まず結論から言ってしまおう。最高の製品が必ずしも勝ち組になるとは限らないものだ。
サイズが小さく、動作も速く、コストパフォーマンスもいいといった製品が市場シェア1位を勝ち取るとは限らない。製品の成功と失敗を左右する要因のひとつとして、企業名や評判があげられる。コンシューマー市場にしろビジネス市場にしろ、やはりユーザーは、この製品ならあの会社といった評判にひかれてしまうものなのだ。
つまり、PR活動が重要な役目を果たすことになる。PR活動とは、企業イメージを形成し、高めるためにあると考えてよい。
日本のIT企業は、世界に通用する製品を常に生み出しているにもかかわらず、顧客を勝ち取るための手段としてPRを戦略的に利用していない。なぜ日本のIT企業は欧米のようにうまくPRを活用しないのだろうか。
このトピックについて語りだすと1冊の本が書けてしまいそうだが、ここでは数点だけ指摘しておこう。
まず日本の文化では、目立ったり自分のことを自慢したりすることをよしとしない。謙虚でいることを重んじ、「以心伝心」という心でのコミュニケーションを大切にする傾向がある。この日本人の考え方は、企業を目立たせるPRの役目とは全く相反するものだ。
日本と欧米のCEOの露出度を分析すると、この違いがよりいっそうはっきり見えてくる。
CEOの行動や決断力が企業イメージに大きな影響を与えるという調査結果は数多い。CEOの行動で企業イメージの半分が決まると考える人もいるほどだ。つまりCEOは、メディアに取り上げられる際に重要な役割を果たすだけでなく、企業イメージの形成においても大きな意味を持っているということなのだ。
だが日本のCEOは、PRがそれほど重要だと思っていないようである。
欧米のIT企業のCEOは、自分の仕事時間の25%程度をPRに割り当てるとされている。ここでよく考えてみよう。彼らは仕事時間の4分の1をPRに割いているのだ。それは、顧客競争に勝つには企業イメージがいかに大切かということを理解しているからだ。
ここにそれを証明するようなデータがある。Factivaという世界の出版データベースを調べてみると、過去12カ月にAppleのSteve Jobs氏がメディアに露出した回数は3726回、同じくOracleのLarry Ellison氏は4788回、HPのCarly Fiorina氏は3517回となっている。いっぽう同じ時期に東芝の岡村正社長がメディアに登場した回数は206回、そして世界に知れ渡るブランド、ソニーの出井伸之会長でさえ678回となっている。Factivaのデータベースは主に英文の出版物を元にデータを取っているので公平な比較でないことは確かだが、それでも出井氏の登場回数はもっと多くてもいいのではないだろうか。
日本と欧米の違いとして私がもう一点感じるのは、日本ではITに特化した広報代理店が欧米ほど発展していないということだ。たとえばイギリスのように、日本よりずっとIT購買力が小さく国内のIT企業が少ないような国でさえ、IT専門の広報代理店の数はかなりのものだ。それに比べ日本では、そのような代理店の数は片手で数えられてしまうのではないだろうか。
一体それはなぜなのか。理由のひとつとして考えられるのは、日本のCEOや幹部社員がPRを戦略的ツールとみなしていないからだ。その結果、PRへの投資額も欧米企業に比べると取るに足らないものとなる。
また、PRの管理体制にも原因があるように思う。日本の経営陣は、PR機能を社内にとどめておくことでPRを管理し、企業イメージもコントロールできると考えている。つまりPRに割り当てられたわずかな予算は社内のみにとどまり、IT業界におけるPRの発展を制限してしまっているのだ。
ここでも欧米の場合と比較してみよう。欧米ではPRに膨大な投資をし、外部の代理店にコンサルティングを求めることも多い。MicrosoftやIBM、HPなど、社内に広報部を抱えている企業でさえ、ほかの代理店と契約して社内でまかないきれない部分を補足している。これは、外部からの視点が入ることでPR活動全般が向上すると考えられているからだ。
また欧米の企業は、PR機能だけで企業イメージをコントロールできるものではないということも知っている。顧客や見込み客、提携先企業、就職希望者など、いろいろな人が企業に接触する機会があるごとに、その感触でその企業の印象も変わってくる。言うまでもないことだが、PR機能で外部の人々との接触を管理することは不可能だ。
さて、日本企業のPR戦略を否定的に書いてしまったが、ここで例外も紹介しておこう。ソフトバンク社長の孫正義はメディアへの露出度も高く、PRにも相当の労力をつぎ込んでいるようだ。またソニーも世界ブランドとしての地位を築くため、多大な投資を行ってきた。
しかしやはりほとんどの日本のIT企業は、PRをうまく活用して企業イメージを作り上げ、その結果より多くの製品を売るための機会を逃しているように見えてならない。
簡単に言うと、みな「この会社って何が有名?」という部分を知りたがっているだけなのだ。
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