オンラインゲームは美味しいビジネス?

田中 弦 (コーポレイトディレクション)2003年07月28日 14時53分

 7月3日、ソフトバンクはブロードバンド戦略の一環として、オンラインゲームポータル「BB Games」を開設、オンラインゲーム先進国の韓国からオンラインゲームを輸入し、本年度末までに100タイトル以上のゲームを揃えると発表した。ソフトバンクの決算報告会でも孫社長は「ブロードバンドのキラーコンテンツはオンラインゲーム」と述べた。韓国では、全世界で600万人の累積会員を抱える「Lineage」が登場するなど、オンラインゲーム市場が急速に広がっている。日本では、スクウェア・エニックスが「ファイナルファンタジーXI」を開始、セガ、コーエーも相次ぎオンラインゲームへの参入を決めている。スクウェア・エニックスは2004年3月期計画でオンラインゲーム部門の売上高101億円(全体の約6分の1)、営業利益28億円を目指している。まさに2003年は『日本のオンラインゲーム元年』ということができるだろう。

 近年、ゲームソフト市場が頭打ち傾向の中、米国、韓国ゲームメーカーのゲーム開発力は、日本メーカーと肩を並べるまでに成長している。また、今年のE3ではオンラインゲームも多数出品され、中でも米国、韓国のオンラインゲーム専業メーカーによる大型タイトルが目立った。また、ハリウッドやメジャースポーツ等の大型コンテンツとタイアップした米国企業のゲームが大量に出品され、他の娯楽と完全にリンクした形のゲームを開発するメーカーも現れている。

 一方、日本のゲームメーカーは、ネットに接続しない形の「スタンドアローン型ゲームソフト」の開発を中心としてきた。

スタンドアローン型のゲーム技術の高度化に伴い、ソフト開発費用が増大したため「ヒットしなかったら大赤字」「ヒットしたら大もうけ」というハイリスク・ハイリターンのビジネスを行ってきた。例えば、2003年度の目玉ソフト「ファイナルファンタジーX-2」は195万本を出荷している。2003年度の旧スクウェアの出荷ソフト数は、全体で502万本であるから、いかに一本の大作にビジネスの成否を依存しているかが伺える。

 一方で、日本のゲームメーカーは様々なリスク低減策を果敢にとってきた。「ファイナルファンタジー」を持つスクウェアと「ドラゴンクエスト」を持つエニックスは合併することによって、事業規模を大きくした。これにより、あるゲームが失敗した場合の損失を他のゲームでカバーするように、リスクの分散を図ることができるようになった。コナミは、スポーツクラブ等の他事業へ進出し、自社のポートフォリオに安定的な事業を組み合わせた。セガ、ナムコはハードメーカーに縛られないマルチプラットフォームでのソフト提供を行い、リスクを低減させている。

 オンラインゲームの種類は、大きく『高機能ソフト』と『入門ソフト』の2種類に整理できる。『高機能ソフト』とは、「ファイナルファンタジーXI」に代表されるMMORPG(Massively Multiplayer Online Role Playing Game)(多人数同時参加型ロールプレイングゲーム)や少人数対戦型の「みんなのGOLF オンライン」等のアクションゲーム、戦略シュミレーションゲームなどである。それらは、高度に創り込まれた世界観があり、月額費用が必要な場合が多い。『入門ソフト』とは、Yahoo! Gameで提供されているような、オセロやマージャンなどの無料で提供されることの多い、ルールが比較的簡単なものである。

