デジタル・コンテンツ法有識者フォーラムは3月17日、都内で会見を開き、既存の法制度と異なる特別法「ネット法」(仮)について内容を説明するとともに制定の必要性を訴えた。
「ネット法」は、映像や音声などのコンテンツがインターネット上で流通するのを促すために、民間の研究団体であるデジタル・コンテンツ法有識者フォーラムが骨子をまとめた法案。インターネット上のデジタルコンテンツ流通にのみ、包括的で横断的に対応できる特別法と位置づけ、現行の著作権制度から独立、あるいは現行制度上の規制に左右されない運営を念頭に置いている。
内容的には、権利処理の簡素化を実現する「ネット権」の創設、コンテンツ流通によって得た利益の公正配分の義務化、不合理な権利侵害主張などに対して適切な対応が可能となるフェアユースの規制化が3本柱だ。
まず、ネット権は、収益の公正な配分を行う能力を有するものだけに与えられる流通の権利。ネット権の保持者が2次利用を許可した段階で、そのコンテンツに関係するすべての権利者が合意したものとみなすもので、これにより権利処理に関する膨大な手間を省くことができる、としている。これまではすべての権利者の合意を得ないとネット配信ができず、古い映像をネット配信する上で大きな障害となっていた。
2本目の柱である利益の公正配分の義務化は、1本目の「ネット権」行使によって得た利益を関係者全員に適正に配分することを定めた内容。これによって権利者の利益を担保し、あくまですべての権利者にとって有益な法案であることをアピールしている。
フェアユースの規制化は、著作者人格権や実演家人格権などをベースとした権利者側からの主張に対するもので、個別に規定された条項に該当しない場合でも公正な使用(フェアユース)が認められた場合は適法にコンテンツを使用することができるというもの。インターネットの場合、使用を許容する規則を限定する「限定列挙」形式では運用面で課題が発生することを予測し、そうしたケースをフォローするためのルールとなる。
フォーラムの代表を務める政策研究大学院大学学長の八田達夫氏は特別法の提案主旨について「日本は多数の優良コンテンツを生み出す状況にありながら、コンテンツ配信をベースとした世界的企業は生まれてきていない。これは法整備が進んでいないためであり、このままでは世界に取り残されてしまう」と説明。また、フォーラム事務局長で弁護士の岩倉正和氏は「(同法案によって)世界的なデファクトスタンダードを打ち立てる」との意気込みを述べた。
一方、法案の詳細については「まずは提案によって世論喚起を図り、それによって政府や関係者の間にも議論が高まることを期待する」(八田氏)というスケジュール感からもわかるとおり、細部まで詰めきれていない部分も少なくない。
例えば「ネット権付与の対象」について。会見の中でネット権を持つ権利者は「放送コンテンツは放送事業者、映画は配給会社など」(八田氏)としたが、その判断基準や判断材料については示されていない。また「フェアユース」を含めた著作者人格権、実演家人格権などとの衝突についても「(2本目の)適正な利益配分がなされれば理解を示すはず」(岩倉氏)と期待を込めるに留まった。
その「公正配分」については「原則として当事者間の協議により決定」としており、具体的な数値例などは示されていない。また、実務的、具体的なルールとして著作権管理事業者団体を複数設置し、それら団体間でガイドラインやルールを作成、提案させることで意見を調整、集約するとの案を例示した。
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