ラスベガス発---過去20年にわたり、Bill GatesにとってComdexの基調講演はテクノロジーに対する自分のビジョンを打ち出す場だった。インターネットしかり、XMLしかり。そして今年、演台に立ったGatesは、IT業界は重大な岐路に立たされていると宣言した。
かつてはデジタルライフにつきものの困り者とみなされていたサイバー攻撃とスパムは、今やダウンタイムと人件費の損失において、企業に数百万ドルものコスト負担を課す破壊的な存在へと姿を変えた。ますます多くのユーザーが脆弱なデジタルインフラに不満を募らせているなか、Gatesは今日のユーザーを悩ませているほとんどの問題はいずれ解決されると宣言し、新しいテクノロジーの時代に対する自らのビジョンを披露した。
11月中旬、CNET News.comはMicrosoftの共同設立者であり会長を務めるBill Gatesにインタビューを行い、今回の基調講演について話を聞いた。
---今回のComdexではあちこちでシームレスコンピューティングの話をされていますね。これにはどういった狙いがあるのでしょうか。
シームレスコンピューティングをテーマに選んだ大きな理由は、今後数年で片をつける必要のある未解決の問題について話をしたかったからです。業界の進歩が滞っているのは、異なるソフトウェアシステムの間に壁があるからです。なぜ、いまだに本物のEコマースが実現されていないのでしょうか。なぜ、もっと気軽にスケジュールをデジタル管理し、友人や同僚と共有することができないのでしょうか。その多くはソフトウェアの問題です。システムの運用コストを削減し、スパムを撃退し、セキュリティ問題を解決し、異なるデバイスをスムーズに連携させる---ほとんどの場合、そのために必要なのはソフトウェアによるソリューションです。
---ベンダー各社が引き続き協力に及び腰ならば、どうやってシームレスコンピューティングを達成するのですか。こうした問題はまだ残されていると思うのですが。
確かにそうかもしれません。例を挙げて考えてみましょう。たとえば、Microsoft OfficeとSAPを統合するとします。この2つのシステムを完璧に連動させるためにはどうすればよいか。この難題を解決する枠組みとなるのがWebサービス・アーキテクチャです。つまり、1つは純粋にアーキテクチャの問題だということです。2000年にMicrosoftは.Net戦略を全力で推進することを宣言しました。XML(拡張マークアップ言語)とWebサービスは必ず主流になると考えたからです。その結果はどうでしょうか。この2つに関する限り、予想は見事にあたりました。人々は今、業界標準の重要性を理解しつつあります。
「標準」といわれるものはすでに存在します。これは20年以上にわたって業界が追い求めてきた目標でした。異なるコンピュータの間でデータを自由に移動させる仕組みを作るために、気の遠くなるほどの時間が費やされてきました。そして今、この目的は達成されたかのように見えます。しかし、人々はこうも思っています。「ブラウザを使えばどの企業のサイトも閲覧できるのに、なぜ全ベンダーの情報を一度に検索することはできないのか」。なぜでしょうか。それはウェブページを画面に表示する仕組みとは次元の違う、もう1つの問題があるからです。そしてこれは、はるかに複雑な問題でもあります。Webサービスだけが、この問題を解決する基盤を提供してくれるのです。ある意味では、こう言うこともできるでしょう---90年代の夢の多くは、この業界標準インフラとツールの登場を待たなければならなかったのだと。本物のEコマースも、いまだに成し遂げられていない夢の1つです。
---ユーティリティコンピューティングに対する意見を聞かせてください。これは昔からある概念に新しい服を着せただけのものなのでしょうか。シームレスコンピューティングに貢献するものになるのでしょうか。
ユーティリティコンピューティングについては慎重に考える必要があります。90年代に、すべてはホスティングされ、アウトソースされるというアイデアが大流行しました。しかし、当時のホスティング企業は今どこにいるのでしょうか。このモデルに適していたのは、ウェブサイトの運用といったごく一握りのものだけでした。ITシステムは企業の頭脳です。自分の頭脳を放棄し、外注してしまえば、新しいニーズにシステムを適応させたくなっても、そのたびに契約交渉をしなければなりません。
IBM、Sun、Microsoftのメッセージには共通点があります。それは、システム管理者の業務の一部はソフトウェアで自動化するべきだというものです。IT予算の一部を運用コストから新たなイノベーションに向けるためには、ソフトウェアのブレークスルーがいる。この点では3社の意見は一致しています。興味深いのは、誰もがこれをハードウェアではなく、ソフトウェアの問題だと認めていることです。
---何がこの動きを加速するのでしょうか。マーケティングですか。
いいえ。それは、今やIT予算のなかで莫大な割合を占めるようになった運用コストや人件費です。我々は企業のもとへ行って、IT予算はイノベーションに向けるべきだと訴える必要があります。アウトソーシングについては、Microsoftは推進派でも反対派でもありません。しかし、慎重になる必要はありそうです。成功例よりも失敗例の方が多いことは間違いないのですから。
---この未来図にLinuxはどのように関わってきますか。
