朽木海
2008/02/15 18:19
ビジネスの文脈で語られることの多いナレッジマネジメントと、ネットの宴会場としてすっかり定着したニコニコ動画。一見して結びつきがたい両者は、「ネタ」という観点で見ると説明がつくという。
2月13日と14日の両日、目黒雅叙園で翔泳社主催の開発者向けカンファレンス「Developpers Summit 2008」が開催され、開発プロセスやアーキテクチャ、SaaSなどをテーマにさまざまなセッションが開催された。
「Development Style 2.0」と題された、開発者の興味のある題材を取り上げるセッションでは、硬軟織り交ぜたテーマが取り上げられたが、その中でも異色だったのは「ネオ・ナレッジマネジメント論-ネットワーク上のプラットフォームを活用した新しいコラボレーション形態を探る」というセッションだ。進行役にみずほ情報総研コンサルティング部の吉川日出行氏、話者にはドワンゴ研究開発部部長でニワンゴ取締役の溝口浩二氏、クリプトン・フューチャー・メディアメディアファージ事業部の佐々木渉氏を迎えた。
みずほ情報総研コンサルティング部の吉川日出行氏
まず、吉川氏の自己紹介を兼ね、ナレッジマネジメント(KM)の変遷について解説。文書共有を中心としたグループウェアなどの第1世代ナレッジマネジメントを「Document Centric KM」、第2世代であるQ&Aコミュニティーやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)など情報を持っている人を中心としたものを「Human Centric KM」と定義。第1世代のKMに関しては「システム中心主義で、情報を蓄積するコストが高すぎ、再利用もされない」、第2世代については「直接的成果が見えにくいため、評価しづらい」という問題点を挙げた。
そして、動画共有サイトのニコニコ動画や初音ミクをはじめとしたVOCALOIDシリーズの製品などがネット上で流行している現象をKMの第3世代「Neta Centric KM」ではないかと仮説をたてる。これは人を中心とした第2世代からさらに進み、人が持つ要素、すなわち「ネタ」を中心にした考え方だという。
では現在その「ネタ」を共有する場であるニコニコ動画は現状をどう見ているのだろうか。吉川氏は運営側の代表として登壇した溝口氏に「みんなニコニコ動画にタダで参加してるのに、なぜこんなに盛り上がっているのか」と質問を投げる。
ドワンゴ研究開発部部長でニワンゴ取締役の溝口浩二氏
これに対して溝口氏はあくまで推測だがと前置きした上で、「自分と同じような感覚を持った人がたくさん見ている。自分が『おもしろい』と思ったものを投稿すると、それに対して多くの人たちからコメントが返ってくるという反応がいいのではないか」と分析する。「子供の頃、友達に新しいおもちゃを見せて盛り上がっていたような感覚」(溝口氏)。
また、吉川氏の「ニコニコ動画の人気の要因として、『誰かから認められたい』という承認欲求の充足のために利用しているということを語ることが多いのではないか」という質問には「自分がいいと思ったものを評価されると言うことは、(サービスが人気になった要因として)重要なこと」と溝口氏も同意する。「自分も管理職をしているが、新人が入ってきて仕事ができないと怒りたくなる。ただ、それをちょっと抑えて良いところを見つけ出し、ほめてあげると伸びてくる」(溝口氏)と実務の側からの見方も示した。この後、ニコニコ動画を運営する上での苦労話や開発の立場としてのオープンソース活動についてなどの話が繰り広げられた。
クリプトン・フューチャー・メディアメディアファージ事業部の佐々木渉氏
続いて登場したクリプトンの佐々木氏は、初音ミクや鏡音リン・レンなどのバーチャル歌手ソフト「VOCALOID2 CVシリーズ」の企画担当者。ニコニコ動画という場に「ネタ」を供給するのに一役買っている立場である。
初音ミクがリリースされた際、すでにニコニコ動画はサービスを提供していたが、こうした場を意識して制作された製品なのだろうか。
佐々木氏はこれについて「最初にニコニコ動画を見たのは東京で行った初音ミクの録音が終わり、本社のある札幌に戻ってきたとき。その時点ではすでに初音ミクのキャラクターや概要は決まっていた」と語る。「ここにちょっとでも乗っかれる要素があればおもしろいだろうな、とは思っていた」(佐々木氏)とは考えながらも、当初はニコニコ動画上での爆発的な人気までは意識していなかったという。
吉川氏はまた、ユーザーが楽曲を歌ったり、アニメなどの振り付けをもとに実際に踊ったりする「○○を歌ってみた」「○○を踊ってみた」というジャンルの動画がニコニコ動画上で人気であることを説明した上で、「『○○を歌ってみた』は人間しかできなかった。歌うということをDTMソフトのほうへ切り離したのは画期的なことではないか」と、VOCALOIDシリーズが人気になった要因を質問した。
それに対して佐々木氏は「歌うという行為を切り離したというより、思春期の女の子的キャラクターから歌を切り離したというほうが影響が大きかった気がしている。ボーカロイドは綺麗で、あまり生々しくない。一方、歌は本来情感的なもので、濃かったり重かったりする。これをボーカロイドが歌うことでオブラートに包めているのではないか」と答える。「有名なバンドのおじさんが初恋の歌を歌うよりは、高校の時の初恋の相手的なキャラクターに歌わせたほうがリアルさがある」(佐々木氏)と、キャラクターをプロデュースした側ならではの見解を示した。
また佐々木氏は、コンテンツ投稿サービス「ピアプロ」のリリースを公開1週間前に同社社長の伊藤博之氏に告げられたという裏話も披露。佐々木氏が伊藤氏に「こんなに忙しいのになぜ今リリースするのか」という質問をすると「みんなが作ったものを自分が見てみたいから」と明快に答たのだという。現在では伊藤氏も「ニコ厨になってしまった」(佐々木氏)とのこと。
最後に吉川氏はNeta Centric KMと銘打った第3世代ナレッジマネジメントについて改めて語る。「1つは最終成果物ではなく中間成果物や素材そのものを共有すること、もう1つは『人そのもの』ではなく、『いろいろな人を動かしているモノ』を追いかけることがポイント」(吉川氏)とし、今後こうした手法を導入するにはこれらのポイントをシステマチックに活用していくツールにしていくべきであるとまとめた。
なお、今回のセッションで使われたプレゼンテーション資料はドキュメント共有サイト「docune」で閲覧できる。
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