「若ければ理解できるだろう」。
これは、Bennett Haselton氏率いる権利擁護団体、Peacefireのスローガンだ。Peacefireは、若い人たちがフィルタリングなしに自由にWebサーフィンする権利を保護するために設立された。彼らが好む手法は、表面上は子供たちを保護する目的で設計されたソフトウェアを回避させることだ。
Haselton氏とPeacefireは、アメリカの親たちよりももっと恐ろしい検閲:中華人民共和国の検閲迂回に乗り出しており、より広い意味を持つスローガンを探すことになる可能性も出てきている。
過去6年間、Bennett Haselton氏は、Peacefireに反対するさまざまな人達と戦ってきた。Peacefireは現在従業員12名で、会員数は7000人にも達している。Haselton氏は当初、Net NannyやCyberSitterなどのWebフィルタリングアプリケーション(Haselton氏などの反対派は「検閲ソフト」と呼ぶ)を相手に戦っていた。その後しばらくの間、ソフトウェアのバグハンティングに夢中になり、最近では教育キャンペーンも開始した。このキャンペーンは、一般の人がスパム業者を訴えるためにはどのように州の法律を活用すればいいかを伝授するもので、Haselton氏自身が得た様々な結果も盛り込まれている。
24歳のHaselton氏は現在、言論の自由という自身の原点に帰り、米国政府の依頼を受けて、閲覧制限のために張られた中国のファイアウォールを迂回するプログラムの開発を進めている。
Haselton氏はオクラホマ州生まれ。大学入学のために16歳で帰国するまでは、デンマークおよび英国で育った。20歳で、テネシー州ナッシュビルのVanderbilt大学で数学の修士号を取得。この修士号によりMicrosoftで職を得て、退職するまでの7カ月間Visual Basicの部門にいた。その後、セキュリティホールを探し出してはNetscape CommunicationsやMacromedia、iDefenseといった企業から報酬金をもらい、1996年Peacefireを設立した。
今月、Haselton氏は中国のファイアウォールや他国政府のフィルタリングソフトを破るソフトを発表した。これは、米国際報道局(IBB)からの依頼を受けて作成したものだ。同局は、ニュースや宣伝活動を伝える著名なメディア機関、Voice of Americaを運営しており、米国政府が自分たちの見解を世界中に広めるために利用している。Haselton氏と米国際報道局は、このソフトが他の目的でも利用できることを認めている。例えば、自宅や学校のコンテンツフィルタリングを回避することができるという。
Haselton氏は、フリーランスのプログラマとして活動しているシアトル州の自宅から、CNET News.comのインタビューに電子メールと電話で応じてくれた。
---コンピュータに最初に興味を持ったのはいつですか。
16歳のとき、大学入学のために米国に戻ってきました。その当時の僕は、WindowsはMacintoshのOSだと思い込んでいたぐらいで、かなり遅れていました。大学での最初の年は、コンピュータよりもオンラインカルチャーに夢中になっていました。そこでは、言論の自由に関する議論は活発でしたが、18歳以下のユーザーの権利についての議論は少なかったようです。
18歳以下の言論の自由というのは、複雑な問題です。それでも、過去の世代が10代の頃に親の考え方に抵抗したおかげで社会が大きく進歩したことから、18歳以下の言論の自由という権利は重要だといえます。
---Peacefireの設立はいつですか。また、設立の理由は。
インターネット検閲に関する議論の中で、18歳以下の権利を擁護する団体がなかったため、1996年に設立しました。この問題はほとんどタブー視されていたといっても良いでしょう。「親のコンピュータを使っているのなら権利はない」と言われるのが常でした。でも、他の誰かのコンピュータであったり、「みんなのもの」である図書館のコンピュータを使っている場合はどうでしょう。これが義務と権利の複雑な部分です。1996年当時、このことについての議論はあまりありませんでしたし、いまでも状況は変わっていません。僕らは議論を盛り立てるために全力で取り組んでいます。
インターネットは少なくとも3つの点で、10代の権利に対する注目を集めていると思います。まず、オンラインでは必ずしも相手の本当の年齢が分かるわけではありません。自分が話している相手が想像よりずっと若かったので驚いたということもあるでしょう。2つ目に、技術の変化はかなり速く、若い人は登場したばかりの新しい技術を素早く吸収して進歩に追いつくことができます。そこで年上の人と同程度の知識を持って仕事にも就けるし、プロジェクトに参加することもできます。これは、薬品業界など他の産業では不可能なことです。最後に、インターネットは、文章を行き来させる形で議論が発展します。これも、過去には不可能だったことです。