ユーザーをひきつける魅力

 オンラインゲームの魅力はゴールがないことだ。今までのスタンドアローン型RPGは、最初にスタートがあり、一本道のシナリオがあり、エンディングというゴールがあるが、オンラインゲームにエンディングは存在しない。オンラインゲームをしたことがない人は「目的が無いの?」と不思議がるが、「目的は無数にあるし、それぞれのユーザーが好きな目的を見つける」のがオンラインゲームである。釣りのプロになって一生を送ってもいいし、戦士になって一般人を守るのもユーザーの自由である。今までのゲームでは相手が完全にバーチャルの世界であったが、オンラインゲームの相手は生身の人間である。したがって、今までのゲームには無い偶然性や突発性がある。突然街の中でデモ行進があったり、ケンカも日常茶飯事であったりする。非常に『人間くさいリアル感』があるゲームなのだ。同じ事が起こることはまずなく、毎日何かしらのイベントが発生している。何が起こるかわからないワクワク感は、オンラインゲームならではのものだろう。オンラインゲームはコミュニケーションを基盤として成立するものであるから、その世界の中には傍から見れば一種異様とも思える顔の見たことも無いユーザー同士の友情や、愛憎が存在する。『完全バーチャル』の今までのゲームと、『バーチャルの中のリアル』があるオンラインゲームは、面白さ(楽しみ方)が違う。

オンラインゲームビジネスの特徴

 オンラインゲームビジネスの最大の特徴は『限られたパイを奪い合う』ビジネスということだ。日本において有料会員が10万人を超える大規模MMORPGは、「Ultima Online(以下UO)」、「Ever Quest」、「Lineage」、「Ragnarok Online」、「ファイナルファンタジーXI」の5本。この5本で60万人(6月末発表ベース)を超える。複数のゲームを同時に行うプレイヤーもいることから、その他のゲームを合わせ、多くても100万人という線が妥当であろう。つまり、MMORPGのような月会費を払うオンラインゲームは、未だファイナルファンタジーX-2の195万本に遠く及ばないニッチ(マニア)マーケットである。また、MMORPGの月会費は2000円程度であるから、複数のゲームを同時に契約することは、ユーザーにとって大きな負担になる。したがって、ユーザーの財布の面でも限界がある。加えて、ユーザーのエントリーバリアも未だ高い。MMORPGを快適にプレイするには、高スペックPC、クレジットカード(クレジットカードを持たないユーザーのためにクーポンを家電量販店で販売するメーカーもある)、プレイステーション2ではBBユニットが必要となる。このような『限られたパイを奪い合う』市場下では、それほど多くのゲームが健全な経済性を担保したままビジネスを展開することは非常に難しく、「一握りの勝ち組」と「多くの負け組」が生まれやすいビジネス特性を持つということができるだろう。

 オンラインゲームの第二の特徴は、『するめビジネス』ということだ。するめは、『最初はさほど味がしない』ものであるが、『かめばかむほど味が出て』くる。しかしながら『かみ過ぎると味が無くなって』しまう。MMORPGでは、初心者プレイヤーは、始めは何をしたらよいか全くわからないため『最初はさほど味がしない』ものであるが、経験、知識が蓄積すればするほど、つまり『かめばかむほど味が出て』、面白くなる。しかしながら、数年を経過すると技術的にも内容的にも陳腐化が進み、飽きられ、『かみ過ぎると味が無くなって』しまう。つまり、『陳腐化サイクル』が存在する。例えばUOの『陳腐化サイクル』にうまく合わせて成功したのが「Ever Quest」、ということになる。

 第三に、オンラインゲームは、『ソムリエビジネス』とも言える。オンラインゲームはエントリーバリアが高いことから、いかに早期に『ソムリエ』たちの評判を獲得するかが成功の鍵となる。ゲームメーカー各社とも、評価ができるベテランプレイヤー(ソムリエ)達にゲームの面白さを知ってもらうために、「ベータテスト」という無料テスト期間を設けることが一般的である。このベータテストによってベテランプレイヤーの「評判」がその後の新規プレイヤーの獲得に極めて重要な因子となる。相手は百戦錬磨のベテランプレイヤー達であるから、重大なバグやサーバーにかかる負荷による遅延等の問題があれば、悪い「評判」のみを残しさっさと他のゲームに流れてしまう。大変「移り気」なユーザーを満足させる必要がある。したがって、ユーザーサポートの質、ベータ運営のノウハウなど、ゲームメーカーにも経験値の蓄積が必要となる。この『ソムリエ』達への対応をおろそかにしたために失敗したゲームは枚挙に暇が無い。

