特許はオープンソースを奪うか

 オープンソースのソフトウェアは、特許のせいで消滅する運命なのだろうか。

 多くの人々は、特許がオープンソースの致命傷になると考えている。その理由として、2つの傾向が不気味に合致すると指摘する。その傾向とは、ソフトウェア特許の利用が拡大していることと、知的財産の所有者がオープンソースソフトウェアのディストリビュータに対し、知的財産権を主張する動きがあることだ。主要なLinuxカーネルの特許を得た者ならば、業界全体を相手にした訴訟を武器に、オープンソースコミュニティーをひざまずかせることもできるだろう。その場合、企業のCIOはMicrosoftやSun Microsystemsに走り、オープンソースを避けようとするのではないか。

 いや、そう早急にはオープンソースが消滅することはないだろう。

 確かに、オープンソースソフトウェアは他のソフトウェアと同様、知的財産権を主張する者から攻撃を受けやすい。その一例が、UNIXオペレーティングシステムの知的財産を所有する米SCO GroupがIBMを相手に起こした訴訟だ。SCO GroupはIBMに対し、知的財産を侵したとして十数億ドルに及ぶ損害賠償を請求したが、その中には特許に比べると遥かに小さな武器にしか成り得ない企業秘密の漏洩に関する項目も含まれている。この訴訟によって、Linuxが大きな影響を受けることはないだろう。むしろこの特許訴訟とLinuxとはかけ離れたものだといえる。

 ビジネス戦略の観点から述べると、オープンソースコミュニティーからのライセンス料金の徴収などたいしたものではない。しかし突然ある企業が、幅広くインストールされているものに対して知的財産を主張するとどうなるか。こうした行為は、顧客やビジネスパートナーを獲得するためのいい手段とは思えない。アナリストの多くは、SCO Groupの訴訟を同社の捨て鉢の動きだと見ている。2003年1月31日締めの四半期決算においてSCO Groupは、売上高が1800万ドルに対して72万4000ドルの純損失を計上したのである。

 こうしたビジネス戦略は、Linuxに及んでは著しく間違っているようだ。

 オープンソースの採用者は、他者の発明を無償で利用するかわりに、プロプライエタリな製品として独立した戦略を立て利益を得ることや、従来の知的財産所有権のロイヤリティーを放棄している。つまり、金銭を課すという行為は、オープンソース市場の核心を直撃するのである。Linuxユーザーが笑顔で協力するなんてことは、控えめに言ってもありえない。

 SCO Groupが訴訟に選んだ相手はLinuxユーザーではない。Red HatやドイツのSuSEといったLinuxの製品ベンダーでもない。あのIBMである。知的財産所有権を巡る訴訟には莫大な費用が必要だ。それゆえにこうした訴訟を起こす場合、訴える相手を選ばなくてはいけない。つまりその相手とは、市場を独占している数少ない企業で、IBMのように法的手段を正当化するためのリソースを持っている企業ということだ。一方で、オープンソースのユーザーというのは、個々人の数も多ければ多種多様である。彼らは、いつでも手作りの代用品を作り窮地をしのぐことができるし、実際特定のオープンソースのユーザーから法的損失に対する賠償を得ることができるかは疑問である。

 SCO Groupの訴訟は、企業秘密が焦点になってはいるが、特異な点がある。SCO Groupは、機密情報の不正利用を訴えている。企業秘密に関する一般的な訴訟と同様、それは企業同士の関係のもつれに起因している。しかし、オープンソースという状況のもとで起こされた稀有な事例であるが故に(結局「オープン=自由」ということだ)、特許や著作権に論争が及ぶ可能性をはらんでいるのだ。とりわけ、特許が話題の多くを占めるだろう。

 その理由は2つある。著作権侵害とは、実際の著作物を侵害した場合にあてはまるのに対し、特許侵害は個々の開発者が法的責任を負わされる可能性があるのだ。加えてこの10年間、ソフトウェアにおける著作権保護の範囲は極めて限定されていた。

 ソフトウェアの特許は、法的論争を巻き起こすことがある。それは、特許が派生する他の技術とコンピュータ技術が異なるからではなく、ソフトウェアに関する特許の歴史が浅いからである。米国特許商標局は、厳密な文献調査を行い、発明に値すると評価すると特許を与える。特許はこうして信頼性を得るのだ。発明とはすなわち、新しさと過去の事例との差異を兼ね合わせたものをさす。ソフトウェアの分野においても、信頼性について非常に厳しく審査されてきた。

 特許局は、過去の特許に関する文献を重点的に調査する。特許というのは、最も身近に使われているものである上に、資料入手が簡単だ。しかし、ソフトウェアに関する特許の場合、過去に登録された案件が少ないため、調査が不完全に終わる可能性がある。そのため、本来なら決して日の目をみるべきでない特許が、時には認められてしまうこともある。

 こうした理由から、特許は攻撃を受けやすい。特許訴訟の被告にとっては、過去に開発または売買された技術をベースにした特許が有効か否か、争う余地が常にあるということでもある。新しい技術に関する特許の場合、特に可能性は広がる。オープンソースのコミュニティーは、そうした技術に関する情報を誰もが自由に使用できるようにし、ソフトウェアの悪しき特許を排除してきたのである。

 また開発者コミュニティーは、特許を侵害することなく、素早く共同開発に取り組むこともできる。つまり高額な費用がかかる特許訴訟を起こしたところで、利益を得ることができるのかは疑問だ。オープンソースの支持者らは、全世界規模で特許料金徴収に拒絶反応を示している。こうした動きは、特許所有者が特許行使をためらう原因ともなりえるのだ。

 そこで、業界スタンダードを巡る最近の動きに注目してみよう。これまで仕様基準を策定する際の関係者は、スタンダードに含まれる技術に対して特許を取得し、全てのユーザーに使用料を課してきた。しかし2002年秋、World Wide Web Consortium(W3C)は、自ら例外規定を設け、ほぼ正式に開発者は知的財産を無償にするよう義務付けたのである。

 その決定の直後、米Vignetteの一部門であるEpicentricは、特許使用料金を請求する動きを取りやめた。同社は、W3Cの仕様基準に関連する特許について、補償を求めていた。またIBMも昨年、Eコマースに付随する異なるウェブスタンダードに関する特許に対して、使用料の請求を断念すると発表している。

 ライセンス料金を従来正当化してきた環境下においても、特許事業から撤退する企業が増えている。どうやら、特許によるオープンソースの破壊は進んではいないようだ。

筆者略歴
Steven J. Frank
米Testa, Hurwitz & Thibeaultの特許・知的財産実行グループのパートナー。著書には、法律関連の入門書Learning the Lawや、小説The Sell-OutThe Uncertainty Principleがある。

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