1999年、Marc FleuryはJavaベースのソフトウェア技術者としてSun Microsystemsにいた。その仕事に飽きた彼は、Java 2 Enterprise Edition(J2EE)仕様をベースとしたオープンソースによるアプリケーションサーバの実現に乗り出した。
それから4年、最初のひらめきは次第に実を結び始めている。Fleuryが同僚と一緒に作り上げたJBossが、Java開発者の間で大きく注目されているのだ。一般的に、プログラマからの人気はその技術の確かさを示す指標と言っていい。
JBossユーザーにサポートを提供するためにFleuryが創設した会社、JBoss Groupは現在、その存在感を増すための努力を続けている。Fleuryは、JBossがアプリケーションの作成だけでなく、JBossベースのサーバ上で企業の生産システムを運用してもらいたいと考えている。そこにJBoss Groupがサービスを提供し、収益を得ようという算段なのだ。
しかし、まだJBossが企業の選択肢の中に入ることはほとんどない。現在では、ほんの100名ほどのソース開発者と約30名のフルタイムの開発者を持つ、小さな集団でしかないのだ。にもかかわらず、フランス生まれの野心家であるFleuryは、現在広まっている商用JavaサーバソフトウェアをJBossが取って代わるだろうと語る。しかもそれは、Linuxが定番のサーバOSに取って代わった速さよりも、さらに速いと言うのだ。
---オープンソースのJBossは、Linuxのアプローチとどの辺りが違うのでしょうか。
Linuxは営利目的で作られたものではありません。Linuxの開発者であるLinus TorvaldsはLinux以外の仕事も持っています。また、LinuxにはRed Hatというサードパーティのパッケージ販売会社があります。それに対し、私達はきちんと収益を追求しています。システム構築や、コンサルティングなどをほとんど提供する必要のないLinuxに比べ、ミドルウェアの分野では多くのサービスを提供する機会があります。
ミドルウェアは、コンサルティングを要する場面が多いのです。JBoss Groupは開発者が全員コンサルティング業務に携わり、収益を上げています。私達の特徴は、技術者集団からJBoss Groupが創設され、この集団が会社を成長させていることにあります。私達は組織形態が確立しており、収益を重視しています。たまたま、研究開発においてオープンソースと言う体系を採り入れ、人員についてもオープンな発想で採用している、というだけです。
---オープンソースの開発者集団が営利企業に打ち勝つにはどのようにしたらいいと考えますか。
間違えないでください、JBoss Groupも営利企業です。つまり、私は弊社の開発者達を養っているのです。しかし、オープンソースは継続していけるのか、という質問はとても大事なポイントを突いていると思いますよ。一般的に、収益を産み出すことができなければ事業を継続することはできません。私は、弊社の開発者達が日々の生活費をまかなえるよう、収益を上げることに注力しています。それがJBoss Groupのスタイルです。
私達が革新を起こすのかという問題については、ミドルウェアに関する世界最大規模のカンファレンス「Middleware 2003」で行われた世界中の学術研究機関へのアンケート調査結果を見てください。私達はトップ10企業に選ばれ、基調講演に招待されています。これは、私にとって非常に意義深いことです。
---それにしても、JBossは比較的少ない人数の開発グループですね。
私達の扱うソフトはオープンソースですから、実際の開発者コミュニティは一晩に1000人も参加するわけではありません。しかし、JBossで生計を立てている開発者は30名ほどいます。純粋に開発と言う観点から見れば、非常に大きな集団です。開発側から見れば、これ以上大きくする必要はありません。
---J2EEに準拠することについては、どうお考えですか。準拠認定を受けられずに、仕様がばらばらになる危険性はありますか。
Sun Microsystemsの仕様に関して、目を向けなければならない面が2つあります。1つはSunのブランド、もう1つは互換性の問題です。Sunがブランドそのものであり、そのブランドをSun自身で所持し、ライセンスを供与しています。つまり、Sunが全てを管理しているのです。Sunの根底には、おそらくJ2EEに準拠した無料のアプリケーションサーバの存在を認めたくないという思いがあるのでしょう。なぜなら、同じJ2EE準拠のサーバが2台あれば、やはり無料のものが選ばれるからです。
もう1つは、規格準拠の問題です。JBoss Groupの名のもと、弊社の開発者たちはSun後援のJava Community Processという専門委員会に参加しています。この専門委員会では、アプリケーションサーバの仕様を作成しています。つまり、実際には私達が作っているアプリケーションサーバの仕様は専門委員会に反映されているのです(編集者注:このインタビュー後、SunはJBossに対してJ2EE準拠テストのライセンス提供を認めている(関連記事))。
---つまり、基本仕様には準拠するけれども、そこに独自の特性を加えているということですよね。