従来とは異なる収益構造

 オンラインゲーム(無料のものを除く)と今までのスタンドアローン型ゲームとの収益構造の違いは投資の回収期間にある。今までのゲームが短期に投資を回収するソフト開発・物販モデルであったのに対して、オンラインゲームは、初期投資を長期で回収するモデルである。すなわち、開発コスト、獲得コスト、サーバー維持費や追加開発コスト等の維持コストのそれぞれを安い初期費用(2000-4000円)と、月額会員費用(1000-2000円)で長期に回収するモデルである。

 また、今までのゲームと違う特異な投資回収モデルとして、「拡張パック」の存在がある。「拡張パック」は、パッケージもしくはダウンロード販売で提供され、通常2000-4000円程度で購入される。「拡張パック」は、ユーザーの行動できる土地の拡張、追加アイテム等がつめこまれており、ユーザーにとっては導入しないと差別までされる、必要不可欠なものである。したがって、アクティブにプレイしているユーザーのほぼ全員が購入する。拡張パックには、契約ユーザーへの需要予測がしやすいローリスクな「重ね売り」という側面と、ならびに上記で述べたゲーム自体の延命策のための「陳腐化サイクルの歯止め」という2つの側面があり、オンラインゲームビジネスにとって、非常にユニークな投資回収の仕組みである。実際、UOも1998年10月に初の拡張パック「Ultima Online The Second Age」、2001年3月には技術の陳腐化を防ぐための3D対応、「ウルティマオンライン 第三の夜明け」、2002年には「ウルティマオンライン ブラックソンの復讐」2003年2月には「ウルティマオンライン 正邪の大陸」を発表している。また、「ファイナルファンタジーXI」もまた2003年4月17日に「ファイナルファンタジーXI ジラートの幻影」という拡張パックを発売している。拡張パックを出さないメーカーはありえない、と言っても過言ではないほど、オンラインゲームビジネスでは一般的なものになりつつある。

オンラインゲーム市場で勝ち残るためには何が必要か

 オンラインゲームへの本格進出の際の成功の鍵は、第一に、一握りの勝ち組になるための『入場キップ』を手に入れることである。『入場キップ』とはすなわち、ゲームの機能の充実/コンテンツの新規性、『ソムリエ』達を驚嘆させるような面白さを持つことである。また、StarWars Galaxiesのような話題性を担保することも重要である。第二に、ベータテスト段階からインフラを含めて完成度の高い状態で市場投入することにより、『ソムリエ』たちの評判を獲得することも必須となる。第三に、競合ゲームの『陳腐化サイクル』のタイミングをうまく捉えて市場投入することができればより効果的である。第四に、オンラインゲームは『するめビジネス』の特性を持つため、競合ゲームの『するめの味がしなくなったころ』に『陳腐化のサイクル』のタイミングを捉えて、拡張パックを適宜投入することによって、競合ゲームへの乗り換えを防ぐことが、成功の鍵となるだろう。

オンラインゲームの歴史

 図2は、『高機能ソフト』の中でも特にオンラインゲームの代表的存在と言えるMMORPGの歴史を描いたものである(アクション、戦略シュミレーションゲームについては割愛)。商業的にある程度成功したと言われているソフト、エポックメイキングなソフトをプロットした。

図2 拡大画像

[市場黎明期]

 1996年末に登場した「Diablo」は正確にはMMORPGのように多人数ではなく、少人数のグループで遊ぶものであったが、大変な人気を呼び、多くのゲーマーに「ネットで対戦、ゲームをすることの面白さ」を体験させた。今でもオンラインゲームのパイオニアの第一線で活躍している方で「Diabloから始めた」という人は多い。

 1997年秋にはMMORPGの金字塔、「Ultima Online」(以下UO)が発売された。UOの原作「Ultima」は熱狂的なファンを持ち、世界初のロールプレイングゲームと言われていた。その「Ultima」の世界を忠実に再現し、数千人が同時に参加するMMORPGを開発したのがUOである。UOは、1997年から現在に至るまでバージョンアップを重ねながら、サービスを継続している。現在世界で25万人、日本で10万人がプレイしている、大変息の長いゲームである。