Linuxは1970年代のUnixに等しい存在、つまり、きわめて妥当なオペレーティングシステムです。Linuxを取り巻く状況はにぎやかです。現在、シェアを拡大しつつあるOSは2つあります。1つはLinuxと呼ばれ、1つはWindowsと呼ばれている。LinuxはUnixのシェアを奪い、Windowsのシェアは今も徐々に伸び続けています。確かにサーバー分野では激しい競争が行われることになるでしょう。たとえば、IBMはLinux対応のWebSphereを発表しました。しかし、この製品には目を剥くほどの値段がつけられています。我々はただWindows製品においてアプリケーションサーバを実現しました。どちらに価値があるかはユーザーが判断することになるでしょう。
---しかし、IBMの戦略は顧客のニーズにもかなっているのでは?Linuxを取り入れることで、IBMは幅広いソリューションを提供できるようになっています。
「幅広い」というのはどういう意味でしょうか。拡大されたのは値段でしょうか、雇い入れなければならないコンサルタントの数でしょうか。「幅広い」という言葉の意味を考えてください。
---IBMはLinux製品の宣伝に巨額をつぎこんでいます。
しかし、それは何を意味しているのでしょうか。IBMは(Linuxを)開発していません。IBMのソフトウェアをLinux上で走らせるために、そして関連するサービスをIBMから受けるために金を払えと言っているのです。
---なるほど。しかし、IBMは今度はデスクトップ用Linuxを推進しています。
Linuxはずいぶん前からデスクトップで利用されています。しかし、デスクトップ市場でのLinuxのシェアは決して大きくはありません。
---要するに、Linuxに大きなメリットを感じているのはUnixユーザーのみだということですか。
Linuxには互換性のないバージョンがいくつもあることを忘れてはなりません。まとめてLinuxと呼ばれていますが、このドライバはこのバージョンでしか動かないとか、このアプリケーションはあのバージョンでしか動かないという状況が現実としてある。もちろん、試験担当者がいないのでバイナリの互換性試験はしないという考え方もあるでしょう。我々とは世界が違うだけのことです。Linuxのやり方にもそれなりのメリットや優位性はありますし、我々のやり方もしかりです。しかし、当社が競うのはOS市場の覇者の座です。
5年前なら、これはWindows対OS/2の闘いでした。もう少し最近であれば、Windows対Macintoshでしょう。それよりも前ならばCP/M 86、さらにさかのぼればCP/M 80でしょうか。常にWindowsには挑戦者がいました。では、Linuxはどうでしょうか。そもそも、Linuxというのはカーネルにすぎませんが、現在のLinuxに興味深いことが起こっているとは思えません。
---セキュリティについていえば、Microsoftはこの2年というもの、「Trustworthy Computing(信頼できるコンピューティング)」に莫大な投資をしてきました。問題点をつぶすために、すべての開発作業を一時停止することまでしました。これまでの進捗状況は?
セキュリティ問題は当初、Eメール経由で悪意あるプログラムが運ばれるという形で現れました。一年少し前になると、悪意あるプログラムは別の方法でも広がるようになりました。これは我々にとって、大きな転機となるものでした。というのも、新しい攻撃はほとんどのユーザーが気づかない部分で起きるようになったからです。被害を免れたのは、最新のソフトウェアとファイアウォールを導入しているユーザーでした。かなりの割合の顧客にとって、ファイアウォールの設定が十分かどうかを確認するのは難しいことでした。また、必要なパッチを見つけるのも難しかったと思います。
この点では目覚ましい進歩を遂げることができました。全社を挙げて、優先的に取り組んできましたからね。実際、Microsoftのシステムは他社のシステムに較べると強固です。これは当社が常に攻撃にさらされているからです。「Microsoft製品の欠陥を見つけた」という栄誉に浴したがっている人はうようよいます。彼らの目的は特定のコンピュータを攻撃することではありません。不具合という意味でいえば、我々はきわめて厳重な監視下にあると言えるでしょう。ユーザーの側では、アップデートをし、ファイアウォールを導入することが重要です。
---なぜユーザーはアップデートを定期的に行わないのでしょうか。アップデートの自動化は考えていないのですか。
これは我々の問題でもあります。パッチの重要性はさまざまですし、パッチをあてることで、他のシステムに悪影響が出る場合もあります。このパッチは安全だと書かれているなら、そのパッチはあてるべきです。クリックするだけで、すぐに問題点を修復できるでしょう。しかし、そのパッチがちょっとした機能を追加したり、システムを高速化したりするものだった場合、そして何らかの問題を引き起こす可能性がある場合は、まったく違う書き方をする必要があります。つまり、明快で、規則的で、セキュリティ面でのリスクを最小限に抑えたアップデート機能が求められているのです。この点で我々は大きな進歩を遂げました。
---独占禁止法訴訟の和解交渉が進んでいますが、製品開発計画への影響は?片方の手を手錠につながれた状態では、思うような開発はできないのではありませんか。
和解交渉においては、当社がイノベーションを通してユーザーに貢献する機会が過度に狭められることがないように十分気をつけています。今のところは、与えられた枠組みのなかでも、十分にイノベーションを続けることができそうです。
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