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音楽産業と消費者の間との「すれ違い」 〜「著作権とP2P」シンポジウム in SFC報告〜
この記事は『RIETI(経済産業研究所)』サイト内に掲載された「音楽産業と消費者の間との「すれ違い」〜「著作権とP2P」シンポジウム in SFC報告〜」を転載したものです。
10月1日に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)にて、慶應義塾大学と(社)コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)、(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)、(社)日本レコード協会(RIAJ)の合同シンポジウム「著作権とP2P」が行われた。ちょうどRIETIでは「デジタル情報と財産権」研究会を行っていることもあり、参加してきたので、簡単に報告を行いたい。
私はSFCの出身であるが、昔からSFC(大学一般がそうであるかもしれないが)ではコンピュータネットワークの利用に関して、割と自由な雰囲気を許容するところがあり(※大昔の話だが、ファミコンの初期のソフトを逆コンパイルしたUNIX上での動作版が流通していたりした。)、現在でも(おそらく)日本でも有数のP2Pファイル交換ユーザーを有している。(※正確な通信帯域専有量は明らかになっていないが、熊坂環境情報学部長によると、三田キャンパスのP2P通信量の1ヶ月分を1日で消費する勢いとのこと。)そのような中、ファイル交換ソフトウェアによる著作権侵害を訴えるACCS/JASRAC/RIAJがある意味「敵地に乗り込んでくる」このシンポジウムは開催前から注目を集めていた。
私は、このシンポジウムに関してある種の懸念を抱いていた。簡単に言えば、米国でRIAA(全米レコード生産者協会)が各大学に対して行っているような、大学に対して「P2Pファイル交換を大学として禁止しろ」という圧力なのではないか。慶應義塾の場合も、すでにSFCを中心に、数件の警告が各団体からきているとの事で、全塾的な方針として「WinMXなどのファイル交換ソフトの利用について」(SFC CLIP)という通達が出ていることもあり、SFCの上層部が勢ぞろいする今回のシンポジウムは、いわば出来レース的にSFCとして彼らに「謝罪する」公開裁判のようなものになるのではないか…と。
結論から言ってしまえば、その懸念は杞憂に終わった。もちろんファイル交換ソフトによる著作権侵害行為に対しては犯罪行為だと厳しく指弾し、また学生に対しても、ネットワークの不正利用に対する意識の向上が呼びかけられたが、私が懸念していたような「一方的な大学側の陳謝」というような事態にはならず、むしろP2Pを初めとするソフトウェア開発や利用と、著作権保有者の権利をどうバランスさせていくのか、そして音楽をネットの上で合法的かつ簡単に利用するためにどうするべきか、等について興味深い討論が繰り広げられた。
詳細な議事録については情報社会学wikiに掲載されたログ(SFC大学院政策・メディア研究科の仲山君が作成してくれた)を参照していただきたいが、まずSFCの村井純教授によるイントロダクションの後、ACCSの久保田専務理事が基調講演を行い、続いて久保田氏とJASRACの渡辺送信部長、RIAJの今村広報担当部長、弁護士の田中久也氏、SFCの徳田教授、稲蔭教授によるパネル討論という流れであった。紙幅の関係もあるので、ここでは主な議論を簡単に紹介していくことにしたいと思う。
まず、久保田氏であるが、基本的に「P2P技術を悪者扱いするつもりはない。その中で行われている違法なファイル交換が問題」というスタンスを明らかにした。2ch等で「久保田タソ」と呼ばれ、AAが作られて揶揄されるなど、散々悪者扱いされている事は知っていたのだが、実際に講演や討論の様子を聞いてみると、非常に魅力的な人物であり、話の主張の内容も理解できるものであった。ただしP2P技術に罪はないと言いながらも、「『専ら』ファイル交換に利用されている、またそのような違法なファイル交換への利用を想定したソフトウェアの作者については(蓋然性を根拠として)法的な責任が問えるのではないか?」という発言については、徳田教授が後で「P2Pファイル交換ソフトだけに責任を負わせられるのか」と反論した。これは、現在主流となっている匿名P2Pファイル交換ソフトWinnyの作者「47氏」を念頭に置いた発言だと思われるが、もし米国でそうであるようにファイル交換ソフトの作者が直接訴えられるような事態に陥った場合、それは権利者側が「ファイル交換に利用されている」と判断すれば作者が訴えられるという危険性が生じることを意味するので、徳田教授が懸念するように、P2P技術をスポイルする可能性が非常に高いだろう。
