今夏初め、世界最大の小売販売業者である米Wal-Mart Storesは、2005年1月1日までに同社との取引にはRFID技術の導入が必要となると発表した。采は投げられ、RFIDの実用化が一気に進むかと思われた。
だが、Wal-Martはその後、RFID技術の店舗内への導入は行わない旨を発表、市場には「RFIDの本格普及は時期早尚」という反応が俄かに沸き起こった。しかし、陳列棚へのRFIDタグの導入中止は、Wal-MartがこれまでのRFID導入意欲を喪失したことを示唆するものでもなければ、RFID導入の全面中止の兆候を示すものでもない。
商品レベルでのRFIDの導入は数年先のことになるかもしれないが、技術的な曲がり角には既に達しており、RFID技術には多数の企業が大きな関心を寄せている。また、この技術の将来性は非常に魅力的で、決して無視できるものではない。RFIDの導入で全世界における剃刀や石鹸の販売数が増化するわけではないが、RFIDには剃刀や石鹸を販売する企業間でのシェアを再配分する可能性があるのだ。
自社のサプライチェーンをRFID対応にしなければ、RFID導入コストや導入のための苦労をはるかに上回るだけの損害を受ける。影響度の強いほかの技術の場合と同様、RFIDを早期適用した企業は不釣合いな比率の富を手にし、遅れをとった企業はシェアを失うだろう。
RFIDタグを倉庫内の物流用パレットや梱包ケースのレベルで導入するというWal-Martの決断は、現実に即したもので、実に賢明だ。慌てて事を進めるのではなく、より慎重にRFIDの導入を進めるという同社のやり方はよいモデルとなる。同社との取引により、サプライヤーには最小限の技術、つまりブラウザにアクセスし、遠隔ラベル印刷技術を使うだけでRFID対応のパレットや梱包ケース用のラベルを作成する能力が身につく。
そして、梱包ケースがトラックから降ろされ、RFID対応の集荷窓口を通過すると、RFIDタグに記録された全ての情報が読み込まれ、在庫状況をよりよく把握するために、リアルタイムでその更新が行われる。これにより、各社はRFIDの最も重要な利点の一部である、より正確な在庫管理、労務費の削減などを自社の施設内でも体感できる。
取引先がRFIDを適用し始めれるにつれ、パレットやケースへのRFID導入から個々の商品などへの導入と、対象物を拡大することも可能だ。また、あらゆる新技術または成長中の技術の場合と同じで、RFIDの適用も段階を進める毎に、その価値が増大する。
Wal-Martのサプライヤーへの要求について、RFIDに関する「6カ月ルール」という言葉を小売販売業者の幹部からよく聞く。それは「RFIDの導入で、Wal-Martに6カ月以上の遅れをとるな」というものだ。しかし現実的には、Wal-MartのRFID導入に関する発表を聞くまで待っていたら、既に6カ月以上の遅れをとっていることになる。
RFID対応の実際の日付は2004年8月だ。しかし現実的には、RFIDの社内実験を同年9月から12月の間に実施する消費財サプライヤーはいないだろう。RFID技術は、クリスマス商戦に突入する前に実際にテストしなくてはならない。つまり、RFIDの設計、実験、テスト、そして導入のためには約1年の時間があるということだ。
RFIDの導入コストは、サプライチェーンを横断する形で配分されることなり、RFIDタグのコストを一律に下げるだろう。小売現場でのRFID対応とは、小売販売業者がサプライヤーに対し、単に自分たちの出荷要件に合った出荷の仕方をするよう求める、ということだ。
サプライチェーンの各分野では、この技術コストを相殺するためのコスト削減方法を見出そうとする。つまり、ダンボール箱やパレットが小売店に到着する頃には、RFIDコストの一部は、サプライチェーンの各分野でまかなえることになる。そしてサプライチェーンで吸収しきれなかった分のコストは、利益率を下げることで吸収され、消費者へのコスト増として転嫁されることはない。
最後に、各社は「次の100社」はないことを理解すべきだ。確かにWal-Martの発表は上位100社のサプライヤーを対象としたものだったが、私の知る限り、Wal-Martに商品を納めている全てのサプライヤーは、自分たちが優良で、取引継続に値する取引先であることを示したがっている。そのため、各社はRFID対応に懸命に努力するだろう。競合他社に先行されたくないし、また対応が遅れてWal Mart側から催促を受けるような羽目にも陥りたくないからだ。
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