ドストエフスキーの小説の中に、次のような文句がある。「結局最後には、彼らはわれわれの足元に跪き、自分たちの自由を差し出して“あなたの奴隷になるので食料を与えてください”と言うだろう」。Bruce SterlingやGeorge Lucas、Ridley Scott、William Gibsonといった芸術家たちは、企業に支配された暗い社会の到来を予言したが、この暗く支配された現代の情報化社会とドストエフスキーの言葉には、深い関連がある。
われわれは情報化社会の一員であることを嬉しく思い、新しい機器やサービス、デジタル接続手段が登場する度に生活環境が向上したような気分になる。パケットやポケベル、無線、有線など、情報化時代には新しいサービスが次々と登場し、人々は常に何らかの形で情報分野の世界基盤と接続された状態にある。これは一種の中毒であり、次から次へと押し寄せる電気業界の刺激にどっぷり浸っている状態だ。
ユーザーは、最新で最高の機器やハイテクサービスを受け入れ、自らのハイテク欲を満たす。しかし同時に、製品や製品メーカーへの依存度が高まっていく。この中毒症状が進むと、機器やサービスに支障や故障が生じたり、機器が攻撃にあった場合、ユーザー自身の機能や能力にも支障が生じることになる。このように技術的な問題や法的な問題が頻繁に起こるなら、世間で言われているほど人間の自由や能力は向上していないのではないかと疑いたくなる。
技術とは、ギャンブルやヘロインと同じで中毒性のあるものだ。われわれユーザーは最新機器を売りつけられ、継続的にその技術をアップグレードしている。アップグレードの理由は、実際にその技術が必要となる場合や、必要であるような気分にさせられる場合などさまざまだ。そして、最新のハイテク“ヘロイン”がないと不安に陥る。ユーザーがある企業の製品やサービスを認め、使いはじめると、ユーザーはその企業に依存することになる。この状況に企業は笑いが止まらない状態だ。このような企業は、基本的にユーザーの情報を所有しており、ひいては社会とユーザーそのものを支配しているのだ。そうなれば、われわれがヘロインに支払う値段は上昇し続ける。
産業革命時代の多くの企業と違い、ハイテク企業はユニークな立場にあるといえる。ハイテク企業は、ユーザーを獲得してお金を巻き上げ、さらには欠陥製品の損傷償還を求める権利を放棄させてしまうことさえできるのだ。ユーザーが不具合の多い技術を使用しつつ、どんな痛みに耐えなければならなかったとしてもだ。
このような状況は、特に主流のOS、ソフトウェア、インターネットベースのサービスによく見られることで、場合によっては恐喝同然のようなものさえある。現代版ラッダイト運動(産業革命時に起こった機械打ち壊し運動)が興れば成功するかもしれないが、われわれはそう簡単に麻薬を絶つことはできないはずだ。
事態をさらに悪化させているのは、政府が技術表現やコミュニティ交流に関する監督や定義を、利益を追求する企業と、MPAA(全米映画協会)やBSA(Business Software Alliance)のような秘密主義の業界カルテルに事実上アウトソースしてしまっていることだ。このような企業や団体は、われわれユーザーのことなど考えてはいない。この情報化社会を利用して自分たちの利益につながるよう、必死でルールを書き換えようとしているのだ。
この“ハイテクヘロイン”企業連合は、自社製品を宣伝して利益を得るのみならず、製品の利用法を管理、調整する原理や方法も開発して、ネガティブな副作用から自分たちを守り、収益構造を維持しているのだ。
各産業やベンダーは、自分たちの製品やサービスを誰がいつ、どこで、どうやって、どんな条件下で利用するかに関して、独自の技術権威や法的権威を主張しようとしている。たとえ、利益をむさぼろうという彼らの欲望と法を守ろうとするわれわれの欲望とが矛盾していてもだ。そして、自分たちの領土において法と秩序を守ろうとする技術的、法的努力がかなわなければ、いつでも都合よく連邦政府に引渡すことができるのだ。
情報化時代は、このような利益倒錯者と、われわれ自身が選出した、気まぐれで時に無知な議員の集まりだ。そこでは個人の権利と能力など重要ではない。また、集団の得となるよう技術力を最大限に活用し、社会の進化を促進することも重要ではない。ここで重要なのは、企業が収益を生むために作られた情報領土という場所で生活するにあたって、奴隷であるユーザーはご主人様である企業にいくら支払う気があるのか、あるいは支払わされるのか、またどの程度の犠牲を払わなくてはならないのか、ということだ。
情報化時代は、楽しくて野心があり、パワフルで充足感のあったドットコム時代とは違う(ドットコム企業が開発した技術の搾取が進んでいるにも関わらず、ドットコム時代は人々の心にこのようないい時代として残っている)。むしろ情報化時代は、次のような時代として語り継がれることだろう。
ドストエフスキーは、かなり時代の先をいっていたようだ。
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