インターネットサービスは提供者の利益につながっているのか、また、未来は現在の状況やビジネスモデルの延長線上にあるのか――このような問いに対する議論が、2月5日、有限責任中間法人ブロードバンド推進協議会(BBA)の主催によるイベント「OGC 2009(オンラインゲーム&コミュニティサービス カンファレンス 2009)」のパネルディスカッション内で行われた。
パネルディスカッショのタイトルは「『楽しさ』×『便利』=『集まる』コミュニティサービスの今後について。『コンテンツの一般化』と『収益モデル』に向けて」パネリストは、ビットキャッシュのメディア事業部 部長である片山昌憲氏、ニワンゴの代表取締役社長である杉本誠司氏、カカクコムの取締役COOである安田幹広氏、ミクシィのmixi事業本部長である原田明典氏。モデレーターは駒澤大学GMS学部の准教授である山口浩氏が務めた。
山口氏は、インターネットユーザーの利用者数が人口の7割を超え、「インターネットは十分に普及した」(山口氏)と紹介。さらにネットサービスも「早い(回線・サービスの高速化)」「安い(インターネット利用料金の低価格化)」「うまい(付加価値のある多彩なサービス)」の3要素によって普及したとした。
ミクシィの原田氏はネットサービスの収益モデルについて、まず、ネット上のエンターテインメントコンテンツはユーザーがお金を払いたいと思うレベルに達しておらず、確固たる収入を得るには時間がかかると指摘。一方、実用的なサービスについては、Yahoo!オークションが有料化に成功したように、ユーザーは生活に必要なものであればお金を払うとした。その上で、ミクシィでは2007年にギフト事業の実験としてmixiユーザー間で年賀状が送れる「mixi年賀状」を開始したと紹介。周囲の予想に反して70万枚の利用があったことから、サービスの中身次第で収益を上げられると述べた。
ニワンゴの杉本氏は、動画共有サービスの「ニコニコ動画」はまだまだ赤字部分が多く、その最大の要因はネットワークコストであるとした。以前に比べればネットワークの価格は下がっているものの、動画のようなリッチコンテンツを提供するにはコストが高すぎるという。その中で収益を上げていくためには、ユーザーからの収入と広告収入のバランスが重要であるとした。
さらに、コンテンツそのものが対価を払うべきものであるという認識をユーザーに持ってもらい、付加価値を付けてでも有料化していくべきと話す。そうしなければ、良いコンテンツが出てこなくなり、悪いサイクルに陥ってしまうというのが杉本氏の考えだ。“オタクビジネス”と呼ばれるようなニッチな商品は単価が高く収益性も高い。しかしニコニコ動画ではユーザーをより増やすためにサービスの一般化を掲げている。一般化することで商品の単価が下がるため、どこまで幅を広げるのか、広げすぎたり時間がかかったりすると破綻してしまうのが悩みどころだと述べた。
カカクコムの安田氏は、インターネットが一般化したことで、多くのユーザーがネットで商品の情報を見た上で実店舗に出かけ、またネットに戻って商品を購入するようになっていると指摘。基幹駅に量販店ができるなど実店舗がユーザーに近いところにできたことで、逆にネットに優位性が出てきたように感じると話した。
また、かつてネットスーパーが複数登場し、ほとんどが大失敗したにもかかわらず、最近また注目を浴びていると紹介。以前はネットが一般化していなかったために失敗したと分析し、新しいサービスを提供するには、タイミングが重要だとした。
ビットキャッシュの片山氏は、最新のアンケート調査結果を提示し、PCユーザーで有料コンテンツの利用者が多いのは「音楽」「オンラインゲーム」「電子書籍」「動画」「写真」の順だとした。また携帯電話ユーザーでは、「音楽」において有料利用者が無料利用者の数を上回っているとの結果も紹介した。カテゴリによって戦略もビジネスモデルも違うので、1つの手法ですべのジャンルの収益を上げるのは難しいだろうというのが片山氏の考えだ。
原田氏は、今後はこのようなカテゴリ分けは意味がなくなり、もっと細分化して分析していかないとニーズをつかめなくなるとした。これからはユーザー個々に対するサービスを追求することが重要になるという。たとえばmixiのモバイル版でサイトのデザインを変更できるサービスを開始したところ、85%のユーザーが利用したという。有料化後も約20万人が利用しているとのこと。そのサービスを利用するかどうかの差はちょっとしたことであり、収益が見込めるなら有料化すべきだとした。
杉本氏も、ネットユーザーは自己主張や差別化にお金を払うと話す。たとえば携帯電話向けサービスのマイページのデザインを変更したからといって、メニュー画面の着せ替えサービスが売れるようにはならない。また、マイページにBGMを流せるようにしたからといって着メロが人気にはならない。ユーザーはデザインや音楽に対価を支払っているのではなく、コミュニケーションの手段に対価を支払っているというのが杉本氏の分析だ。「ネットでは客観的でなく主観的に消費行動が行われるから、そこを演出することが重要である」(杉本氏)と話した。
安田氏は、コミュニケーションの場を提供するときは、ユーザーが嫌な思いをすることなく有益な情報を共有できることが重要だと話す。そこで収益ポイントを見いだすには、枯れた技術をチューニングするだけでも十分かも知れないと述べた。
会場の聴講者からは「コミュニティを盛り上げている人へのフィードバックを考えているのか」という質問があり、杉本氏は「サイト以外のアウトプットの場を与えることは考えている。それで経済効果が上がれば、お互いにハッピーになれる」と答え、原田氏は「昨年のmixi年賀状では、利用することで植樹できるという付加価値をつけた。現金にするとそれを目的にするユーザーも出てきて、違うものになってしまう。今、見返りとしてユーザーが喜ぶのは少なくとも現金ではない」と答えた。
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