電子音楽と歌謡曲の融合について熱く語るトークイベント「POP2*0ナイト〈邦楽ポップ編〉」が12月9日(日)にお台場パレットタウンにある「TOKYO CULTURE CULTURE」にて開催された。
このイベントの司会は、日本のテクノミュージックについてまとめた「電子音楽in JAPAN」や「電子音楽 In The(Lost)World 」など著書で知られる編集者・田中雄2氏。さらにゲストには「だれが「音楽」を殺すのか?」で話題を呼んだ音楽ジャーナリスト・津田大介氏、「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」の著者・ばるぼら氏、そして日本人ミュージシャンの中でも屈指のコンピューターフリークとして知られる作曲家・戸田誠司氏という豪華メンバーで構成されたイベントは、シンセサイザーを筆頭とする電子楽器が、いかに歌謡曲と融合してきたかについて、田中氏秘蔵の音源とトークを交えて3部に分けて進行するものだった。
第1部では、田中氏が監修・選曲を行ったコンピレーションアルバム「イエローマジック歌謡曲」、「テクノマジック歌謡曲」についての話題を中心に、やむをえず落選させた曲の紹介をしつつ、電子音楽黎明期からの進化の過程が実際に耳で聞いて実感できる内容だった。
紹介された曲の中は、すでに入手が困難なものや、美空ひばりや北島三郎といった意外な歌手の曲にシンセサイザーが使われた例も紹介されていたりと、田中氏の電子音楽に関する造詣の深さを感じる内容であった。
休憩を挟んで行われた第2部では、「どこよりも早く電子音を取り入れたジャンル」として、70年代〜90年代のアニメ・特撮ソングを紹介。
国産アニメ第1号である「鉄腕アトム」に始まり、「うる星やつら」や「機動戦士ガンダム」の電子音が特徴的な楽曲や、テルミンを多用した「仮面ライダー」の曲目を紹介しつつ、時にはマイナーな番組のBGMをチョイスしたりと、ゲストの戸田氏も「まるでドラえもんのポケットみたいだ!」と感心するほどバリエーション豊かな選曲で来場者を楽しませていた。
そしてイベントの締めとなる第3部では、インターネット時代を象徴するシンガーとして、テクノポップ調の楽曲でコアな人気を獲得したアイドルユニット「Perfume」と、キュートなボイスで人気を博している歌唱ソフト“ボーカロイド”「初音ミク」を大特集。
Perfumeに関するトークコーナーについては、偶然来場していた著名なPerfumeファンであるK氏を壇上に招き、Perfumeの地方アイドル時代からの変遷や、その魅力についてディープに語るものとなった。
そのトークショーの中で、津田氏は「ニコニコ動画」や「Youtube」といった動画サイトがPerfumeの人気を上げる1角を担ったとコメント。新作シングル「ポリリズム」の初週売り上げの10分の1が、「ニコニコ動画」内のネットショップ「ニコニコ市場」からによるものも含め、「今後はネットショップでの動きは重要になってくる」と、音楽とコンピューターの融合が音楽だけでなく、流通にも影響を及ぼしている点について語っていたのが印象的だった。
イベントのトリを務める「初音ミク」を語るコーナーでは、まずコンピューターに人の声を喋らせる「人工人声」のテクノロジーについて紹介。IBMやApple2、そしてMacで研究されてきた様々な人工人声を田中氏のライブラリから発表。そしてそれら人工人声の最新型であるボーカロイド・初音ミクについて、戸田氏は「まず、ロボ声でないのが凄い。人の声に近いという普遍性があるからこそ、ここまで人気が出たのでは」とその技術の高さと、人気の理由について自らの見解を語った。
また、プロの作曲家が「初音ミク」のようなボーカロイドの使用に積極的でないのは、やはりアニメ絵への嫌悪感から? との問いには「嫌悪感とかではなく、自分好みの声を出すソフトウェアを待っているだけではないかと思う。これからバリエーションも増えれば状況も変わるのでは」と回答。すでにセミプロと思われる作曲家による「初音ミク」の動画は何点もインターネットで公開されているが、今後は著名な作曲家も初音ミクのようなボーカロイドを起用して楽曲を作る可能性もあるとを示唆した。
さらに、今回のイベントでは、初音ミクの開発元であるクリプトン社の厚意により、現在鋭意制作中である最新ボーカロイド「鏡音リン&レン」の歌声も大公開された。
ここで放送されたのは、初音ミクと鏡音リン、鏡音レンによる輪唱「かえるのうた」。時間こそ短かったものの、3人の歌声の違いがハッキリと分かる興味深い内容だった。ここで公開された鏡音リンの歌声は、初音ミクよりも若干幼めのあどけない印象を与えるものだったのに対し、鏡音レンは凛々しい少年といった張りのある歌声で実に対照的。完成バージョンへの期待を高めるには十分すぎるほどの内容であった。
ボーカロイド関係のサプライズはそれだけでなく、なんと戸田誠司氏自ら「初音ミク」を使用した楽曲を公開。「馬と蝶とミク」と題されたこの作品は、幻想的な動画をバックに流れる郷愁に満ちたメロディと、機械的な響きの中に優しさを感じさせる初音ミクの歌声が見事に融合した心を揺さぶる作品で、終了とともに会場からは盛大な拍手が鳴り響いていた。
このように、「POP2*0ナイト〈邦楽ポップ編〉」はレアな音源と濃厚なトークで、電子音楽の黎明期から最先端までの歴史が楽しめるイベントであった。このイベントの前日に同じく〈洋楽ロック編〉が開催されたように、電子楽器と音楽の融合の歴史はまだまだ語り尽くせないほどバリエーション豊かで、司会である田中氏も機会があればまだまだイベントを開催したいと意欲をもって語ってくれた。
次回開催時には、普段シンセサイザーなどの電子楽器にはなじみのない人も参加してみてはいかがだろうか。普段知ることのない音楽に触れられたり、逆にいつも触れている音楽が実は……という驚きもあったりと、自分の音楽ライフに新鮮な衝撃を与えてくれることだろう。
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