慶応大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構(DMC)はこのほど、デジタル時代の知的財産・著作権に関する研究を行う「デジタル知財プロジェクト」(DIPP)を発足。6月30日に慶応大学三田キャンパス内でキックオフイベントを開催した。
イベントではDIPPの設立目的や今後の方針に関するプレゼンテーションのほか、関係各所の担当者らを招いてパネルディスカッションを実施。「コンテンツ取引市場」をテーマに展開された第2部では、総務省、放送事業者、出演者団体の担当者らが「放送のインターネット配信」に関する現状の取り組みと課題などについて意見を述べた。
総務省情報通信政策局コンテンツ流通促進室の小笠原陽一室長は、2006年11月から2007年6月まで8回にわたって開催された「コンテンツ取引市場の形成に関する検討会」での議論内容をもとに、放送映像コンテンツの2次利用(主にインターネット配信について)にかかわる現状の課題と法整備の必要性について報告。実施に向けた最大のネックと見られる著作権処理について「権利者から許諾を得る際の手続き簡素化や取引にかかわるプロセスの透明化が必要」との選択肢が浮かんでいると説明し、2年程度でデジタルコンテンツ流通促進の法整備を進める方針を示した。
また、インターネット配信などの2次利用が進まない現状について「放送事業者各局はいずれも「コンテンツマルチユース」を掲げており、権利者側が強硬に反対している事実もない。また、実演家などの権利取り扱いが制度上、特別ということもない」と分析。またYouTubeなどの実績からニーズが高いことにも触れた上で、要因を「放送コンテンツは2次利用を想定して作られておらず、市場が未成熟なこと」とした。
これに対し、NHKからアジア・コンテンツ・センターに取締役として出向している井上隆史氏は「コンテンツを放送局が囲い込んでいる実情はある」と指摘。「放送番組は1次利用の段階で制作コストはペイしており、2次利用はあくまで副次収入。だから映画業界などと比較するとモチベーションが低い」と説明した。
また、NHKではプロダクションが制作する番組の放送権のみを取得する「予約購入」を進めているとし、著作権を含めた2次利用に関する権利を制作プロ側に持たせることでコンテンツ産業の更なる発展につながるとの考えを示した。
出演者側の代表者として出席した(社)日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター(CPRA)運営委員会の森脇信治氏は「新しいビジネスチャンスが生まれることは(権利者としても)大歓迎」とし、コンテンツ2次利用ビジネスが進まない元凶と見られがちな現状を言外に否定した。
一方、あくまで権利を担保することを最低条件とし「権利者が2次利用に消極的なコンテンツにおいても(法律などで)実施の方向に持っていけるようにするのは文明国家として問題がある」とクギをさした。
モデレーターを務めた慶応義塾大学DMC機構の中村伊知哉教授は「コンテンツの2次利用に関する議論には課題が多いが、デジタル時代において急を要するテーマ。DIPPとしてもプレイヤー、プラットフォーム両面から積極的に推進していきたい」とした。
DIPPは情報の国際的な共有・流通の進展に対応する制度、ビジネスモデル、技術を追求するデジタル時代の知的財産/著作権に関する研究プロジェクト。デジタルメディアの法制度について世界的なモデルを設計する「コンテンツ政策フォーラム」、政策論を形成するための「リアルプロジェクト実施」の2本柱からなり、それぞれに政府担当者や関連分野の研究者などを招いた産官学の体制で研究・検討を進める。
リアルプロジェクトとしては、コンテンツ制作者や権利者、商社、広告代理店、放送事業者、通信事業者らからなるコンソーシアムを形成、コンテンツ資産評価や税会計処理などの課題に取り組むビジネス実験を2007年秋にも開始。そのほか、音楽番組をインターネットに同時配信するIPラジオやワンセグ・デジタルラジオ、WiFiなど各種ネットワークに対応した共通コンテンツ配信プラットフォーム設計や再生アプリに関する技術仕様策定および実証実験などを予定している。
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