普段私はOracleのCEO、Larry Ellisonの意見に同意するなんてことはまずないのだが、最近読んだWall Street Journalのインタビューに書かれていた彼の意見には思わずうなずいてしまった。彼の意見はこうだ。「この業界は誰もほしがらないものを売ることにおいては世界一だ」と。
これは、ハイテク業界が宣伝を芸術だと考えるようになったからだろう。
企業のCIOはコンピュータ関係の製品やサービスの購入に消極的となりつつあり、完全に購入をやめてしまった企業もあるというのに、一方の誇大宣伝はとどまるきざしが見えない。その中でも目立ったものをここで紹介してみよう。
ストレージ相互接続性
ストレージ業界の人間は、自分たちの世界だけで生きているのではないかと思うことがしばしばだ。SNIA(ストレージ・ネットワーキング・インダストリー・アソシエーション)などの業界団体は、関連ベンダーの優秀な技術をかき集めることができるはずなのだが、その結果といえばCIM(Common Information Model)やBluefinといった、ほとんど誰の印象にも残らないような相互接続性標準のみである。
標準だの接続性だのAPIの交換だの、いろいろなことを進めようとしているようだが、結局のところ、EMC、IBM、日立データシステムズ、Hewlett-Packardといったストレージ関連企業の各製品にはほとんど互換性がない。こういった企業は、エンドユーザーの声をちゃんと聞いているのだろうか。リーダーシップを取っているのはどの企業なのだろう。ストレージにSOAPのようなインターフェースを、といった話は一体どこにいったのだ?
侵入防御システム
いつも業界に影響を及ぼしているGartnerのアナリストらが「Intrusion Detection System(IDS、侵入検知システム)」という言葉はカッコよくないとのことで「Intrusion Prevention(侵入防御)」という言葉をあみだした。攻撃を受けた際、侵入防御システムは自動的にネットワークを遮断し、怪しいと思われるIPアドレスをファイアウォールに通知するといった仕組みだ。
ほとんどのIDSベンダーは侵入防御に対応していると主張しており、実際に対応してはいるのだが、セキュリティの世界はまだまだ未熟な製品であふれており、互換性が不十分だったり偽陽性だらけの結果を出すものが多い。そこでセキュリティ業界に向かってひとこと言いたい。アナリストの仕事というものは、理想的なコンセプトをお金に包んで差し出すことなのだと。君たちの仕事は、とにかくアプリケーションやデータやインフラを守ってくれる製品を作ることなのだと気づいてくれ。そろそろIDSを完全な製品に仕上げてもいいではないか。
ビジネス・インパクト・マネジメント(BIM)
管理ソフトウェアベンダーが提供する、これまたあやしいコンセプト、それがBIMだ。BIMはアプリケーションや技術のインフラを評価し、管理するマネジメントモデルである。これの何が問題なのかというと、BIMはもともとTMN(Telecommunications Management Network)やOSI-Mといった、1985年頃の古いモデルが元となっているのに加え、問題解決に結びつくものというよりは、わけのわからないソフトウェアを売りつけるというのがBIMの正体だからだ。
企業のCIOであれば、みな管理ソフトウェアベンダーが見逃している点に気づいているはずである。それは、複雑なシステムやネットワーク管理の問題を解決するには、ソフトウェアのツールなどどうでもよく、どちらかというと方策や手順、運用、スキルなどにかかっているということだ。それがわかっているのなら、BIMなどゴミ箱に捨て、現実問題に注力してみてはいかがだろう。
タブレットPC
Go ComputingやGRiD、Dauphin、Apple Newtonといった製品名をご存知だろうか。もし知らないのならここで言うが、歴史は繰り返すのだということを覚えておこう。ただ、今回は今までと少し違っていて、派手な宣伝が大好きなMicrosoftが先導を切っている。同社がタブレットPCを発表した時、会長のBill Gatesは「新しいモバイルコンピューティング時代の幕開けだ。この世界でできないことがあるとすれば、それはユーザーの想像力が欠けているからにすぎない」などと言っていた。はたしてそれは本当か?
