著作権保護期間の延長問題を考える会(think C)は4月15日、東京三田の慶応義塾大学キャンパス内で、第6回公開トーク「著作権には何が欠けているのか−創造の円環(サイクル)を回し続けるために―」を開催。著作権制度のあり方や今後の見通しなどについて有識者らが議論を交わした。
出版界における「グレーゾーン」の現状と本音を披露したのは文筆家、編集者の竹熊健太郎氏。数年前に問題となった、ある少女漫画家による盗作騒動を例にとり、「実際には、その元となった人気少年漫画にも写真集などからのトレースが発見され、ネット上で話題になった。こうした構図の参考やトレースは漫画界では日常的に行われてきたことであり、これをもって作品すべてを否定することはできない」とした。
さらに竹熊氏は、「出版社や漫画家は基本的に裁判を起こすことを避ける」と指摘。先に挙げた盗作騒動についても「出版社が気をまわして女性漫画家の作品を絶版としたが、盗作された本人である男性漫画家は裁判を起こすどころかクレームもつけていない。良し悪しはともかく、構図を参考にすることやトレースの活用が漫画界の発展を支えてきたことも事実。著作権などの法律論とは別の常識で動いている部分が現実にある」とした。
弁護士でクリエイティブ・コモンズ・ジャパン専務理事の野口祐子氏は、自らも参加した文化庁の「次世代ネットワーク社会における著作権制度のあり方についての調査研究会」の報告書について説明。研究会内での議論を踏まえて「著作物を利用する対価が必要となるのは当然だが、許諾を取るためのコストが高すぎるのが問題。これをどのように解決していくのかが重要になる」との考えを示した。
「厳しく管理することと、互いに使いあうこと。どちらが両者にとって幸せなのか。個人的には後者だと思うが、皆で考えていくことだと思う」(野口氏)
今回のシンポジウム中、何度となく挙がったキーワードが「グレーゾーン」だ。北海道大学大学院法学研究科教授の田村善之氏は「ルールに則ってグレーをブラックにするのか、または活動によってホワイトにしていくのか。それとも、グレーのまま現状維持か。3つのケースが考えられる」と今後の選択肢を提示。その上で「ネットのように物理的制約がないメディアでは、『グレーを現状維持する』という道は難しい。フェアユース規定を用いて司法が解決するか、クリエイティブ・コモンズやthink Cのような活動を通じてユーザーが持つ個々の要望を集約し、ホワイトであることを訴えていかなければならない」とした。
一方、米国での弁護士活動で多くの実績を持つ野口氏は、米国で認められている著作物のフェアユース規定について「例外規定」と指摘し、フェアユース規定があればうまくいくというような万能薬的扱いを疑問視した。「フェアユース規定によって裁判官が裁くようになれば、権利を強めることを望む大企業などのロビイストによるバイアスはかかりにくくなる。しかし、結局、裁判官個人の人格に期待する部分が大きくなる。裁判官も世間の情勢に耳を傾けてしまうケースが多々あり、より先の見えない弁護士泣かせの展開が生まれてしまうことがある」とした。
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