Amazon.comでは、私が書いた17.95ドルの本が常に30%オフで販売されている。そして今回同社は新たに、無料で私の本の全ページへアクセスできるサービスを提供し始めた。発想は気に入った。しかし、弁護士として私はこのサービスに多少の不安を覚える。
事の次第はこうだ。Amazonは最近、「Search Inside the Book」という名称の新サービスを立ち上げた。それは、12万冊、合計3300万ページの本の内容が検索できるというものだ。Amazonのサイトで検索を実行する全ユーザーは、今や検索キーワードを含む本の実際のページを見ることができるのだ。驚くべき技術だ。
「この強力で新しい検索システムを使えば、顧客は今までの検索結果では決して見つけることのできなかった本を探し出すことができる」とAmazonは言う。
同社によると、出版物の実際のページのオンライン表示には、190の出版社が合意しているという。しかし、Amazonが本の著者の許可を得たという話は聞いていない。そして、自分自身著者である私がはっきり言えることは、AmazonもRandom Houseも、このサービスに参加するにあたって私に直接伺いを立てることはなかったということだ。
インターネット上には、知的所有権所有者の許可を得ることなくデジタル音楽を「交換」する人々がいる。それと同じで、著作権所有者の許可無く本を複写する企業は、著作権侵害の責任を問われる可能性がある。電子書籍がヒットしなかった理由の一部は、出版社側がコピーの流布を懸念したことにあった。
Search Inside the Bookサービスを取り巻く法的な問題は、前例のないものだといえる。
2001年6月の米最高裁判所の判例で、フリーランスの著者が自作の文章の電子的複写を禁止する権利に関するものがあったが、この判例は新聞や雑誌に関する狭義の問題に限られており、書籍は対象とされていない。また電子書籍の出版社RosettaBooksとRandom Houseの間の論争で、2002年12月に両社が電子書籍の出版において協力体制を敷くという形で解決したものがあったが、その例と違ってAmazonの新サービスにおける本の出版契約は、想定上出版社に「本の形態での著作物の印刷、出版及び販売」以上の権利を与えるものになる。
世界一大きな書店であるAmazonに、Search Inside the Bookサービスを提供する権利があることを私は快く認めよう。契約上、著者は出版社にこのようなプログラムに参加する権利を認めていたのかもしれない。もっともほとんどの著者は、自分たちの本の全内容がインターネット上で無料で見られるようになるとは思ってもみなかっただろうし、著者の組合は「主要な商用出版社契約」においてこれを認めていないとしている。
幸いAmazonはいくつかの対策を講じているため、ユーザーが本全体をオンラインで読むことは困難となっている。検索が一度実行されると、ユーザーはそのキーワードが含まれるページとその前後各2ページしか見ることができない。また、この新サービス導入直後に出た批判への対応らしいが、Amazonは画面に表示されたページを繰り返し印刷できないようにした。
しかし、これらの制限も確実なものではない。検索を繰り返し実行し、複数のアカウントを使用すれば、ユーザーは5ページ以上のページを見ることができるのだ。また、普通の画像コピーソフトを使えば、Amazonの技術的制約を回避してページを印刷することも簡単だ。
もちろん、こういった回避策を実行するのは面倒なので、ユーザーがAmazonのサイト上で本全体を読んだり、ましてや印刷するようになることはないだろう。それよりも興味深い問題は、Amazonに我々著者や、さらには出版社自身からの許可が必要かどうかという点だ。著作権法の「公正使用(Fair Use)」の理論(皮肉にもこれは私の本の主題である。「fair use」及び「Internet」をキーワードにAmazon.comで検索してみればわかる)の下では、Amazon.comの著書のデジタル複写は100%合法かもしれない。
米国著作権法上、複写という行為が公正使用の下で合法かどうかを決定するのに必要とされる4つの要素のうちのひとつは、「著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響」だ。言い換えれば、AmazonのSearch Inside the Bookサービスが、このプログラムに参加する本の販売に影響を与えるかどうかによって、複写が合法かどうかが決まる。
とりあえず今までのところは、新しいプログラムのおかげで実際に販売が増えているとAmazonは報告している。「サービス開始後の5日間で、Search Inside the Book対象の本の販売の増加が、プログラム対象外の本の販売の増加を9%上回った」と同社は主張する。
当然のことながら、Amazonはこのサービスによる販売増を見込んでいただろう。同社の収益は、検索ではなく販売によるものだからだ。また、Amazonと契約した出版社も同じことを考えたに違いない。私も同意見だ。
今までは、私の本をAmazonで見つけようとするユーザーは、私の名前と、本の題名に含まれるわずかなキーワードのひとつを打ち込むか、私の本の題材とほぼ一致するキーワードを入力する必要があった。しかし今は、例えば「UDRP(統一ドメイン名紛争処理方針)」や「ACPA(反サイバースクワッティング消費者保護法)」など比較的あいまいなキーワードをAmazonの検索ボックスに入力すれば、誰でも私の本にたどり着く。そのうち何人かは、私の本を購入するかもしれない。
Amazonの新しい検索サービスのおかげで私の本の販売が増えれば、私は著者として幸せだ。反対に、この検索サービスのせいで、技術に精通した人物が簡単に私の本の電子版を作成してばらまいたり、売上げに影響を与えるようなことを行えば、私は不幸な著者となる。今のところ著者としての私の見解は、このサービスの効果についての最終章はまだ書かれていないというものだ。そして法律家としての私の見解は、判決はまだ出ていないといったところだ。
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