 1996年から「Ever Quest」が出現する1999年までは、オンラインゲーム市場の黎明期であったと言える。この時期は、日本では固定料金接続の手段がダイアルアップ+テレホーダイもしくはISDNに限られ、米国の「何分使ってもタダ」という常時接続環境が大変うらやましく感じられたものだ。また、ユーザー層もパイオニア層に限られており、オンラインゲームの数自体が少なく、「オンラインゲームをしたいならUO」というユーザーにとって選択肢が限られた市場であった。

[市場組成期]

 1999年には、Verant Interactive(現在はソニーが買収)が「Ever Quest」を、マイクロソフトが「Ashron’s Call」を発表している。UOが2Dグラフィックで描かれていたのに対し、両者ともフル3Dグラフィックを用いたのが特徴である。UOしか選択肢が無かったオンラインゲームの世界に、新風を吹きこんだ。この2つのゲームには、PCのグラフィックボード、CPUの進化に合わせた新しい技術と、UOでは実現不可能であったアイデアがふんだんに盛り込まれていた。オンラインゲームは、いくら長期間プレイすると言っても数年で『飽き』が来るものである。つまり、一定の『陳腐化のサイクル』が存在する。この両者は、「3Dグラフィック」という最新の技術を駆使したゲームを、UOの『陳腐化のサイクル』に絶妙のタイミングで製品を出し、成功を収めた。2003年現在、Ever Questは全世界で25万人がプレイしている。この時期はUOしか存在しなかったオンラインゲーム市場に新たな選択肢が登場し、市場が組成された時期である。

[市場拡大第一期]

 2001年は、「オンラインゲーム豊作の年」と言われ、「EverQuest」よりも精緻なグラフィックを実現した「Anarchy Online」、「DarkAge of Camelot」が登場している。この2つのゲームも、PCの性能をフルに生かしたフル3Dで描かれている。また、日本においても、セガがドリームキャストで「ファンタシースターオンライン」(Diabloタイプのゲームなので正確にはMMORPGではない)、エニックスが「クロスゲート」(現在海外もあわせ累積会員数1000万人)、「ディプスファンタジア」を発売するなど、日本のゲームメーカーも相次いでMMORPGに進出した。

[市場拡大第二期]

 2002年中頃から2003年は、日本においてADSLが800万回線を超え、常時接続が一般的になった事、プレイステーション2のネット接続端末、「BB Unit」が発売された事によっていよいよオンラインゲームがパイオニアユーザーだけではなく、一般ユーザーに広まる兆しが見られてきた。

 これに伴い、2002年5月、スクウェア・エニックスが「ファイナルファンタジーXI」を発売。また、コーエーからも「信長の野望オンライン」が発売されている。

 さらに米国ではソニーから2003年6月、スターウォーズの世界をそのままMMORPGとして再現した「StarWars Galaxies」が発売され、オンラインゲームを体験したことの無いスターウォーズファンもまた、大量に参加することが予想される。この時期のオンラインゲームの特徴は、「非オンラインゲームユーザーおよび既存ユーザーの効率的な獲得をめざしたゲームの登場」である。図2を今一度見ていただきたい。図のうち、赤色の三角形は原作が存在しない完全新作のゲーム、緑色の三角形は原作が存在する新作のゲーム、青色の四角形は今まであったオンラインゲームの続編ゲームを表している。これを見ると、市場黎明期〜拡大第一期までは原作が存在しない赤色の三角形が拡大第二期では目立つものが無い。また、緑色の三角形、「StarWars Galaxies」や「ファイナルファンタジー」、「信長の野望」のような世界観を共有した固定ファンを持つ大型コンテンツを元にしたゲーム、青色の四角形、既存オンラインゲームの続編が多いのが目立つ。つまり、今までニッチ(マニア)マーケットでかつエントリーバリアの高いオンラインゲームから、自社コンテンツのファンもしくは非オンラインゲームユーザーおよび既存オンラインゲームユーザーを効率的に取り込もうとしていることがわかる。

田中 弦 コーポレイトディレクション コンサルタント

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