人間の考え方を変えるには長い時間が必要です。だが、未成年の権利というテーマについて、仲裁の入らない形で議論される機会が増えれば、18歳以下の権利が強まる方向で議論が進むと思っています。
---"Peacefire"の名前の由来は。
特に意味はありません。僕自身は実際のところ、ちょっと大げさな名前だと思っています。こんなに大規模になると分かっていたら別の名前をつけたでしょう。もっと名前が知られて、人々がPeacefireと聞くと言葉の意味を考えることなく、この団体を連想してくれるようになるしかないですね。
---Peacefireおよびあなたのミッションは、発足以来どのように変化してきましたか。
まずフィルタリグソフトによって実際にブロックされるサイトはどれかという情報提供から始まりました。これは当時珍しく、この分野はこれまでどの団体も手をつけたことのない分野でした。僕らは10代の若者による、独自の調査や権利擁護活動を行うゆるやかな組織で、ある団体の「ジュニア」バージョンではありません。
Peacefireはフィルタリングソフトに着目した最初の団体だと僕が思うのにはいくつかの理由があります。まず、この作業はあまり報われません。例えば多くの時間を費やしてブロックされるサイト一覧を作成したのに、サイトは誤ってフィルタリングされていただけだったとします。もしこの一覧を公開すれば、フィルタリングソフトのベンダーはそのサイトをリストから外すでしょう。その後、もし誰かがフィルタリングプログラムをダウンロードして、そのサイトがフィルタリングされていないとなると、「以前はフィルタリングされていた」と言っても信じてもらえません。フィルタリングソフトベンダーはしばしば間違えてフィルタリングしたものを解除することがありますが、それを公式に言うことは決してありません。優秀な研究者にとって、フィルタリングされたサイトをわざわざ時間をかけて探し出す価値はないのです。しかし、僕たちはこの退屈な作業を喜んでやってきました。
2点目は、ほとんどの人はフィルタリングソフトの批判に対して前向きではありませんでした。18歳以下が見られないようにすれば、ほとんどのインターネット上のコンテンツは合法になると広く思われてきたからです。これは、実際に法廷で通用する考えではありませんでした。インターネット検閲法を遵守するものとして、フィルタリングソフトの味方をしてきたのは政府だったのですが。しかし、誤解は広まったままです。
3点目として、「子供を守ります」とうたっているソフトを攻撃した場合、変質者とレッテルを貼られる危険性がありました。僕たちは10代の若者グループだったので、単にグチを言っていると見られていました。けれども、変質者よりもこっちの方が好都合で、僕らはこれらのソフトを気楽に批判できたのです。
1998年、僕らはフィルタリングプログラムを無効化する方法についてサイトに掲載しはじめました。これは論議を巻き起こしました。というのも、他の人がお金を払ったコンピュータ上のソフトを、10代の若者が無効化する権利があるのかと世間が疑問を持ったからです。僕の意見では、特定の事情下では成立すると思います。コンピュータを所有することや自分のコンピュータを買うためにお金を借りることを法的に禁止されている場合、自分のコンピュータが買えないように無償で労働するよう強制されている場合は、誰かのを使っても良いと思います。
---さまざまな肩書きを持っていますね。バグハンター、スパムバスター、検閲ソフトの解除人、迂回ソフトの提供者……、これで全部ですか。
そうだと思います。
---「Bennettの本日のミッション」に、この様々な肩書きがどう結びついて来るのか聞かせてもらえませんか。
このうちのいくつかはPeacefireのプロジェクトではありませんが、僕はPeacefireの中で自分のWebスぺースを持っていました。フィルタリングソフトの欠陥探しを始めてから、一般的なセキュリティホールを探すようになり、NetscapeやE-Goldなど数社がセキュリティのバグを見つけたことに対して報酬金をくれたのです。
スパムについては、好んで戦おうとしたわけではありません。僕らのサーバがすでにスパム攻撃に遭っていたため、これにどう対処するかが問題となっていました。ワシントン州には、僕らがスパムに対してお金を請求できるアンチスパム法がありました。もしこれらに対してお金を得られるのであれば、そうしない手はありません。
---最新のスパム訴訟関連の話題は。
AOLが最新の「John Doe訴訟」で勝てば、対スパム戦において大きな勝利となると思います。スパム送信者が誰であるかわからない場合John Doeという仮の人物を訴えて、特定アドレスを特定時間に使っているのは誰であるかをISPがユーザーに公開するよう法廷に頼めば、その人を訴えることができます。これはとても重要なことです。なぜなら、大体の場合、法廷が命じない限りスパム送信者の個人情報を追跡することはできないからです。
