カカクコムが運営するグルメ情報の口コミサイト「食べログ」。AlexaやGoogle トレンドのデータでは古参のグルメ情報サイト「ぐるなび」をアクセス数で抜いたと話題の同サイトだが、課金サービスの是非をめぐってユーザーから厳しい声が上がっている。
事の発端となったのは9月10日に発表したiPhoneアプリ版食べログのアップデートだ。このアップデートでは、これまで提供してきた機能に加えて、PCやモバイルとのブックマーク同期やクーポン情報の閲覧、店舗情報のTwitter投稿など、数多くの機能を追加した。
そして、積極的に口コミを投稿する一部のユーザーに付与してきた「プレミアム会員」を課金サービスとして正式に導入。月額315円を支払う(カカクコムが会員資格を付与したユーザーは除く)ユーザーに対して、PC同様の絞り込み検索機能やさまざまな条件での検索結果ソート機能などを提供した。しかしその一方でこれまで無料で提供してきた検索結果の「点数順(口コミでの評価点順)」でのソートをプレミアム会員限定の機能に変更。無料ユーザーは検索結果を「最近の注目順(直近のアクセス数順)」でしかソートできなくなった。
あわせて、無料で点数順のソートが可能だった旧バージョンのアプリについて9月30日でサービスを終了すると発表。iPhoneのウェブブラウザ「Safari」でPC版サイトを閲覧した場合は、各店舗ページを表示する度にアプリでの閲覧を促すポップアップを表示するように仕様を変更した。
iPhoneアプリは、一般的なネットサービスと比較してユーザーに課金サービスの開始などのアナウンスをできる場所が少ない。たとえばApp Store上であれば、アプリ紹介画面やアップデート内容の紹介画面などでしかアップデート内容を表示できない。カカクコムではコーポレートサイト上に課金サービスを含めたプレスリリースを掲載しているが、当初App Store上で課金のアナウンスをしていなかった(現在は表示されている)。この結果、多くのユーザーにとっては“突発的な仕様変更”となった。
さらに前述の点数順ソートの有料化がユーザーに衝撃を与えた。数多くのユーザーが口コミを投稿することで決まる食べログの点数は、いわばサービスのキモ。このキモとなる数字を信頼して店舗を検索してきたユーザーの中には、「最も重要な機能がある日突然有料になってしまった」と感じた者も少なくないようだ。
こうした結果、同アプリのApp Store上での評価は5段階で最低の「星1つ」のレビューが911件(9月16日17時時点。最新バージョンのアプリへのレビュー合計は942件)集まっているという状況だ。レビューの中には感情的な中傷も多いが、「有料化の説明がなかった」「無料だった点数順でのソートができない」といった声も多々あった。
またカカクコムではモバイル版の食べログについても今秋をめどに課金サービスを開始する予定だが、これより先にiPhoneアプリでの課金を開始したこともあだとなった。
カカクコムでは、iPhoneアプリ、モバイル版のいずれかで食べログのプレミアム会員になれば、PC、モバイル、iPhoneアプリのすべてでプレミアム機能を利用できるサービスを展開する予定だという。だがiPhoneアプリは電子書籍やゲームなどの一部を除き、基本的に売り切りモデルが定着している。iPhoneアプリで先行して課金サービスを開始したことで、「iPhoneアプリで月額課金はあり得ない」というレビューを集める結果となった。
企業が提供するサービスである以上、広告や店舗向けサービスに次ぐ収益の柱を模索するのは正しい戦略だ。事実、市場はこの動きを評価しており、三菱UFJモルガン・スタンレー証券はユーザー課金の発表を契機に目標株価を45万6000円から53万円に変更している。また株価は9月10日以降上昇し、9月15日の終値では年初来最高値となる46万5500円を記録した。
だがサービスの核心である“口コミの評価”にかかわる内容を月額課金にしたことで多くのユーザーの反発を招いたように見える。
たとえばレシピ共有サービス運営のクックパッドなども月額課金サービスを展開している。同社では基本機能については無料で提供する一方、ブックマーク機能(PC版では無料会員も利用可能)やレシピ検索時の人気順ソートといったプレミアム機能のみを課金で提供している。PC版もしくはモバイル版で有料会員になっていれば、PC、モバイル、iPhoneのいずれでもプレミアム機能を利用できる。
既存機能ではなく、追加機能だけを有料化したクックパッド。それでも課金ユーザー数は順調に増加しており、2011年4月期第1四半期における会員事業の売上高は前年同期比177%増の3億5800万円を達成している。
「これまでもユーザー第一でサービスを作ってきた」と語るカカクコム。iPhoneアプリの運用については「課金を開始して間もないため、まずは様子を見る」としている。今後の展開については明らかにしていないが、サービス提供の方法を見直す可能性も示唆した。
基本的なサービスを無料で提供し、高度な機能や特別な追加機能などに課金するビジネスモデル「フリーミアム」。今回のケースは機能強化でユーザーの利便性を高めたものの、このとらえ方を見誤った例にも見える。いかにユーザーに支持される形で新たな収益手段を見つけるかが、食べログのモバイル、スマートフォンでの展開を左右することになるのではないだろうか。
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