機能をDB2に組み込み、データベースが自ら原因究明と修復を行なえるようにした。OracleやSybase、Microsoftの製品でも、同様の手口が見られる。

 こうした運用管理の効率化は明らかに重要であるが、しかし顧客が最優先で求めているのは維持管理コストの問題だ。ライセンス料、ハードウェア取得費、セットアップ費用、運用および保守費用などの総額を削減したいのが本音だ。

 特に、IntelやAMDベースのハードウェアから最大限の収益を得たいというニーズは、WindowsとLinuxという2つのオペレーティングシステム上で、データベースベンダー同士の激しい競争を引き起こしている。全てのベンダーがWindowsに対応する一方、IBMやOracle、SybaseなどはLinuxにも対応している。

Linuxの問題

 多くの顧客は、Linuxが将来の情報システムの中で大きな役割を演じるようになる、と考えている。International Oracle User Group が3月に、Oracleの顧客企業に行なった調査では、43%が一年以内にLinuxをデータセンターにおけるミッションクリティカルなアプリケーションに使うと回答している。さらに54%が、2年以内にそうする意志があると答えた。

 ソフトウェアの巨人、MicrosoftはWindowsのみに対応するデータベース製品を販売しているが、そのせいで自分たちがチャンスを失っていることに気付きはじめた。Linuxやオープンソースのソフトウェアが企業情報システムの、特にサーバ分野で成長するにつれて、その懸念はどんどん大きくなっている。

 しかし、MicrosoftはデスクトップPC分野で一人勝ちしている点を根拠に、市場での優位性を訴える。

 たとえば、Information Resourcesでは、数千の情報ソースからのデータ処理と、デスクトップPCユーザーが検索したり時系列のデータを分析できる「データマート」という専用データストアの構築に、Microsoftの64ビット仕様SQL Serverを導入している。同社はSQL Serverを選択した理由について、何GBものメモリ空間に大量のデータを展開できること、WindowsベースのPC上のExcelやPowerPointといったアプリケーションのデータ資産を共有できることを挙げている。

 「データベースの処理性能がどれだけ高いかなんてどうでもいい。結局、データベースはパワフルかつ全てのユーザーが使えるものでなくてはならない」とCIOのGibbsは言う。「Microsoft OfficeのデスクトップPCでの普及率を考えると、全てのユーザーが使えるということが、ビジネスインテリジェンスの分野では、ますます重要になりつつある」

 Microsoftはまた、増加する高性能PCハードウェアとの連携をより深めることで利益を得ようと目論む。Meta GroupのShainmanは、中堅企業や大企業の部課レベルにおいてSQL Serverの認知度は高いため、そういったところではハードウェアの更改に合わせて、他社製品よりも、そのままSQL Serverの高機能版にアップグレードする道を選ぶだろう、と見ている。

 同じ理由から、OracleやIBMもPCサーバ対応のデータベース製品の提供に乗り出した。Oracleでは、Linux上で使える同社のRAC(Real Application Clusters)を提供して、顧客のメリットを引き出す考えだ。これによって、顧客企業では数台のIntelサーバをひとまとめにし、従来なら単一の高性能サーバが必要とされた複雑な処理業務もこなせるようになる見込みだ。

 「Oracleの戦略はとても賢明なやり方だ」とShainmanは述べる。「Oracleは、Linux対応のデータベースで標準の地位を勝ち取ることが、真の顧客ニーズに応える要件であること、ひいてはそれがMicrosoft-Intel陣営に対する効果的なカウンター攻撃をかけることになることを分かっている」。

 IBMもLinuxのサポートを積極的に推し進めると同時に、自社のサーバソフトウェアのラインナップを、オープンソースのOSに対応させている。

 データベース市場の混迷を更に深めているのが、オープンソースという代替手段だ。たとえば、MySQL。スウェーデンの同名の企業が出すデータベースだ。MySQL自体は比較的シンプルなデータベースアプリケーションだが、ObjectWebコンソーシアムといった他のオープンソースプロジェクトでは、このフリーソフトウェアに対して、より先進的な機能を盛り込もうとしている。MySQLとObjectWebのクラスタリングソフトの組み合わせは、データベース上位3社の製品を購入しない顧客にとって、文句のつけどころがないだろう。

 アナリストは、各社製品の違いが際立たない現在の状況では、誰が勝ち組であると断言するのは時期尚早と口を揃える。これに加えて、業界内での性能競争はまだ終わりを告げていないこともある。つまり、増え続けるデータストレージや、処理性能に対する企業ニーズが、データベースメーカー各社に対して、さらに高速処理、拡張性に優れたソフトウェアの開発も迫っているのだ。

 ただし、短期的には、低価格志向、運用管理効率向上などの観点が顧客のデータベース購入の中心的な動機を占めるはずだ。

 「過去に我々は、かなりの額をメインフレームの投資に割いてきた。しかし、これからは、ビジネスアプリケーションにじっくり投資することができる」と、MicrosoftのSQL Serverを導入しているロンドン証券取引所の技術部長Ian Homanは述べている。

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