また、ある企業が製品購入に興味を持っている人の名前と電話番号のリストを作成した人にお金を払うと発表し、Bobという人がこのリストを作成したとしましょう。Bobがどうやってその情報を得たのかを問うことなく、この企業がBobにお金を払った場合、これはスパム行為にお金を払ったのと同じことで、企業には責任があると法廷が断言すべきです。何年もの間、DVDコピーソフトに関するスパムがなかったのに、突然この春から、3つに1つのスパムがDVDのコピーに関するものになった理由はこれです。ある企業が、DVDコピーに興味がある人を探し出した人にお金を払うと言ったからです。
企業が関連会社にスパム行為を禁止すると述べたとしても、この企業に強制力がなければ意味がありません。なぜなら、関連会社の1社からスパムを受け取ったユーザーは、どこに苦情を申し立てればよいのか分からないからです。
最も重要なことは、各判事の判定に一貫性が必要だという点です。さもなければ、個人がスパム事業者を訴えるのは現実的とはいえません。判事によってさまざまな法の解釈があり、原告側はそれを学ばなければならないからです。例えばベルビューでは、半数の判事がワシントン州以外の州ではスパム事業者を告訴できないと言い、残りの半数はできると言っている。半数が、実際にお金を失っていない限りスパム事業者を告訴できないと言い、残りの半数は法で認められた500ドルで告訴できると言う。半数はスパム事業者が2度スパム行為をした場合は2度告訴できると言い、残りの半数は1度しか告訴できないと言う、といったことです。
このような問題の中で判事が原告に同意しない場合、本当は判事自身が見解を決めかねているのに、「法的捜査が必要だ」とか「弁護士を雇いなさい」と判事が原告に言うのは不適切です。
---迂回ソフトのテストの経過はどうですか。どのくらいのダウンロードがありましたか。また中国などの国家的なファイアウォールがある国で、ターゲットユーザーに使われているかを把握する方法はありますか。米国のティーンエージャーたちについてはどうでしょう。
中国や中東の人たち、そして米国では学校で使用しているという人から電子メールをもらっています。このソフトの良い点は、グループでこれを使いたい場合、1人がマシンにインストールすれば残りのみんなで共有できるという点です。
---あなたの反検閲ソフトや迂回ソフトの障害になる、いわゆるSuper DCMA(米デジタルミレニアム著作権法)と呼ばれる法律についてどう考えますか。法律が通過した場合、政府が資金提供したあなたの迂回ソフトが、法律違反として州政府から引き合いに出される可能性はあるのでしょうか。
テキサス州とマサチューセッツ州で検討されている法案は、ISPから「全通信の出所や行先」を隠すあらゆる技術を禁止する、というものです。僕らの迂回ソフトはこの定義には当てはまります。自分がどのWebサイトを見ているかをISPに知られないために使用するものだからです。僕は、どの州政府も活動を停止させようとはしないと見ています。それをしたところで法の馬鹿らしさに注目が集まるだけで、法が覆されるプロセスを加速するだけだからです。法を覆すことは可能でしょう。これは、もし機会があっても僕らが法に反対せず、訴訟にも参加しないという意味ではありません。州が広範囲にわたる法律を通過させれば、たとえ州側が特に法を守るよう強要しないと約束しても、僕らは黙っていないでしょう。
その一方で、もし米国自由人権協会(ACLU)などの団体がこれらの法に反対したとしても、僕らが原告側に加わるほど「同情的」かどうかは分かりません。迂回ソフトは、学校や家庭のフィルタリングソフトを回避するのに使われ、多くの論争を呼ぶものだからです。ほかにも、PGP暗号化ソフトウェアの作成者など、それほど議論の分かれないような問題について原告となり得る人がたくさんいて、この法案がいかに下らないかについて関心を集めることでしょう。ただ、これらの法案のうち一つでも通過して法廷に上がり、訴訟に参加するよう呼びかけられれば、参加するつもりです。
---これまで、公共のコンピュータにコンテンツフィルタリングソフトをインストールするという政府の方針に反対運動を起こしてきましたが、その政府と迂回ソフトに関して契約を結んだというのはどんな気持ちですか。
政府はこのソフトウェアを使って、家庭や学校で使われているフィルタリングプログラムを解除する立場にはありません。このソフトがそのような目的で使われたとしても、このソフトを差し押さえて、中国やサウジアラビアなど検閲のある国の人々の利用を禁じるほどではないと言う以外に政府の立場はないと考えています。
僕らとしては、ツールを作成しただけで、それがどう利用されようが知ったことではないと言い逃れることもできます。けれどそうではなく、僕らはこの機会を利用してはっきりした立場をとりました。僕らは積極的にこのソフトの使用をサポートし、家庭や学校のフィルタリングプログラムの回避に対して支援すると表明しています。もし、自分のコンピュータを所有することが法的に許されなかったり、法的には可能でも実際にはコンピュータを購入できないように終日無償で働かされている場合、自分がすべきことをするまででしょう。
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