「紙面上で滑らかに動く映像をみながら新聞や雑誌を読む」--映画やゲームなどで、たまにこのようなシーンを見かけることがある。あくまでも架空の世界での出来事だが、NTTコムウェアが同社の画像認識技術をベースに開発したイメージベースAR(拡張現実)は、このような未来が近づいているのではないかと期待させてくれる。
同社のイメージベースARは、ポスターなど撮影物の形に重ね合わせて動画を再生できるのが特徴で、撮った写真があたかも動き出したような疑似体験を味わえる。動画にタップすると全画面で再生でき、再生後には商品やサービスのウェブサイトへ誘導できる。
「動画再生前後の違和感のない滑らかなモーションにもこだわった。また、動画の再生後にウェブサイトへ誘導するため、これまで効果が見えにくかった“紙媒体からウェブサイトへの遷移数”を計測できる」と、NTTビジネス推進本部ビジネス企画部 上位レイヤサービスグループ スペシャリストの兵藤雄二氏は話す。
イメージベースARを活用することで、動画を利用した企業プロモーションや紙とウェブを組み合わせたサービスを提供できる。例えば、ユーザーが商品の取扱説明書を撮影すると使い方を動画で確認できたり、撮影した風景にマッチする音楽を聴いたりできる。「商品CMなど自社で動画コンテンツは持っているが、それらを顧客にリーチしきれていない企業などに活用して欲しい」(基盤技術本部研究開発部担当課長の宮下直也氏)
商用化に向けた実証実験も進めており、2010年には小樽商科大学とのフィールドトライアルを実施している。観光者向けの地図に掲載された小樽運河エリアの観光スポットや飲食店の写真をAndroid搭載スマートフォンのARアプリで撮影すると、当該スポットに関する動画が再生される内容だ。またBS-TBSでは、チケットやパンフレットを撮影すると映画やドラマのプロモーション映像を視聴できるタイアップ広告にイメージベースARが採用された。
小樽商科大学とBS-TBSにはイメージベースARをパッケージ販売で提供してきたが、4月以降はNTTコムウェアのクラウドサービス「SmartCloud」を活用したSaaS型で販売する予定。SaaS型での実証実験も2010年12月21日からブルーノートジャパンが、1月20日から飯田産業が開始している。
ブルーノートジャパンの実験は、全国の駅構内などで無料配布しているフリーペーパーや雑誌に掲載されたアーティスト画像を、Android搭載スマートフォンのARアプリで撮影すると、そのアーティストの演奏シーンが再生されるというもの。再生後にはブルーノート東京のウェブサイトへ誘導するボタンが表示される。
「当初は、フリーペーパーの配布時に一時的にダウンロード数が増加するだけかと思っていたが、継続してダウンロードされていることに驚いた。3月末の実験終了までに当初描いていた目標値は超える見込み」(CRM&ビリング・ソリューション事業本部営業企画部担当課長の山本亮氏)
現在はAndroidを搭載したスマートフォンにのみ対応しているが、「今後はiPhoneにも対応したい」という。また、当面は法人向けのみの提供を予定している。
兵藤氏は、ARサービスの課題はいかに収益化できるかだと語る。「今後もさまざまな実験を通して継続的に使ってもらうビジネスモデルを確立したい。その前に、まずはこのAR技術の認知度を広げていきたい」
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