今回のシンポジウムでの徳田教授や稲蔭教授の発言は、このような技術の発展に対しての権利者によるスポイルを懸念する立場から行われるものが多かった。徳田教授はP2P技術の持つ豊かな可能性に言及し、さらにソフトウェアの発展は(※直接言及はしなかったが、リチャード・ストールマンのGNUの思想に象徴されるような)「共有し、学びあう」文化によるものが大きいことを指摘し、オープンソースソフトウェアの活用と、ソースコードのオープン性が今後のユビキタス社会への鍵であると述べた。つまり「誰かがホログラムを貼ったからといって、それが絶対安全とは言い切れない」というわけだ。稲蔭教授はクリエイターの立場から、正当な対価が支払われない、あるいは改変した贋作が流通しかねないファイル交換の現状に苦言を呈したものの、もしセキュアなP2P環境が構築され、適正な対価が支払われるなら、どんどん流通させるべきで、そういうビジネスモデルの革新がいま起こりつつあると指摘し、DRM技術やAppleのiTune Music Storeを例として取り上げた。
このような新しい技術革新に対してもっとチャレンジするべきだという発言は、インターネットに草創期から取り組んできたSFCを代表する意見としての矜持が感じられる、素晴らしい見識であった。
さて、そのようなビジネスモデル革新に対して、音楽産業側は果たして対応しきれているのだろうか。久保田氏は、ファイル交換に人気が集まる理由として、「市場が成熟していないから海賊版が人気を集めるのだ」と述べていた。つまり、彼が言うようにロータス1-2-3も、MS-Excelという脅威が出現し、競争が激化する前は99800円で販売されていたが、今はたったの1980円で販売されているのだ。現状では音楽配信のサービスは非常に使い勝手が悪く、かつ価格設定も適正とは言いがたいので、この議論は非常に説得力があった。つまり、RIAJやJASRACに対する不満とP2Pファイル交換の隆盛という現状を適切に言い当てていたと思う。
事実、シンポジウム後半ではP2P技術を押さえ込む一方で、音楽産業が低廉なネット音楽配信を実現していないこと、さらにCCCDのような(音質を低下させてまでの)露骨なmp3封じに批判が集中したのだ。詳細は議事録を参照していただきたいが、かなり厳しい意見が続出していた。
このように音楽産業と消費者との「すれ違い」的状況が現出しているのは、私見を述べさせてもらえば、消費者側に「安価で低廉なネット音楽配信サービスがちっとも実現しないのに、CCCDみたいな質の低いものを平気で売りつけるとはなんて酷い連中なんだ」という根強い音楽産業側への不信感があるのだと思われる。
米国では、mp3.com/Napster裁判などの紆余曲折を経ながらも、DRM等のコンピュータ産業側の新しい技術革新が契機となり、安価で低廉な合法的な音楽配信サービスがiTunes Music Storeを初めとして次々と出現し、爆発的にユーザを伸ばしている。消費者は月10ドルなり、1曲99セント程度であったなら、レコードショップに行くよりも簡単に手に入るネット配信を十分利用するのである。一方で、日本での音楽配信サービスの現状はお寒い限りである。(※月額880円での聴き放題を目指したSo-netのWonderjukeには何故か日本のレーベルは参加しておらず、海外・国内の独立系レーベルの参加が中心となっている。)もちろん、音楽産業側にも権利設定や、それによる収益が本当にペイするのかという言い分があろう。(これも私見だが、音楽産業の構造と特性を考えると、おそらく簡単に価格を下げることは出来ないという事情もあるのだろう。)しかし、このような現状では「P2Pファイル交換を一方的に押さえ込んで、殿様商売かよ!」という消費者側の不信感は拭い去れず、双方の隔たりは絶望的に深くなってしまっているのだ。
そのすれ違いを埋める解決策としては、米国での事例が示すように、やはり音楽産業側が勇気を出してネットに参入してくるしか道はないと思われる。稲蔭教授が指摘していたが、P2Pファイル交換を利用したビジネスモデルも十分考えられるし、その基盤技術を闇雲に規制するのは逆に音楽産業にとっても不利益である。さらに、安価で「合法的な」サービスが提供されれば、大部分のユーザはそちらに乗り換え、違法なファイル交換そのものもマイナーなものになっていくであろう。現状の、すべてのCDに対する一律の価格設定というのは、(これも稲蔭教授が言うように)談合としか言いようがない。これでは、適正な市場が形成されているとは言いがたいのではないか。(※この辺りについては、筆者が寄稿したUFJ総研ニューズレター「音楽遺産〜インターネット音楽配信の未来〜」を参照されたい。)もっと言えば、音楽を文化として捉えるならば、shopで購入されるパッケージCDだけが音楽ではない。アマチュアやインディーズ、ファンも含めたトータルで音楽を捉えるという視点無しに、この問題に対しての正しい解は出ないのではないかと思われる。
なお、このあたりのP2Pと音楽配信を巡る事情、そしてP2P技術の持つ可能性については、エキスパートの視点に掲載されているJnutella.orgの川崎裕一氏のコラム「Napster,そしてP2Pの本質」で、川崎氏が存分に語っているので、そちら も是非参照されたい。
澁川 修一
独立行政法人経済産業研究所 研究スタッフ
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター リサーチ・アソシエイト
東京大学情報学環・大学院学際情報学府
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RIETIサイト内の署名記事は執筆者個人の責任で発表するものであり、経済産業研究所としての見解を示すものではありません
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