シックス・アパートは3月24日、企業の広報やマーケティング担当者を対象に、ブログをビジネスに活用するノウハウや事例を紹介するセミナー「ブログ・オン・ビジネス」を開催した。
講演したのは、ビーコン コミュニケーションズのデジタル部ディレクターで、主にインターネットを活用した広告戦略の企画立案を手がける渡辺英輝氏だ。渡辺氏は、「29man」というブログも開設している。
リピーターを増やす「DRIPメソッド」渡辺氏は、テレビをはじめとしたマスメディアを「短期間に大勢の人の認知を獲得するのに効果的なメディア」であるのに対し、ブログをはじめとしたインターネットメディアは「Experience(経験)を提供する」ものであると位置づける。
では、インターネットでどのようにしてエンドユーザーに他より強い影響を与える"Great Experience"を提供できるのだろうか。渡辺氏は「Deep:一歩踏み込んだ深い関係」「Repeat:リピートにつながる」「Interactive Communication:対話から成り立つ関係」「Participation:参加型」を組み合わせた「DRIPメソッド」が鍵になると説く。
ビーコン コミュニケーションズのデジタル部ディレクター、渡辺英輝氏 |
一般に、商売が繁盛する鍵は繰り返し来店、購入してくれる「リピーターの確保」だといわれる。しかし渡辺氏は、元福岡ダイエーホークスの社長である高塚猛氏の著書「ならば私が黒字にしよう」の一文を引用し、いいものが他にもたくさんある現代において「リピートとは同じ人が繰り返し買ってくれることと決めつける必要はない」とし、それよりも「体験した人が誰かに話したり、誰かを連れて行きたくなったりすることの方が、はるかにリピート性が高くなる」と説明した。
みずからが顧客の立場になって考えてみると、ただ物を売っているだけではなく、気さくな店員と気軽に会話したり、情報交換をしたりするような関係になった「お気に入りのお店」には、何度も足を運びたくなるとともに、友達を連れてきたり、紹介したりしたくなることが多い。いわゆる口コミ効果だ。
「口コミの力が一番強いのはインターネットだと思う」と渡辺氏。リアルの世界では、会話で一度に多くても数人にしか伝わらないが、ブログで説得力の高い文章が書かれたり、アクセス数の大きいサイトに取り上げられたりすれば、ものすごい勢いで評判が広まる。
「情報発信していただけることこそ、情報化時代における真のリピートなのかもしれない」と渡辺氏。つまりDRIPメソッドとは、自社サイトだけで情報を発信しようとするのではなく、体験した顧客が「ここはおもしろかった」と思わずブログなどで紹介したくなるようなアイデアの柱にあたるといえるだろう。
独自のアイデアでブログを注目させるそれでは、DRIPメソッドを用いたプロモーションとは、具体的にどのようなものがあるのだろうか。渡辺氏はみずからが手がけたいくつかのプロモーションを例に挙げた。
まず最初に挙げたのが、P&Gが2004年9月〜12月に行った「除菌のアリエール困ったさんコンテスト」だ。消費者から募集した経験談などをウェブサイトに掲載していく企画において、そのシステムに「Movable Type」を採用した。
ブログの特性を活かして、よい応募を順次公開していくことで毎日更新し、トラックバックを受け付けた。そして大賞の選出を読者からの投票やトラックバック数、アクセス数によって決めるユーザー参加型とした。さらに投票やトラックバックした読者にも抽選でプレゼントを用意した。渡辺氏は「投稿者、読者みんなが参加することで、盛り上がっている感じを出した」と振り返った。
これらに加え、トラックバックしてきたブログに対して、逆にトラックバックする「トラックバック返し」をすることでインタラクティブなコミュニティを形成したり、投稿をP&Gが提供するFMラジオ番組で紹介するクロスメディアも展開した。
当時は企業が広告にブログを使うことが極めて珍しく、プロモーション期間中だけでなく、終了後も先進的かつ本格的なブログマーケティングの例として注目を浴びた。渡辺氏は「まだブログがメジャーでなかったので、ブログであることを前面に出さなかった」という。
このほかに、ナイキが学生への認知を高めるため2005年6月〜9月に行った「ブカツキャンペーン」の一環として、いくつかの高校の部活動にブログ環境を提供した「ブカツブログ」や、ラジオとポッドキャストを連携した番組を作成してブランドの認知を向上させたジョージア Dream Navigatorsキャンペーンなどが紹介された。いずれも、ただ認知の向上につなげただけでなく、調査会社のウェブサイト格付けランキングで上位にランクされたり、RSSの配信数が大幅に向上するなど「定量的な効果測定ができ、評価された」(渡辺氏)とのことだ。
いずれも、単純にブログを更新していくのではなく、独自のアイデアを加味することで人を呼び集め、成果を上げた。渡辺氏は「ブログを作るのは簡単。誰もが簡単に情報を発信できる時代だからこそ、独自の視点が重要だ」とし、「オリジナリティのないブログは陳腐化していく」と言い切る。
批判的な意見に対する対処トラックバックを受け付けるなど、従来のウェブに比べてユーザー参加型の傾向が強いブログマーケティングは、一方で「誹謗中傷や批判的な書き込みがあった場合にどう対応すればいいのか」と懸念されることがある。講演後のQ&Aセッションでは、こうした質問に渡辺氏が答えた。
渡辺氏は「誹謗中傷に対する最後の策として、相手のプロバイダーに削除を依頼するということも考えられるが、ロジカルな批判に対しては逃げ隠れせず、精一杯の対応をすることが必要となる。こうすることで、逆にファンになってくれる人もいる」とした。
また、「ITと距離を置くユーザーに対してどのようにアプローチすればいいか」との質問に対しては、「インターネットを利用できるオピニオンリーダー的な人にブログなどを書いてもらうのが効果的だ」と答えた。ただし、ただポジティブなことを書くだけではユーザーに敬遠されることがあるので、「いいことも悪いことも書いてもらう。そして悪いことを改善してポジティブな方向に持って行くことが重要だ」という。
そして、「悪いことを書かれても、それを真摯(しんし)に受け止め、ポジティブな方向に持って行く。その手段としてブログを活用すればいいのではないだろうか」と付け加えた。
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