総務省、文部科学省、経済産業省の3省が電子書籍の規格統一に乗り出した。3月17日に共同で「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」を開催。出版業界の代表者らを集め、電子書籍をめぐる問題について意見を聞いた。今後も議論を続け、6月までに意見を取りまとめたい考えだ。
米国ではAmazon.comのKindleやAppleのiPadなどの発売で、電子書籍に対する注目度が高まっている。文部科学省の中川正春副大臣は「このままでは、日本の出版界は海外からの波にさらわれてしまうという危機感がある。日本としての落とし所を探るための場を設けた」と説明。総務省副大臣の内藤正光氏は、「AmazonやAppleの取り組みを否定するつもりはないが、資本力を持った人だけが電子書籍市場を独占してしまうというのは好ましくない。国立国会図書館を巻き込みながら、国として規格を統一したい」と意欲を示した。
構成員には作家や出版社、新聞社、印刷会社、書店、図書館、通信事業者、家電メーカーの代表者らが名を連ねた。ただし取次については「寡占化しており、書店や出版社の代表者が構成員に入っていることで取次の思いは反映されると認識している」(経済産業省の近藤洋介 大臣政務官)としてメンバーには入っていない。なお、座長は東京工業大学名誉教授で国立情報学研究所顧問の末松安晴氏が務める。
構成員からは電子書籍ビジネスの今後を考える上でのさまざまな課題が挙げられた。
講談社副社長の野間省伸氏は、デジタル化における出版社の権利について議論が必要だと話す。出版社がこれまで、作家や漫画家といった才能の「卵」を見つけ出して成長に投資し、時間をかけて回収しながら次の卵に再投資してきたことで、小説や漫画などが日本の文化として発展してきたと指摘。電子書籍という新たな市場を発展させるためにも、出版社の存在が重要だと強調した。
これには作家の楡周平氏も同調。「作家というのは、怪物の鮭のようなもの。普通、鮭は1度産卵したら死んでしまうが、たまに何回も産卵する鮭がいる。作家も新人賞を取ったらほとんどが消えてしまうが、たまにいるモンスターのような作家に投資し、育てているのが出版社だ」としたうえで、「次々と作品をつくり出す人を生み出す環境作り、人材を育てる部分にもフォーカスして欲しい」(楡氏)と訴えた。
作家の阿刀田高氏も「デジタル化により、より良い出版物が未来に向けて継続的に作れることが最も重要だ」と話し、持続的なエコシステムを作り上げる必要があるとした。
漫画家の里中満智子氏は「デジタル化そのものは新しい時代の到来だと思うが、図書館問題が置き去りにされたままだ」と苦言を呈す。図書館の書籍は基本的に無料で貸し出され、著者に印税は発生しないなどの権利制限が課せられている。通常手に入りにくい書籍が図書館で貸し出されるのは良いことだが、ベストセラーなどでも図書館が大量に揃えて貸し出してしまうため、結果として本が売れず、著者の収入につながっていないという問題提起だ。
「デジタル化を進めるときに、図書館への納品制度は続くのか。書く側が疲れ果てて倒れないような仕組みをお願いしたい。国の姿勢として、『本はタダで読めるもの』というのをずっと続けて行くのか。タダは文化を育てる力に結びつくのか。本気で話し合える場にして欲しい」(里中氏)
このほか、日本書店商業組合連合会 副会長の柴崎繁氏は「書店の商売を考えると、図書館の存在は厳しい。デジタル化が進むことで図書館に行かなくても本が借りられるようになれば、おそらく本屋に行くことがほとんどなくなるだろう。地方ではすでに絶滅的に本屋がなくなっており、たとえば青森や島根では(日本書店商業組合連合会の)組合員数は数十店しかない。こういう状態の中で、今後本屋との共生をどうするかについても議論して欲しい」と訴えた。
国立国会図書館長の長尾真氏は、現在国会図書館が古い蔵書のデジタル化を進めていることについて触れ、電子書籍の配信だけでなく、「貸し出し」という概念についても議論を求めた。また、国会図書館がデジタル化した書籍データを有料で提供し、出版業界に利益を還元するというアイデアを紹介した。ただしこれには、近藤大臣政務官から「長尾氏個人の意見であり、国の方針というわけではない」との注釈も入った。
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