はい、そうです。私達はそれを「beyond J2EE」と呼んでいます。仕様の策定を待たずに機能を追加しています。仕様化が進めばそれに統一しますが、そこまでいくには時間が多少かかります。
---顧客がJBossを導入する上では、アプリケーションの移植を保証するJ2EE準拠の認定が重要ではないですか。
もちろん、そうです。J2EE準拠の枠をはずすつもりはありません。実際、市場でもJBoss Groupのサーバは最も標準に準拠した製品の一つとして知られています。BEA Systemsが新機能をリリースするのが早く、私達はたいてい2番目です。その後IBMが市場で遅れを取らないために新機能をリリースします。アプリケーションサーバ市場は統一されていると思いますし、確かに準拠認定というお墨付きを重視する人がいるのも理解しています。
---JBoss Groupの目標は、開発者たちから支持を受けるだけではなく、生産現場にも広くJBossを浸透させることだと以前おっしゃっていましたが、どのように広めようと考えていますか。
私達が持つ勝利の方程式にこだわるつもりです。それは、ボトムアップという方法です。開発者の間でJBossは熱狂的な支持を得ています。たとえ、彼らが私達のことを知らなくても、サーバを試すでしょうし、それは正常に動くはずです。そしてそれがまたファンを増やし、確かな基盤となるのです。
私達の重要課題は、企業の中でも裁量権のある上層部の人々に、オープンソースというものになじんでもらうことだと考えています。現在、オープンソースは偏見を持たれていると思うのです。それは、オープンソースではサポートを受けられない、という偏見です。
そこでまず、私達の製品上で顧客の業務が実行できるようにします。サービスは私達の得意分野です。自分たちが書いたプログラムを使ったサーバですから、誰よりも構成はよくわかっていまず。だからこそ良質のサービスを提供できるのです。さらに付け加えるならば、いくつかのアプリケーションサーバ向けのすばらしいサービスは、オープンソースコミュニティから登場しています。
---JBossの一番の魅力は、やはりその価格メリットにあるのでしょうか。
価格は特に最近、間違いなく大きな要因となっています。しかし、それだけではありません。年商50億ドルを誇るオフィス用品の米Corporate Expressでは、価格の問題は検討事項の5番目に来るそうです。システム可動性、つまり堅固な安定性が最優先される場合もあります。オープンソースは大概、コードベースで安定性があると言われています。
---ソフトウェアライセンスにかかる費用のうち、重要なのはサービスとサポートにかかる費用だといわれています。総費用を考えたらIBMの方が安価だと判断する人もいるのではないですか。
違います。値段なら私達の方が有利です。私達は今、オープンソースに対する偏見を変えようとしているところです。少し時間をください。私達の強みは、まさにサービスにあるのです。私達は専門家ですので、幅広いサポート力に優れています。大手IT企業、例えば米WorldComなどではJBossを採用する際、サポート面を重視したと聞きました。初めは、オープンソースではサポートがないのではと心配したそうです。まさにこれが世間の認識なのです。しかし、彼らは結局JBossを試してくれました。そして、直接サーバソフトを作成している人々とシステム調整をすることに慣れていないため、驚きを隠せないでいました。WorldComにとっては、初めての状況だったのでしょう。
---そもそも、なぜJBossを始めたのですか。
きっかけは、1999年にLinuxが爆発的に広まったあの時ですね。Linuxは、Windowsというパソコン用OSがあまりにも定着していたためにクライアント側では全く広まりませんでした。しかし、サーバ側では非常に使えるとわかったのです。私はサーバ側をオープンソースでやりたいと本気で考えました。今日オープンソース系で商業的に成功しているものは、ほとんどがこの分野です。
---Microsoftの.Netのアプローチはすばらしいとおっしゃていますが、どんな点を参考にしたいとお考えですか。
これはJ2EEの考え方とは異なるのですが、開発者がJ2EEを学ばないでも、.Net開発と同様にJavaオブジェクトを書くだけで、簡単にOSの提供するサービスを活用できるようにしたいと考えています。彼らが知っている書き方で、オブジェクトを書けばいい。そして、システムサービスを呼び出すために「このオブジェクトにこのサービスを提供してください」とXMLファイルで書くだけです。この方法なら、ずっとシンプルで、プログラミング作業が直感的に行えるというわけです。J2EEは膨大になりすぎています。
---では、問題は使いやすいツールを作成できるか、ということですか。
いえ、全く違います。BEAは、ツールによって利便性を確保しようとしました。しかし、Microsoftが気づいたように、フレームワークの構築こそが最も重要なのです。新しいAPI(Application Program Interface)を学習したり、アプリケーションのプログラムを作り直す必要のあるインターフェースを用いるよりは、既存のアプリケーションを使って、既存のオブジェクトと連動するようサーバを構築したい。問題は技術を単純化することにあるのです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力