音声合成ソフト「初音ミク」を使った楽曲に関して、ドワンゴが作詞作曲者の許諾なしに着うたを配信したとの疑惑が浮上した。この件に関し、初音ミクの開発元であるクリプトン・フューチャー・メディアと、ドワンゴの子会社で楽曲の著作権を管理するドワンゴ・ミュージックパブリッシングがそれぞれ声明を発表。両社間の契約に関する経緯について説明した。
ドワンゴは、子会社のニワンゴと共同運営している「ニコニコ動画」において、初音ミクを使って発表された楽曲が人気を集めていることから、自社サイトにおいて11月より着うたの配信をしている。
ところがこの件に関して、ニコニコ動画で人気となっている楽曲の作者と名乗る人が、楽曲の使用に関する契約を結ばないまま着うたが配信されたと掲示板上に書き込んだ。中には着うたの配信に関して許可をしたという人や、きちんと契約を結んだという人もいたが、契約書を交わしていないという書き込みが複数人からなされたことで、きちんと許諾を得ないままドワンゴが着うたを配信したのではないかという疑惑がもたれていた。
ドワンゴ・ミュージックパブリッシングによれば、初音ミクを使った着うたの配信については、「本年9月、クリプトン社「初音ミク」担当者様が当社に来社された際、着うた配信の提案をさせていただき、ご了解をいただきました」として、クリプトンからは許可を得ていたという。
クリプトンは初音ミクの利用規約において、カラオケや着メロ、着うたなどでの利用に関しては、クリプトンとの使用許諾契約を求めている。このため、2社での話し合いとなったようだ。
その後、ドワンゴは、楽曲の作詞作曲者と個別にコンタクトをとっている。この後の契約手続きについて、混乱が起きたようだ。
クリプトンはドワンゴとの契約にあたり、「仲介業者」(クリプトン)として、フロンティアワークスを選定。この理由については、「製品の開発などで業務負荷が増しておりましたので、ライセンス業務に実績がある会社を間に立てることで独占などの文言を外し、業務を速やかに行うため」とクリプトンでは説明している。
ドワンゴは、すでに配信に関して連絡をとっていた作詞作曲者の連絡先について、本人の許諾の上でフロンティアワークスに通知。「権利代行会社(編集部注:フロンティアワークス)が各権利者と契約を行い、さらにその後権利代行会社と当社が配信に関するライセンス契約を締結することで合意いたしました」(ドワンゴ・ミュージックパブリッシング)
その後ドワンゴはフロンティアワークスについて配信条件などの詳細について合意し、すぐに着うたを配信したという。ただし、この点についてクリプトンでは、「ドワンゴ社は口頭ベースの許諾で楽曲の配信を開始してしまっていた」との認識だ。
その後、「当然締結されていると考えていた各権利者と権利代行会社間の契約書が締結されていないことが、権利者からのクレームで判明」(ドワンゴ・ミュージックパブリッシング)。
ドワンゴ側としては、作詞作曲者との間の権利処理については、フロンティアワークスが担当すると考えていたことから、「早急に権利者との契約を締結するよう、重ねて権利代行会社に強く申し入れを行いましたが、なんら返答がなく、契約書が締結されないまま今日に至っております」としている。
この件に関しては、クリプトンも「事務手続きが円滑に行われなかったこと、権利者の皆様に対して大変申し訳なく思っております。権利者の皆様には本日中に連絡を差し上げたうえ、速やかに契約手続きさせていただきたく存じます」とコメントしている。
今回の件は、ドワンゴ、ドワンゴ・ミュージックパブリッシング、クリプトン、フロンティアワークス、作詞作曲者の5者が絡み、それぞれに十分な意思疎通ができていなかったことが原因のようだ。加えて、ドワンゴ・ミュージックパブリッシングが人気曲「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」について著作権の一部をJASRACに信託したことがクリプトンに伝わっていなかったことが、相互不信を招いてしまった。
クリプトンでは「これで問題の根幹が見えて参りましたので、あとは各社協議の上しっかりとしたビジネスを構築できるように努力していきたいと思います。なお、ネガティブな話ばかりが先行しておりますが、共にCGMを志向する会社として、ドワンゴ社とは昨日の打ち合わせでもポジティブな意見交換・議論もさせていただきました。両社ともがニコニコできるような仕組みが築けたらと願っております」とコメントしており、再発防止に努める考えを示している。
なお、ニコニコ動画で人気となり、着うたやカラオケでも配信されている楽曲「恋スルVOC@LOID」については、作詞作曲者のOSTER projectがコメントを発表。「正当な手続きを踏んだ上での配信」と契約に問題はなかったとの認識を示した。ただし、「しかし権利関係の揉め事でイベントが前後したりしたのも事実です(いつの間にかうp主(編集部注:作詞作曲者のこと)、ドワンゴ、フロンティアワークス、クリプトン間の契約とかいうとても複雑なことになってて、現在でもそこの契約で停滞しています)」(OSTER project)として、権利処理の手続きにおいて問題が起きていることを認めている。また、楽曲の管理委託については「お断りさせて頂いてます。どの曲もJASRACに登録するつもりはないというのが現在の私の意向です」(OSTER project)としている。
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