オーバーチュアは1997年に米国でGoTo.comとして設立され、これまでのインターネット広告とは全く違った検索キーワード型広告、「スポンサードサーチ」でオンライン広告業界に旋風を巻き起こした。同社は検索サービスを自らポータル化するのではなく、主要ポータルサイトと契約してサービスを提供、提携サイトに広告を掲載するかたちで売上げを伸ばしている。2月6日に米国で発表された通期決算においても、同社の年間売上高は6億6770万ドルで前年比132%の伸び率を記録した。同様のサービスは検索エンジンのグーグルも2002年2月に米国で、同年8月に日本で開始している。
オーバーチュアは米国のみならず世界各国にてスポンサードサーチを提供している。英国、ドイツ、フランスに次いで2002年1月に日本法人を設立、同年12月4日には正式サービスを日本でも開始した。日本における業界内での注目度は高く、正式サービス開始以前に既に各ポータルサイトとの契約が成立した。現在オーバーチュアでは、goo、infoseek、Lycos、MSN、Yahoo!にてスポンサードサーチサービスを提供している。
オーバーチュア日本法人を率いるのは、通信系企業からソフトウェア企業、またネット業界など数々の企業にて代表を務めてきた鈴木茂人氏だ。ネット企業ではドットコムバブルも経験した鈴木氏だが、オーバーチュア日本法人の立ち上げにあたっては「このサービスなら成功する」と直感したという。日本法人設立から1年、不況続きのこの業界で勢いづく鈴木氏に、同社のビジネスについて、またその行方を聞いた。
――日本法人設立が昨年1月とのことですが、日本での投資規模はどれくらいなのでしょう。また、現在の従業員数など教えていただけますか。
資本金は1千万です。米国の100%子会社なので、米国より資金面での援助を受けつつやっています。日本での従業員数は、今月末で約70名程度となる予定です。これで人材の基盤はほぼ整いつつあります。
――現在の広告主の数を教えていただけますか。
広告主は全世界で昨年12月末に8万となりました。日本では、今年1月末に1千を超えています。サービス開始2カ月でこの数字は期待以上でしたね。その後も広告主の数は順調に伸びていて、グローバルベースでは月に約2千社といったペースで伸びています。
――いろんな業界の広告があるとのことですが、何か面白いケースはありましたか。
ネット業界とは全く関係のない業界からの広告は非常に新鮮ですね。異業種の場合、ウェブサイトを用意していても有効に活用できていないケースがあるものです。例えば屋形船業者の広告があるのですが、この企業ではスポンサードサーチに登録直後、まずアクセス数が200%アップしたそうです。また、昨年末に登録キーワードを「屋形船」だけでなく、「夜景」などといった直接屋形船とは関係がなさそうなものも追加したところ、忘年会シーズンでアクセス数が多い12月よりも1月のクリック数が上回ったとのことです。通常屋形船というとシーズンはやはり夏だそうなのですが、今では季節に関係なく新規のお客様が増えているとのことです。
――グーグルのアドワーズ広告とよく比較されているようですが、オーバーチュアの強みは何ですか。
オーバーチュアでは、従業員の約3分の1をエディトリアルチームが占めています。そこで広告のタイトルや説明文を作ったり、ガイドラインを決めてスクリーニングの業務を行ったりしています。つまり、機械的なシステムで処理する部分と、人間的な目や経験で見て処理する部分をうまく融合させているのです。これはアメリカでスタートしたビジネスですが、日本に合っているのではないかと思います。日本人はヒューマンタッチを非常に大切にしますから。このお陰で、検索結果の質が高いということはよく言われますし、スクリーニング作業があるので、変な広告が掲載されることはないようにしています。
――その部分がグーグルにはないと。
グーグルでは、ページランクがその役目を果たしているという位置づけなのでしょう。
――具体的にスクリーニングとはどのようなものですか。
やはり広告として掲載できないと判断したものはスクリーニングにひっかかります。例えば薬事法に触れるような健康食品ですね。「癌に効きます」とサイトで謳っているようなものもありますから。このような場合は「健康にいいです」といった表現に変えてもらうようにします。美容整形も誇大広告になりがちなものがあります。「美人になります」という言い方は客観性に欠けますしね。また、地方のビジネスホテルから「ホテル」というキーワードを登録したいとの申し出があったのですが、これは地方にしかないホテルだったので、「地方名」と「ホテル」で登録してもらうように薦めたりもしました。「ホテル」だけで検索をかけてくる人は、きっと全国展開の有名ホテルチェーンをイメージするだろうと考えたからです。このような作業をしないと、やはり検索をかけてくるユーザーにとって必要な検索結果を提供できないことになってしまいますから。
