ある人は、Microsoftの成功は革新性と技術力のおかげだと考えている。またある人は、他人の発明をうまく利用して商品化させる能力があったからだと考えている。私個人の意見としては、Microsoftの成功は交渉力にあると考えている。
Microsoftほど契約の際に勇気のある行動を取る企業は、世界でもまれだろう。同社は、これまで何度も敵を味方につけたり、味方があまり乗り気でない話をうまく説得しつつ取引を行ってきた。
Bill Gatesは何か悪いことをたくらんでいるのだと主張する人もいるが、そういうわけではない。彼はドイツ統一を成し遂げた鉄血宰相ビスマルクの現代版と言っていいだろう。
先日のAOL Time Warnerとの和解にしてもそうだ。MicrosoftとAOLは長年戦争状態にあったにもかかわらず、今回の和解でAOLはMicrosoftのDRM(デジタル著作権管理)技術を採用することになり、デジタルエンターテインメント部門においても協力体制を進めることになった。またAOLは、Microsoftに対する独占禁止法の訴訟を取り下げることになる。
その見返りとしてMicrosoftはAOLに7億5000ドルを支払うのだが、この和解でMicrosoftはコンシューマーエンターテインメント市場に入り込む際の道を切り開いたことになる。今回の和解は、Microsoft会長のBill Gatesが、AOLのうるさい幹部役員らがいなくなったのを見計らって自らAOL会長のRichard Parsonsに電話をして話を切り出したのだ。
また、MicrosoftのソフトウェアアシュアランスプランにおけるSelectモデルなども同社が取引上手であることを表している。このプランは2001年5月に発表されたもので、ソフトウェアのアップグレード方法を変更し、ユーザーに頻繁にアップグレードしてもらうため3年間の購読サービスとしてライセンスを売りつけるというものだ。
ユーザーやアナリストらは、このプランがソフトウェアの価格をつりあげるものだとして腹を立てた。しかし結果はどうだろう。確かに多くのユーザーにとってソフトウェアの価格は上昇したのだが、結局Microsoftの早期割引キャンペーンで大型顧客の多くはこのプランにサインアップしたのだ。
もちろん、Microsoftに金銭的な余裕や影響力があるという事実がこれらの取引をスムーズにさせた部分もあるだろう。だが、その中にはやはり取引の天才でこそ成し遂げた部分があるのも認めざるを得ない。あるソフトウェア再販業者は、このプランを「知能で煙に巻いた」と表現した。というのも、この契約が何を意味するかは、契約を交わしてから数週間後にやっと明らかになるという仕組みだったからだ。
Guernsey Researchのアナリスト、Chris LeTocqは以前PCメーカーに勤めていたのだが、そのメーカーでMicrosoftとのライセンス交渉の担当者として選ばれたのは、社内で「一番いいヤツ」だったという。「彼は交渉のあと、1週間の休暇を取っていたよ」とLe Tocqはいう。
Microsoftはハードウェアメーカーやソフトウェアメーカーと話を進める際、「わが社が潤えば、あなた方も潤うことができるのです」と言って交渉するのだという。たいていのメーカーはその話に乗るか、とりあえずは荒波を立てないようにと努力する。
ゲーム上手なBill Gates
Microsoftの遺伝子の中には、心理的支配者の要素が多く含まれているといえるだろう。会長のBill Gatesはハーバード大学在学中、かなりの時間をトランプゲームに費やし、そして勝ち続けたといわれている。Microsoftとしての最初の勝利といえば、1981年にIBMのPCにOSを供給するという契約を取り付けたことだろう。IBMがこの契約を決めた理由は、有力候補であったDigital Researchが守秘義務契約において価格交渉してきたことと、Microsoftの交渉陣営がスーツを着てミーティングに現れたことだったという。
この取引でMicrosoftはIBMに対し、MicrosoftがDOSのライセンスを他社PCメーカーにも提供できるよう話をまとめた。IBMは、当時コピー化するような市場はそれほど発展しないと考えていた。
Gatesの交渉力を示すもうひとつの代表作といえば、1985年に当時Apple ComputerのCEOであったJohn Sculleyに対しMac OSをソニーなどにライセンス提供するよう薦めたことだろう。これには何のリスクもなかった。もしAppleが彼のアドバイスを聞き入れ、同社OSを他社にライセンスしていたとしたら、Microsoftは2つのプラットフォーム上でデスクトップアプリケーションのリーダーとなり、当時成長過程にあったPC市場におけるIBMの影響力もそれほど大きくならなかったかもしれない。
いっぽう、もしAppleがこのワシントン州からやってきた田舎者の言うことをはね返していたら、MicrosoftがOS市場を独占することは目に見えていたわけだ。どうなったかはご存知の通りである。
だが、Microsoftの交渉力が弱まってきた兆候も見えつつある。多くの外国政府がWindowsではなくLinuxを採用しつつあるのだ。さらに、Hewlett-PackardもLinuxベースのラップトップPCをタイで販売しはじめた。またMicrosoftは先日Office XPの割引を開始した。同社が価格を下げるのはめずらしいことである。
つまり、多くのユーザーはMicrosoft製品のかわりとなる安価な製品に目移りしはじめたといえる。先日同社はソフトウェアアシュアランスに付加価値をつけようと、新たなサービスも発表している。
このような動きを見ていると、Microsoftも変わったというべきなのかもしれない。それとも彼らは、他の業界へターゲットを定めて新たな戦略に乗り出したのだろうか。
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