最近「画面に表示されている画像の文字列を入力してください」といった画像認証テストを見かけないだろうか?不要な電子メールを抑止する手段として急増しているこの対策に、視覚障害を持つネット利用者から不満の声が挙がっている。スパムメールを抑制したいと考える企業と、障害者支援団体との間で、すでに摩擦が生まれているようだ。
米Yahoo、米Microsoft、米Verisignなど多くの企業が、ユーザーに対して、電子メールなどのサービスのアクセス/サインアップ時に画像を使った認証を求めるようにしている。これは、通常、アクセス/サインアップ用のウェブページに表示される画像ファイル内の文字列を、ユーザーにタイプ入力させるというもの。この文字列は、ぼかしなどの特殊加工が施されており、ロボットソフトウェアなどが、認識/複製できないようしている。
画像認証は、不要なジャンクメールを封じ込める戦いで大きな勝利を収めているようだが、同時に、視覚障害をもつウェブユーザーの利用を大きく妨げる結果ともなっている。視覚障害者の擁護団体が画像認証に対する怒りをあらわにする一方で、ウェブ標準化団体は代替の検討を打ち出し、法律の専門家は「画像認証の手法は、米国障害者法(Americans with Disabilities Act)に抵触するとして、使用する企業が訴えられる可能性がある」と警告する事態にまで発展している。
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米国視覚障害者協会(AFB)のディレクター、Janina Sajkaは「画像認証手法を採用した企業は、ウェブ利用者全体に与える影響を考えずに、画像認証という技術アイデアに飛びついたようだ」と語る。
「利用者が人間であることをテストするためのシステムだが、これは人間の能力の一部を試すものだ。この能力を持たない人間は参加を認められない、というのはかなり不適切なシステムだ」(Sajka)
一方、画像認証を導入した企業は「この手法は功を奏している」と語る。米Microsoftは「画像認証の導入後、電子メール用アカウントの登録が20%削減した」と述べている。他にも、米Yahoo !は電子メールのサービスで、米VeriSignはウェブアドレスなどを保存するWhoISデータベースで、それぞれ画像認証を利用している。
画像認証を求めるウェブサイトの中には、視覚障害者のための代替手段を設けているところもある。上記で述べた3社のうち、VeriSignを除く2社にはそれがあるという。しかし、それらの手法が完全であるとは言い難い模様だ。
例えば、MicrosoftのHotmailでは、文字列を画像で示す代わりに音声で読み上げる方法も用意している。しかしHotmailでは、その音声をわざと雑音混じりのものにしている。コンピュータによる自動認識を防止するためだ。試しに、正常な聴覚を持つCNET.News.comの記者4人がこの音声による認証を行ったところ、4人全員が理解できなかった。
もっと良いやり方はないのか
画像認証の利用が急増しているにもかかわらず、現行の視覚障害者向けの代替策が有効性を欠くため、障害者を支持する人々の間から怒りの声が挙がっている。このため、ウェブ標準団体W3C(World Wide Web Consortium)のWAI(Web Accessibility Initiative)ワーキンググループは、代替策の標準化を検討し始めている。
WAIワーキンググループでは、視覚障害者を考慮したスパム対策をウェブサイトに実装するガイド案について議論している。WAIはこの問題を、今年末に発表予定の草案Web Accessibility Guidelines Version 2.0に盛り込むつもりだ。これまでの段階で公開された同草案では、この件については触れられていない。
WAIディレクターのJudy Brewerは、「導入する企業が意図していないにせよ、画像認証は利用者が視覚能力を持つかどうかをテストしている」と語る。「これは過去数年間にわたって取り上げられてきた問題であり、様々な苦情が寄せられている。しかし、必ずしも簡単に解決できるとは限らない」(Brewer)
AFBのSajka自身も視覚障害者だ。同氏は「画像認証は、弱視の人々にとっても問題だ。画像認証で使用される特殊加工の文字は、色盲者には認識できないことが多く、視覚の対比(コントラスト)に問題を抱える障害者の利用も阻むことになる」と語っている。
画像認証が障害者を差別しているとして起こされた訴訟では、「米国障害者法はウェブサイトに適用しない」、「ウェブサイトは、市民権を定めた法律に含まれる『公共施設』にはあたらない」などの判断が下されている。Sajkaは「画像認証を導入した企業を訴えるには、障害者のアクセシビリティ向上を義務づける別の法案を、議会で通過させることが必要かもしれない」と述べている。
しかし、米Kaye Scholerの共同経営者のKerry Scanlonは、「裁判所が最終的に、米国障害者法をインターネットに適用しないことを支持する可能性は低い」とみている。「現在のインターネットの利用状況からみて、裁判所が米国に居住する5000万人の視覚障害者を保護するための米国障害者法を、インターネットに適用しないということはないだろう」(Scanlon)
スパム防止団体SpamCon Foundationのプレジデント、Laura Atkinsは「電子メールを利用する人々の能力を制限することは、コミュニケーションメディアとしての有効性も減らすことになる。全てのウェブサイトで視覚障害者がサインアップできる方法が必要だが、インターネット上の迷惑行為に立ち向かっているISPを責めることはできない」と語っている。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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