「アップルゲート」事件に見るデジタル報道時代の危険性

文:Caroline McCarthy(CNET News.com) 翻訳校正:吉武稔夫、佐藤卓、小林理子、編集部2007年05月22日 21時49分

 米国時間5月16日の出来事は、1948年の米大統領選で勝利したTruman候補を敗北と報じた「世紀の大誤報」に匹敵する、「デジタル時代の大誤報」と呼べるかもしれない。

 人気の高い技術系ブログ「Engadget」はこの日、Appleの「内部メモ」とされるものを掲載した。その内容は、大いに期待されている携帯端末「iPhone」と次期OS「Leopard」のリリースが大幅に遅れるというもので、これを受けてAppleの株価は急落した。ところが、この内部メモは偽物だった。Engadgetはかつがれたのだ。

 Engadgetはすぐにこの記事を「虚報」として訂正し、Appleの株価も、急落前の水準には届かないものの、ほぼ持ち直した。インターネット関連のニュースブログ「TechCrunch」の編集者であるMichael Arrington氏が自らの記事で述べているとおり、「多くの投資家が、歯を磨くほどの短い時間で、途方もない額を失った」

 ウォーターゲート事件になぞらえて「アップルゲート」と呼ばれているこの騒動は、大勢のマニアックなオンラインニュース読者やデジタル機器の愛好家、そしてAppleの株主に、昔からある教訓を思い出させてくれた。それは、「読むものすべてが信頼できるわけではない」というものだ。

 間違った噂や事実に反する情報、悪ふざけなどを報道してしまい、それがあまりにも真剣に受け止められるというケースは、メディア業界の草創期から悩みの種だった。もちろんTruman氏と対立していたDewey候補が勝利しなかったのは知ってのとおりだし、1938年のラジオドラマ「宇宙戦争」が引き起こした騒ぎもいい例だ。とはいえ、インターネットやブログの登場で状況が激変したのは、衆目の認めるところだ。

 簡単な操作で情報を発信できるようになり、最新ニュースが掲載されるまで丸1日待つ必要はなくなった。特ダネを確認する電話に2分を費やしていたら、その間にほかのサイトにすっぱ抜かれる可能性がある。大量の情報を入手できるようになり、迅速に大勢とつながってメッセージを広く発信できるようになったことで、オンラインの世界はうわさを短時間で広範囲にばらまく大変な装置であることもわかってきた。うわさには真実もあれば、そうでないものもある。いずれにせよ、ネットユーザーがうわさ話を求める欲望は尽きることがなさそうだ。

 「わたしもうわさを掲載してきた1人だ」と、Engadgetと競合する技術系ブログ「Gizmodo」の編集者を務めるBrian Lam氏は語る。「実にひどいうわさを掲載したこともあった。大好きなんだ」

 だがこれをAppleのような企業に適用したらどうなるだろうか?Appleは秘密主義で有名なうえに、同社を愛してやまない忠実なファンが大勢いる。Appleの信奉者たちは、同社が提出した特許申請書の記述から、「iPod」の次期製品らしく見えなくもない不鮮明な写真にいたるまで、どんな情報でもリークされてくるのをいつも待ちかまえている。「面白そうな話を取り上げる場合に大切なのは、注意のうえにも注意することだ。とくにApple(の場合)は、みんな熱狂的だから。Appleファンは一筋縄ではいかない」とLam氏は言う。

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