確かにタブレットPCには、低電力CPUやレガシーにとらわれないBIOSといった魅力的な技術が満載だが、手書き認識技術はまだ十分とはいえない。それに、タブレットPCのキラーアプリを考えつく人などいるのか疑問である。一部の人にはウケのいい商品となるかもしれないが、これも単に新しい技術が出るたびに騒がれるという現象のひとつに思えてならない。
グリッドコンピューティング
グリッドコンピューティングと聞いて燃料電池車を思い出すのは私だけだろうか。いいアイデアだとは思うのだが、実用化にはまだほど遠い。グリッドコンピューティングとは、地理的に分散されたシステムを統合し、ひとつのコンピュータエンジンとして動かすことだ。前回私が見た限りでは、MPP(超並列コンピュータ)やサーバクラスタといった現状の技術では、プロセッサが同じ場所にあったりひとつだけのシステムを使った場合、このようなタスクを実行するのに十分とはとてもいえない状況であった。
70〜80%程度のサーバクラスタは、スケーラブルなコンピュータ能力を提供するためではなくフェイルオーバー対応のために2つのノードで構成されている。実際にプロセッサを共有しようと考えるのであれば、大量の現金と大勢の技術博士が必要となるだろう。グリッドなんて夢にすぎないのだから、そんなものはもう忘れて、話すロボットや光線銃などに目を向けてみてはどうだろう。少なくともベンダーの発表会はもっと楽しいものになるはずだ。
ワイヤレス
これにはもうお手上げだ。2年前、次世代(3G)ワイヤレス技術が通信革命を起こし、ワイヤレスウェブが実現すると騒がれていた。そのため通信キャリアは何十億ドルも使ってワイヤレス帯域網を入手してインフラを整備した。その結果がこれだ。現在一体何人の人が携帯電話を使って写真を撮り、人の顔だか何だかわからないホットケーキのような写真をメールで送受信しているというのだろう(※ 編集部注:米国の携帯電話事情は日本よりずっと遅れている)。
いまワイヤレスといえばWi-Fiだろう。これはなかなかのネットワーク技術で、私も自宅で妻とDSL回線をシェアするために使っている。そこにネットワークのお偉方、Cisco Systemsがとびつき、エンタープライズ分野でモバイルだの生産性だの宣伝しはじめたのだ。いい加減にしてほしい。
ネットワーク管理者はWi-Fiを死ぬほど恐れている。セキュリティと管理性がなっていないからだ。正直なところ、一体何人の人が常時接続する必要があるというのだろう。会議中にBlackBerryのようなメール端末でメールチェックするやつがいるだけでもいただけないというのに、その上株価のチェックやスポーツの点数、最新ニュースまで見る人間が出現したらどうすればいいんだ。ワイヤレスネットワークベンダーに告ぐ。いますぐ派手な宣伝をやめ、「ワイヤレス技術、それは線がないということ」とシンプルなスローガンに置き換えてはくれないか。その技術で何ができるのか、あとはユーザーに判断させればいいではないか。
.NET
昨年12月にThe 10 biggest hype jobs of 2002(2002年誇大宣伝トップ10)という記事を執筆したとき.NETを入れ忘れてしまった。しかしMicrosoftは.NETの宣伝にかなり力を入れ、すべてのものに.NETと名前をつけた。そこで混乱が生まれたのだ。それ以外にも、.NETは誇大宣伝の代表ともいえるあのWebサービスと共生しているという問題を含んでいる。私の個人的な意見だが、Microsoftは市場を混乱させたいだけではないのか。ITプロフェッショナルというものは、混乱が生じると問題を解決したいと考えるものだ。そこにMicrosoftが出てきて救いの手を差し伸べるという図を彼らは思い描いているに違いない。これは私の思い過ごしだろうか。何はともあれ、Microsoftが市場を独占しているという私の意見は変わらない。
Voice over IP(VoIP)
現在音声通話の約25%はIPベースだとされており、一部の企業が利益を得ているのは事実である。しかしVoIPはまだかなり不安定で、プロプライエタリなものである。あの古きよき構内交換機、PBXが12年も使われていたのに比べ、VoIP機器は3〜4年ごとにアップグレードしなくてはならない。それで一体どれだけのコスト削減ができるというのだ。VoIPは立ち上がったばかりの施設には向いているかもしれないが、既存の設備にVoIPなどとんでもない。VoIPは未来のものかもしれないが、同じように「死」だって未来のものだ。誰も死なんて宣伝しようとは考えないだろう。
Linux
このフリーOSは、かなりの評判と悪評を呼び起こした。「Linuxばんざい」と叫んでいる者のほとんどは頑固者のアンチMicrosoft派や、Intelのサーバメーカーかサービスプロバイダだ。もちろん、誇大宣伝マシンのMicrosoft側も負けじと声を大にしてアンチLinuxを叫んでいる。その結果、Linux専門家が集まり、Linux雑誌ができたりLinux展示会を開催する小さな業界ができあがった。誰が正しいかなんてどうでもいいじゃないか。Linuxは単なるOSにすぎないもので、世界平和のソリューションでも何でもないのだ。Linuxは一部のエンタープライズアプリケーションに対応しているが、UnixやWindows、MVS(Multiple Virtual Storage)など他にも十分対応できるものはある。
高速PC
486マシンからPentiumコンピュータにアップグレードしたときの興奮を覚えているだろうか。あの時代はもう終わった。いまやPCは車のようなもので、利益を上げようと思えばPCを叩き壊して新しいマシンに買い換えてもらうしかないのだ。これはIntel、AMD、Dell、HPなどにとってあまり喜ばしい話ではない。こういった企業は、なぜ4GHzマシンが必要なのか、必死で主張し続けるかもしれないが、3Dのゲームを毎日やり続けるような人でないかぎり、彼らの言うことは無視するにかぎる。
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