サンフランシスコ発――Googleのリサーチ担当ディレクターであるPeter Norvig氏は、Googleのウェブに対する影響をゲーム理論になぞらえることができると語った。
非常に簡単に定義すると、経済学に援用されているゲーム理論は、複数の主体と互いの影響の間に存在する戦略的な相互作用を研究する学問分野である。
「私たちは(かつて)自分たちをウェブの単なる観察者であるとみなしていた。私たちはウェブのコピーを取り、それを単にウェブを反映したものに過ぎないと考えていた」。米国時間9月9日、2日間にわたる人工知能(AI)のカンファレンスであるSingularity Summitの席上でNorvig氏はこのように語った。
「しかし現在では、Googleとウェブは共同で進化している存在であると理解している。私たちが変更を施すとウェブも変更される。サーチエンジンオプティマイザーは私たちをじっと観察している。そして、私たちが動くとこれらも動く。Googleとウェブとの間の相互作用によってウェブは異なる方向に動くのだ」(Norvig氏)
人工知能分野で広く読まれている著書を出版しているNorvig氏は、Singularity Summitの2日目の開幕を飾る基調講演に登場し、約800人の出席者を集めた。いわゆるシンギュラリティ(特異点)とは、人工知能の進歩によって人間よりも賢く、知能を自己増幅させる機械が登場する段階を指す。一部の科学技術者は、コンピュータのハードウェアとソフトウェアの今日における急速な進歩によって人類は特異点に向かいつつあると信じている。
しかしNorvig氏は、現時点のデータでは現在が科学技術によって変化が加速している時代であるとは必ずしも証明されていないとして、そのような考えを一笑に付す。たとえば、とNorvig氏は過去約100年間の米国の国内総生産(GDP)のグラフを見せた。グラフは、宇宙飛行やパーソナルコンピュータの登場によってもGDPが突出して成長したことはなく成長率が一定だったことを示している。同様に、世界全体のGDPの年間成長を示すグラフを見ても、1970年以降、成長は1〜2%変動しているだけで、明確に上昇または下降のトレンドを示していないとNorvig氏は指摘する。
「歴史上のどの時代を見ても、物事が他の時代より急速に進化しているように見えてしまう」と、米国航空宇宙局(NASA)エイムズ研究所のコンピューテーショナル部門のトップを務めた経験のあるNorvig氏は語る。
同様に汎用人工知能についても、20年または30年前と比較して飛躍的進歩が増殖的に起こる段階にあることを示す兆候はあまり見られないとNorvig氏は言う。「そのようなデータの実体的な内容を示すもっと多くのデータとモデルが必要だ」
しかし、Norvig氏はスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校の「確率的一階論理」の研究など人工知能分野の最近の研究成果を心強く感じていると語っている。確率的一階論理、つまり複数の状態に対してデータを量化できるソフトウェアのプログラミング技法は、汎用人工知能の発展の鍵を握ると同氏は言う。その他の必要条件としては、複数のピクセルから人間の顔に、そして群衆の中にいる人々へと飛躍できる視覚システムのような階層的な描画が可能なソフトウェアが挙げられる。機械もオンラインで、または効率的な方法で多くのデータから学習できるようになるという。「そのようなコンポーネントがそろえば汎用人工知能が実現する」
また、Norgiv氏は講演の前半で人間の子供をチンパンジーの赤ん坊と比較している。そして、相違点よりも類似点の方が多いとしながら、人間とチンパンジーの文化を比較すると真の違いが見えてくると語った。「そこに人類の将来性がある。それは個々の知能ではなく、このように集合的な知性を持つ文化なのである」
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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