当時、読んだ人がコメントを付けられるWeb日記システムのtDiary 、誰でもウェブブラウザから直接コンテンツを追加編集できるコンテンツ作成システムのWiki、参加者の関心事項を集めたコミュニティシステムの関心空間の3つが非常に面白いと思っていました。
tDiaryは、「個人でホームページを運営する上で持続可能なモデルの完成系」だと思っています。私自身もかなり時間をかけてホームページを運営したことがあるのですが、やはりなかなか続かないですよね。少なくともこれだけなら続けられるというものは何かと考えたとき、日記と掲示板が一番継続可能なものだと思っていました。tDiaryは日記と掲示板を一体にしたようなものなので、これは個人ホームページを作るうえで唯一持続可能なモデルだと感じたのです。
Wikiは、「誰でも編集できるコンテンツ作成ツール」という概念に興味がありました。はてなでは開発チームでグループウェア的にWikiを利用し、情報共有を行っています。社内で使い倒していますね。
ただ、Wikiの課題は、作成したページの更新が滞り、情報が古くなってしまうことだと思っています。初めのうち利用者はページをたくさん作るのですが、もう1度ページを再編集しようと思わせるトリガーがない。そう考えるとWikiは情報を本棚のように整理するためには非常に便利なのですが、毎日何かしらのアクションがあるのがウェブサイトの面白みだという考え方からすると、更新が滞りがちで、物足りなさを感じました。
関心空間は、Wikiのように自分が関心のある情報を本棚や宝石箱のように整理しておく部分と、その関心を元にしたコミュニティが融合している。そこがすごいと思いました。また、デザインが優れていて参加したいと思わせる点もすばらしい。ただ、関心空間もWikiと同じで、1度ページに書いた情報を更新しようというトリガーがないので更新が滞り、情報が沈殿する感じがしています。
これらを参考にしながら、情報の更新性を保つためには日記の形式がいいのではないかということと、継続可能で毎日更新されるWikiを作りたいという考えから、最終的に現在のはてなダイアリーの形になりました。
---2001年7月に人力検索サイトはてなを開始され、その後2002年5月にはてなアンテナ、2003年3月にはてなダイアリーを開始されています。新規サービスの開発スピードが非常に早いと思うのですが、どのように開発を行っているのですか?
やりたいと思う人と、作っている人が一体だから強いのだと思います。建築で言えば、工務店・施工主・建築家が全部一緒で、資材と土地も自由に使える。そういう会社は、できることが他と違ってくると思うんです。この強みを生かしたスタイルでいきたいですね。
---収益面では、今後どのような展開を考えていますか?
個人に対して月額で課金するという方法も検討もしています。1万人の利用者が月に100円ずつ払えば、月額100万円の収入になります。また、現在ページビューが非常に伸びていますので、広告収入の可能性も考えています。ただ、実際のところはまだ模索中ですね。他に、個人向けのサービスを提供することで名前が知られて、受託の開発の仕事が発生してきているケースもあります。
現在注目している面白いアイデアとしては、「投げ銭」システムがあります。ユーザーが面白いと思う日記やよく利用するアンテナに対して、はてなのポイントを支払うシステムです。そういった形でポイントが流通し始めると、ポイントの購入や換金が促進されると思います。インターネットでは価値のあるものに対して対価を払うということはまだあまりないので、そういうことを実現できればと思います。携帯電話のように、面白いことをやっている人が対価をきちんともらえる健全なモデルというのはやはりすごいですね(編集部注:このインタビューの後、4月4日より投げ銭システムが導入されています)。
運営に関しては、コストをとにかく抑えているのでリスクはほとんどありません。はてなでは3つのサービスを提供するのにサーバーを20台使っていますが、自分達でマシンから組み立てています。
---他に注目しているインターネットのサービスは?
先ほどもお話した、tDiary、Wiki、関心空間のほかには、ishinaoに注目しています。
ishinaoさんは、面白いオンラインサービスのアイデアを考え、そのままサイトを構築して、一般にむけて提供している方で、そのスタイルを非常に尊敬しています。例えば、いろいろなサイトに掲載されている書籍のISBNコードを解析しておき、書評が書いてあるホームページを横断的に検索するサービスなどを企画開発されていますね。
他に注目しているのは、2ちゃんねるですね。やはり、2ちゃんねるは一つの独自のコミュニティが形成されていると思っています。マイナスの面もあると思いますが、それをプラスに向けていくにはどうすればいいのか、そこを考えていきたい。特に、2ちゃんねるによって人の欲求や心理が満足している部分もあると思いますので、そこがどういう部分なのか、なぜあんなに非常に盛り上がるのかといった点に興味があります。
---最近日本でもBlogが話題になっています。Blogの定義をめぐって議論も起きているところですが、その定義も含めてBlogに対してどのように感じているか教えてください。
まず、Blogがブームになっているという実感はあまりありません。いろいろな人に会いますが、Blogという言葉自体を知っている人もまだ少ないと思います。日本でも似たようなシステムはありましたが、米国のBlogの特徴として挙げられるのはジャーナリストなどが情報の1次ソースを提供してメディアの役割を果たしていたり、万人に向けて発信している部分ではないでしょうか。
ただ、はてなダイアリーが求めているところとは違うと思っています。メディア的なサービスよりも、もっと身近な関係を豊かにするサービスを実現したい。「人は一人では生きられない」と思うので、その大きな命題を解決するほうが現実的だと思っています。
例えばはてなダイアリーでは、横浜と大阪で離れて暮らしている親子が、お互いの生活の日記を書いてコミュニケーションしているケースがあります。こういう日記はその人たちにとって、どんなメディアよりも価値のある情報を提供していると思います。その人にとって価値のある情報を1 to 1でマッチングすることで、今まであまり価値のある情報とはみなされていなかったものが、大きな価値を持つようになる。そうすることで、世の中全体の価値の総体が大きくなると考えています
---はてなの今後のサービス・事業展開について教えてください。
次の新サービスについては「期待していてください」としか言えません。ただ、最近私が問題意識として感じているのは、日本の大人の文化の低さですね。大人が真剣に文化に貢献していないと感じています。それは、大人が「真剣に遊ぶ」ことが少ないからではないでしょうか。例えば、音楽を聞き、自分の考えを書いて、人と議論したりする。お互いを高めるコミュニティから文化が生まれると思うんです。パーソナルコンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイ博士などは子供の可能性を広げる活動をしていますが、日本ではまず大人の文化に取り組む必要がありますね。
そういうところで、はてなが少し貢献できるところがあるという気はしています。例えばはてなダイアリーでは今、短歌日記というものが生まれていまず。同じキーワードが入力された日記同士をつなぐという、はてなダイアリーの機能を利用したものです。ユーザーは日記の中で「短歌日記」と入力し、短歌を詠みます。すると、「短歌日記」と入力された日記同士がつながり、短歌クラブのようなものが生まれる。これはすごい文化ですよね。日常の中にそういう行為があることで、全体の文化レベルが上がっていくのではないか、そこにはてなが少しでも貢献できるのではないかと思っています。
インタビュアー略歴
田中良和
ソニーコミュニケーションネットワークを経て、2000年楽天株式会社入社。日本最大
級の日記コミュニティサービス「楽天広場」の他、オークション、アフィリエイトな
どの個人向けサービスの新規企画・開発を担当。
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