動画ストリーミングサービス「Ustream」をアジア地域で事業展開する新会社、USTREAM Asiaをソフトバンクと米Ustreamが設立した。同社のシニアエバンジェリスト、本島昌幸氏が5月31日にビルコム主催のセミナー「企業のSocial Media活用 〜企業がメディアを持てる時代〜」で講演した。
Ustreamは「すべての人々に利用してもらえるストリーミングサービスを」というミッションをもって2007年にサイトをオープンした。立ち上げたのは、米国陸軍士官学校の仲間だったJohn Ham氏とBrad Hunstable氏、Gyula Feher氏の3人だ。
2010年5月時点のサイト規模は、登録ユーザー数540万人、コンテンツ240万時間、ビデオ視聴回数2億1000万回、ページビュー(PV)2億となっている。
PVはそれほど多くないが、滞在時間が長く、外部サイトからの流入が多い点が特徴だ。「トップページからコンテンツをたどる人は少ない。ほかのソーシャルサイトから入ってくる人が多く、サイト内回遊はほぼない」と本島氏は語る。
Ustreamは米国では2008年の大統領選挙のときに利用者を伸ばした。米大統領のBarack Obama氏が演説の模様をUstreamで放送し、オフィシャルの動画配信サービスとして認知されたという。さらに2009年5月にはTwitterと連携して効率的に集客できるようにし、そこから急成長を続けている。
日本ではソフトバンクが出資を発表して以降、大きな伸びを示した。ワールドワイドのトラフィックの15%が日本からのものだという。「サイトが日本語化された5月には、日本が占める割合は20%を超えたのではないか」と本島氏は予想している。
米国では複数の放送局と提携している。音楽イベント「American Music Awards」ではテレビ局がレッドカーペットの模様をUstreamで中継した。2009年11月にはKISSのコンサートを中継した。コンサートだけではなく、楽屋裏、リハーサルなどを中継した。TwitterにはUstreamを通じて2万5000以上の投稿あったという。
映画「THIS IS IT」のレッドカーペットでは言語ごとに特設サイトが用意された。Michael Jackson氏に関するTwitter投稿が多く集まり、Twitterのトレンドワードの1位になったという。
Ustreamのサイト構造を分析してみると、トップページには、上から「お知らせ」「現在配信中」「過去のハイライト」が並び、右側に「今後の注目イベント」が配置されている。今後の注目イベントは自薦他薦歓迎だという。「日本のコンテンツはまだ少ない。スタッフが人力でコンテンツを探して載せている。イベントを開催する人、チャンネルを立ち上げる人は知らせて欲しい」(本島氏)。連絡先はjapan@ustream.tvまで。
UstreamはトップページのPVが少ない。PVが多い順に並べると、「視聴ページ>チャンネルページ>番組一覧ページ>トップページ」になるという。トップページのPVの割合は全体の7%に過ぎない。その代わり、チャンネルページは18%、視聴ページは46%ある。
「Ustreamを訪れるユーザーはすでに見たい動画が定まっていることが多い。Ustreamに来てから探すわけではない」と本島氏は分析した。多くのユーザーはTwitterなどで目的の動画のURLを知り、直接視聴ページにアクセスしてくる。
Ustreamの視聴ページのチャットは、Ustreamチャットとソーシャルストリームの2種類がある。ソーシャルストリームはTwitterやFacebookのタイムラインから情報を取得している。これらの2種類のチャットのうち、3〜4割がUstreamチャット、残りがソーシャルストリームという割合だ。
放送主と視聴者がコミュニケーションをとる場合にはUstreamチャットがよく使われるという。ソーシャルストリームはTwitterやFacebookのアカウントが必要であるため、コメントが荒れにくい傾向にあるそうだ。アーカイブも閲覧しやすく、企業がキャンペーンに使い易いという利点がある。「今後はソーシャルストリームを使うユーザーが増えるだろう」と本島氏は話す。
動画の右上にたまに表示される星のアイコンはUstreamスタッフが選んだ「注目の番組」であることを示している。これはUstream側が内容的に問題ないコンテンツであると保証しているもの。注目の番組に選ばれた場合のみ、番組配信者は画面上にAmazonやiTunesのリンクを貼れる。今後は日本のアマゾンやヤフー、楽天などのリンクにも対応させたいという。
USTREAM AsiaはソフトバンクグループのTVバンクの子会社である。日本およびアジア地域版Ustreamのサイト運営、広告などの商品開発、販売を担当する。Ustreamを日本語化して以降、セッション数、PV数は倍増したという。
これまでに日本でよく見られた番組を紹介する。継続的に人気があるのが「DOMMUNE」というプロジェクトで、これは渋谷にあるスタジオからトークショーやライブ、DJプレイをUstreamで中継したもの。漫画家の石川雅之氏が絵を描く様子を放送した番組も人気だった。
事業仕分けの生放送はDOMMUNEの3倍くらい人気があったという。「光の道」という総務省の施策に関する、ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏とジャーナリストの佐々木俊尚氏の対談も多くの人に見られたそうだ。
Ustream視聴者のうち、32%がTwitterを経由して訪れている。「そのほかのサイトからの流入もあるが、かなりの量をTwitterを代表としたソーシャルメディアに頼っている」(本島氏)というのが現実だ。
ソフトバンクモバイルの製品発表会の中継はソフトバンクのサイト経由が多かったが、光の道の対談はTwitter経由が多かったという。コンテンツによって集客のパターンは異なるが、「今後はどちらかというとソーシャルストリーム、とくにTwitterからの流入に大きな可能性を感じている」と本島氏は話す。
「これまではプロモーションで一旦、人を集めても、終了した後は興味が失われてしまう。いまはイベント前後もTwitterで会話が続き、実際のイベントが終了したあとにコミュニティができあがっている」(本島氏)
Ustreamでストリーミング配信するためのツールは2種類ある。「WebBroadcaster」と「UstreamProducer」だ。WebBroadcasterはウェブからアクセスできる手軽なツール。UstreamProducerはデスクトップアプリで無料版と有料版がある。有料版ではサポートするカメラの数が無制限になる。
スマートフォン向けアプリも公開されている。iPhoneアプリはUstreamの放送を見ながらチャットできる「ビューアー」、録画された動画をUstreamやTwitterにアップロードできる「レコーダー」、ライブ配信ができる「ブロードキャスター」の3種類がある。現在はAndroidアプリの日本語化を進めているという。
Ustreamの名を冠しない「WATERSHED」というツールもある。有料だが細かいカスタマイズが可能で、大企業の導入実績が多い。企業ロゴを掲載したり、背景色を変えたりできるほか、広告を非表示にできる。チャットや投票機能を利用してコミュニティの意見を集約することも可能だ。
WATERSHEDの価格は月額49ドルから、あるいは都度課金で1ドルから。視聴者が増えるにつれて利用価格もあがっていく。9月をめどに日本版の料金を発表するという。「それ以前にWATERSHEDの利用に関する要望があったら問い合わせてほしい」(本島氏)
広告を非表示にしたい、あるいは一定の広告で埋めたいなど、企業から要望の強い「公式チャンネル」のような商品も企画中だという。
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