――3月に代理店認定制度を発表されましたね。これは御社の営業部分にどう関わってくるのでしょう。
今回6社の代理店を認定させていただき、2日間かけてスポンサードサーチサービスの管理ツールや画面操作などのトレーニングを行いました。これにより、代理店はわれわれに頼らなくても独自のパワーで広告主にサービスが提供できるようになりました。広告主にとっては、オーバーチュアのサービスをなじみのある代理店に任せられるというメリットがあり、代理店にとっては代理店として新たな付加価値を提供できることになります。またわれわれからすると、代理店を通して幅広い顧客にリーチできますし、オペレーションを外部に任せることで内部業務はコンサルティングなど他の顧客管理業務に注力できるというメリットがあるわけです。日本の代理店は、海外の代理店には真似できないようなネットワークがありますからね。もちろん、最後の品質管理の部分はオーバーチュア内部で行いますので、ムラのないサービスを提供することに違いはありません。
――広告主は、大企業と中・小規模の企業とではどちらが多いのですか。
アメリカやヨーロッパでは比較的小さな企業の比率が多く、オンライン上で自ら登録してくる広告主が多いようですが、日本はそうではないだろうと当初から予測していました。というのは、中小企業にサービスが知れ渡るまでに時間がかかるだろうと考えたからです。一方日本では代理店のネットワークがしっかりしているので、中規模以上の顧客に広まるのは早いだろうと思っていました。この予測は的中したといえます。もちろん、海外に比べると比率は低いですが、小規模の企業からの広告も順調に増えています。規模の大きな企業は数としては限りがありますが、今後比較的小さな規模の広告主が増えていくのは確実でしょう。
――日本で黒字転換するのはいつ頃を目標にしていますか。
英国で黒字転換までに1年半かかりましたが、日本ではそれより短期間での黒字転換を目標にしています。
――米国では2月18日にAltaVistaの買収、また2月25日にはノルウェーのFast Search & Transfer社ウェブ検索部門の買収を発表していますね。それぞれの買収目的は何なのでしょう。現在御社ではInktomiのサービスを利用しているようですが、この買収でInktomiは影響を受けるのでしょうか。また日本のサービスが影響を受けることはありますか。
詳細は現在米国で話を進めているところですが、サービス品質の向上と提供できるサービスメニューの拡張を目指しています。AltaVistaについては、いろいろな新サービスのテストなどを実施したいという考えです。Fastは検索エンジンとしての勢力が強いので、われわれのスポンサードサーチと組み合わせて体制を整えたいという意味合いがあります。ただ両契約共に買収が完了したわけではないので、それが具体的にどういった影響を与えるかについてはまだ何ともいえません。
――日本では主要なポータルサイト5社と正式サービス開始前から契約されていましたね。これは大仕事だったと思いますが、それを成し遂げた今、今後はどういった方面に力を入れていく予定ですか。
このビジネスは、物を売ってそれで終わり、というビジネスとは違い、積み上げ方式で継続していくものなんです。今月売れた広告は次の月も引き続き売れる可能性が高く、翌月は予算も多く見積もってもらえるケースが多い。というのは、検索のボリュームが多いので、月の半ばで予算を消化してしまう場合があるのです。効果が見えているのに加え、途中で予算を使い果たしてしまうとなると、翌月には予算を増やす広告主が多いですね。そういった顧客の期待にこたえるためにも、サービス品質をさらに向上させていくことが大切だと思っています。
ただ、日本ではまだスポンサードサーチが普及しているわけではないので、それをいかに根付かせていくかというのが第一だと考えています。米国ではこのサービスもかなり普及しており、ほとんど口コミだけで広告主が増えている状態です。日本でも徐々に「点」から「線」になりつつあります。先ほどお話しした屋形船も、最初1社のみだったのが現在では5社に増えました。これも屋形船業界内で口コミで広がったからでしょう。今後こういうケースは時間が経つにつれ増えていくと思うので、どこまでこのサービスが拡大するか楽しみです。
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